9日目 の終わりに
巨大ミミズの中を満たしていた鉛と鉄の混合金属はあらかた片付け終わった。
生物を焼き殺せるレベルのビームを魔法によってさらに超強化した延々と続く雷のようなものを地上から放った直後であるから、大気の状態も多少不安定になっていたが、すぐ収まるレベルに留まったようだ。広大な草原の真ん中にあるこの里は当たり前だが風通しが良い。気温も含めてすぐに元に戻るだろう。
とはいえ問題が何も残らなかったわけではない。
なにせ確実に仕留めはしたものの、死に絶えて巨大な金属の柱と化した巨大ミミズの直径3メートルあまりの巨体が、まだ7メートルほどの柱として残っており、地中にも10メートル近く突き刺さっている。
スーツの機能をフルに使ってもこれだけの体積を一度に収納する事はできない。
収納できなければ分解して鉛だけでも無害化したいところだ。雷太の記憶が確かならば、土と火の魔法の併用によって鉄と鉛を分離する事はできる。しかしやはりこれだけ大きいと雷太一人で行っていては埒が明かない。
何にするにしても大きさがネックになっていた。
「……封印して、彼らがちゃんと魔法を使えるようになったら、鉄器を作る素材として使えとでも教えておく。いや、それよりは後続の調査隊が来る方が早いか。何にしても封印しておくのが無難だな」
鉛による土壌汚染は長期的に見れば決して無視できない問題だが、少し先の事を考えてみると、そうそう長くは続かないだろうと思われた。
「とりあえず直接雨に打たれないようにして置けばいいか」
小さくつぶやくと雷太はコンソールを操作し、トリコポリカーボンシートを呼び出した。これは凄く丈夫なブルーシートのようなものだ。実体化させて近づくと、やはり金属の柱はまだ熱いのだが、宇宙空間の太陽光線が直接あたるような環境化での使用も想定された大きなシートは全く動じない。
「よっこらせっ!」
風の魔法を使いシートをひるがえし、その端っこを持ったまま跳び上がった。スーツのアシストと、さらに魔法までおぼえた雷太には7メートルなどたいした高さではない。大した予備動作もなく大きなシートを翻しながらもひょいと登り、まだ垂れ下がって入るシートを引っ張り上げていく。
シートは大きかった。もともとはさまざまな状況に合わせて、実体化させる前にサイズを決めて裁断されたものを呼び出すものだったものを、持ち込んだものすべてを一度に実体化させたのだ。
直径3メートルの柱の断面を見事にすっぽりと包み込むと、ひとまずはこれで良しとした。
こんな感じに事後処理を続けていき、アルカンコー族を呼び戻してもかまわない状態になったのは夕暮れになってからの事だった。
それでも、まだすべての事後処理が終わったわけではない。
彼らが暮らすテントにはあちこちが焼けて穴が空いている状態だし、巨大ミミズが飛び出てくる直前に起きた揺れのせいで水がめが軒並み倒れてこぼれていた。そのほかの家財道具なども避難の際の混乱で散々な状態になっていて散々な有様だった。
アルカンコー族が戻ってから動けるようになった者が総出で片付けにあたったものの、結局その日のうちには終わらず、日も落ち、作業をしづらくなったため今日の復帰作業は打ち切りとした。
照明器具を実体化させて利用する事も考えたが、里全体を照らすためには数が足りないため誰に相談することもなく却下にした。
「じゃあまた明日集合って事で。まだ熱が残ってるからクソクライの残骸には触らないこと。あと、ジェシカとサザンカの話しではまだ火の魔力が強く中に残っているから、その魔力にアテられることもあるかもしれない。なるべくなら近づくのもやめておいたほうがいいだろう」
雷太が注意事項を述べると解散となった。
処理をしながら雷太にもいくつか思う事があった。ようやく一息つける状況になって、雷太はそれを思い返す。
病み上がりの者と、まだ治りきって居ない者ばかりでの事後処理であったため、ほとんどの者は一様に疲れた顔をしている。この、疲労の表情というのはやっと雷太にも見分けがつくようになった。単純にそれはうれしい。
彼らに見える表情が疲労だけだというのも雷太にはうれしかった。目にも耳にもド派手で強力な破壊をやって見せたにも関わらず、アルカンコー族の皆は雷太に今までどおり接してくれた。今だって怯える様子はなく、前にも増してむしろ大げさに、かつ親しげに接してくるようになった。
地球人の感覚では、「崇められる=距離を感じる」という図式が成り立つのだが、その辺りは違う感覚なのだろう。
ひとまず安心できると、次に頭に浮かぶのは反省だ。
まずは、巨大ミミズのこと。カッシェルフがいう所の糞喰らいについてだ。
