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10日目 更なる襲撃

 雷太は久々に快適な目覚めをえた気がした。


 里に来てからはずっと頭脳労働ばかりだったところで、巨大ミミズとの戦闘とその事後処理で適度な運動をした事、さらに始めて経験する魔力欠乏症の解消が、肩こりがとれた時のようなスッキリとした感覚をもたらしていた。


「よし、今日も一日がんばりますか」


 わざと声にだして更に気合を入れる。とはいえ、やはり睡眠時間を短く収められるよう訓練されている雷太の他に起きている者はまだなく、太陽すら浮かんでいないのだが。


 老人たちにも回復の希望が見えてきたとはいえ、早起きしてでもやっておくべきことはまだまだ残っている。


 あくまで雷太が調査員としてやるべき事は、この天体にとどまらず、この平行宇宙全体の観測と、さらなる詳細な調査を行うための少しでも丈夫なあしがかりを築くことである。それには少しでも多く情報を集める事が必要だが、地球側の事情の変化から無人観測機などが追加され、バックアップが充実したおかげでこの天体の地理や生態系をもっと多角的にみる事ができるようになった。


 目先の問題が落ち着いてきたからこそ、本来の目的に戻るべきだと雷太は考えはじめていた。


 だとすれば、残り少ない時間で何ができるだろうか。


 地質に気候、植生調査とそこから派生して生態系の調査も。何事にも調査あるのみだが、アルカンコー族が全員とも持ち直したわけではないから、またあてのない探索の旅に戻るわけにもいかない。


 雷太個人は、カッシェルフがかつて身を置いていたという、現在では衰退、もしくは滅亡してしまったであろう文明の遺産を探しに行きたい。


 さらには、後続の調査隊や研究員のためだけでなく、自分の趣味としてももっと魔法を鍛えて色々な事をできるようにもなりたかった。魔法を習熟する事もそのまま本来の任務に勤めている事になるのだから、願ったりかなったりの状況である。


 しかしいかんせん、雷太の身体は一つしかなかった。


「気合を入れたのはいいが、何から手をつけたものか……」


 やるべきことが多すぎて、雷太は途方にくれそうになった。だがやはり、最優先にすべきなのは人命だろう。老人たちはまだ過半数が、ブドウ糖液によってかろうじて息をいつないでいる状態だ。若い衆の中でもドッヅグオンゾだけはまだ呼吸法を習得できていないし、もう少し上の世代にもまだ形だけの呼吸で魔力操作にまで手が届いて居ない者が何人かいる。


 彼らが魔力操作を絶対に習得できるカリキュラムを組むなど、雷太にはできない事だが、考える事をやめてはいけない。


 なんとか方法がないかと考えながら、今日の分のブドウ糖液を作り始めた。



 作っている途中でゾーリューネヅが起きてきたので、かくはんも分配もすべて任せ、改めて里全体の様子を見に行く。


 まだ空は東側が少しずつ白み始めたくらいで足元がやっと見えるくらいだが、夜更けよりも不思議と明るい今くらいの視界なら、スーツの視覚アシストがなくともそこそこ見える。もともと夜目が利くほうの雷太はあえてこの薄暗い雰囲気を楽しみながら狭い里の中を歩いて回る。


 異常はない。焚き火の広場だった場所だけはすさまじい違和感を放っていたが、内側の金属ももう冷えて固まったらしく、ふわりと雷太にひっついて来たアルフェーイたちが言うには、まとわりついていた火の魔力ももう散ってしまってほとんど影響がないくらいになっているらしい。


 まだ、よほど集中しなければ自力で魔力を感じられない事に不便さをおぼえながら、雷太は、まあいいかと一度だけ頷いた。


 なんとなしに、巨大ミミズだった柱から新たにサンプルをとって解析にかける。


「数値変動はほぼ無し……イリュートロン結合した粒子量もそのままか」


 魔力は抜けているという、しかしイリュートロンはそのまま検出された。これで、雷太がはじめ考えていた、魔力=イリュートロンという説が再び否定された事になり、軽く落ち込む。


「後続がしっかり解き明かしてくれる事を祈るか」


 とにかく見回りは終えたのだ、老人たちを集めたテントへ戻ろうと踵を返した時、雷太の耳と、スーツの拾音マイクが同時に異変を察知した。


「なんだ、この音」


 遠くから響く地鳴りのような、ドドドドという音。


 巨大ミミズが現れる直前にも似たような音がしていたが、その時は地面の揺れもセットでついてきた。今回は地震はなく音だけが響いている。


「……なんだ?」


 雷太は以前にこの音を聞いた事があるような気がした。しかし思い出せない。


 記憶の引き出しを探しつつ、巨大ミミズが現れる際に聞こえた音を、自動で集められていた映像記録から時間を指定し、さらにそこから音声だけを引き抜いて今聞こえている音とパターンを比較する。


「やっぱり不一致か」


 機械は、全く別の音だと解析し、表示した。


 巨大ミミズが現れる際にした音は地中から地面の広範囲を揺らして出ていた音であると。いま聞こえている音は地表を音源とし、太鼓のように地面を叩いて出る音が何十、何百と重なって聞こえているのだと。


 地面を叩く何十、何百。雷太はハッと思いだす。


 かつて研修を受けた時、南アフリカの自然保護区内で聞いたヌーの大移動。何十万頭という大型の草食獣が無秩序に地面を踏み鳴らす音。その音に、そっくりだ。


「まて、という事は……?」


 そんな音を出す動物など、この世界に来て雷太は一種類しか見ていない。


 急いで里から音のする方角へ出ると、東の空、さらに白んだ夜明けの空を背にたちのぼる土煙。


 視覚アシストによって拡大すると、映ったのは大量の毛皮と角と蹄。


 いつだったかサンプル採取のために二体ほど仕留めた原生生物が大量の群れを作りまっすぐにこのアルカンコー族の里へ向かってきている。


「なんでよりによってまっすぐここなんだ……」


 数から言って撃退は無理だろう。進行方向をそらすくらいはできるだろうか。里の者たちは避難させるべきか。だとすればどの方角へ。どのくらいの時間でここまで来るのか。


 雷太の脳裏にさまざまな事が浮かぶ。


「全員起きろおぉおお!」


 何をするにもまずは起きなければ。雷太は里じゅうに響く声で叫んだ。



 帰還可能時刻まで、あと約31時間。

 どこかのタイミングでタイトルを変えます。


 すごく今更ですがタイトルの趣旨が非常に伝わりづらい事になっております


 もともとこのタイトルの意味は、完結したら活動報告にでも書きましょうかね

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