本当は昨日、通信を終えた時にすぐにでも確認しておくべきだったのだろうが、それを怠ったのは完全に雷太の落ち度だ。しかも昨日の通信を思いだす限り、輝紗螺も雷太と共有化した資料を呼んで糞喰らいと呼ばれるものについて把握していたようだ。現場に居ない上司が知っているのに、現場で動いている部下が知らないというのは勉強不足と言われても何の反論もできない。
軽く自分を恥じながら雷太はデータベース内の糞喰らいの項目を読み、衝撃を受ける。
糞喰らいとは、地球のものとは全く形態の違った寄生生物の一種であった。
この星には4種類の糞喰らいがおり、それぞれ魔法の四大元素に特化している。
姿だけは総じてワーム、ミミズの形をしているが、産まれた場所によってその属性が変化する。
口には何でも入れてしまうが、その中に含まれる魔力そのものを主食とし、産まれた場所でしか生きられないような体をしているくせに、どういうわけか一つ所にとどまらない習性を持つらしく、新しい場所へ向かうために他の生物への寄生が必要とする
特徴からいって雷太が倒した糞喰らいは火の属性。火山か、マグマの中ででも産まれたのだろう。
そして驚くべきはその寄生方法だった。
糞喰らいはまず、自分の体の一部を寄生する生物の肉体の中に埋め込んでしまう。それも一体や二体ではなく、群れ単位、あるいは種族単位ですべての個体に体の一部を埋め込む。
埋め込まれた種族は長い年月をかけ、何世代にもわたり少しずつ内包する魔力の性質が変化していく。内包魔力の変化は、その生物の肉体をも変化させてしまい、肉体が変化した頃には、その種族は排泄物に糞喰らいが好む魔力を多量に含ませるようになる。糞喰らいはその排泄物を摂取する事で、身体に適さない環境下でも問題なく生きながらえられる。この、排泄物を食らう様子が名前の由来になっているわけだ。
寄生された生物は糞喰らいが食べられない魔力を食べられる魔力へ変換するための生体変換機へと改造されてしまうと言うこともできるだろう。
さらに恐ろしい事に、糞喰らいの中でもある程度大きくなった個体は、寄生した種族を利用して、自分が棲む場所ごと変化させ始める。その土地の植生や生態系を大きく変化させたあと、その土地の魔力を心行くまで食らった糞喰らいは、また気まぐれに別の土地に移って同じ事を繰り返す。
ただし、環境に影響を与えるほど大きくなる個体は非常に稀であり、めったに起こりえる事ではない。と書いてあるのだが、草原の異変も、アルカンコー族の不調も、すべてこの糞喰らいのせいだったのかと考えると、雷太はなんとも言えない気持ちになった。
さらに読み進めると、糞喰らいは棲家を移す際、寄生した対象は連れて行かない。しかし何らかの理由で糞喰らいが居なくなったあとも、寄生されていた種族はそのままその地域で何事も無かったかのように生息し続けるらしいとわかった。あくまで、依存し寄生しているのは糞喰らいの方であって、寄生される側は自分たちが寄生されているとも気づかないのかもしれない。
極めつけは、糞喰らい自体がどうやって増えるのかもわかっていないし、どうやって自分の身体の一部を相手に埋め込んでいるのかもわかっていない、謎のおおい種類の魔獣であるという事だった。
結局、わからない事だらけだったが、群れは作らないらしいから、第二の糞喰らいの来襲だけは心配しなくてもよさそうだ。
そんな安心を胸にしながらも、雷太はやはりこれまでの自分の行動に反省する。
あまりにも、場当たりで考え無しな行動が過ぎたようだ。
同時に、カッシェルフに言われた事を思いだす。
「一人でできる事には限界が、か……」
もしも、もう少し人数をそろえ、ちゃんとチームでこの世界に訪れていたのならば、役割分担を徹底して、せっかく手に入れられた資料に目を通しこの星に生息する担当を設けていれば、今回のような、行動拠点のド真ん中にむざむざ外敵が現れるというような失態はおかさなかったかもしれない。
戦闘に関してももっと人数がそろっていれば、もっと効率的に相手をして、貴重なサンプルを生け捕りにする事すら可能だったかもしれない。
それらはすべて可能性の話しに過ぎないが、雷太と同じ装備を整えた人間が四人も居れば現実味を帯びた話しだった。
とはいえ、人数の事は今後悔しても仕方ない。そもそも末端構成員である雷太の意見だけではどうにもできない決定だったのだから、ここで一人で後悔しても仕方ない。
せめて明日からはもっとちゃんと考えて行動しよう、そう思いながら雷太は帰還機能の残り時間をちらと見て、ゆっくりとまぶたを閉じる。
こんな悩み後悔も反省も帰ってからゆっくりと行う事になるだろう。そう思いながら眠気に逆らわずゆっくりと意識のレベルを落とした。
しかし残念な、この騒動はまだ完全には終わっていなかったのだ。
帰還可能時刻まで、あと約49時間。
暦の上では秋だそうですが、まだまだうだるような暑さが続いとります。
いやあ、やんなっちゃいますね




