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9日目 vs炎の使者 決着

 引鉄を、引く。



 このスナイパーライフルは、コンマ一秒にも満たない時間だけビームを発射して、標的を貫くという銃だ。


 内臓されるエネルギージェネレーターが毎秒発生させられるエネルギー量は、西暦時代の火力発電所が一年かけて作っていたエネルギー量と同等、それがメンテナンスフリーでだいたい五十年は動き続けるが、ビーム弾は鉛を触媒としてエネルギーから変換生成され、触媒一つあたりに生成されるビーム弾はおよそ三千発にとどまる。


 触媒は銃身の根幹部に埋め込まれているため、取替えは可能だが手動で行うと非常に手間がかかる。


 人間同士の戦争が行われれば三千発などすぐに使いきってしまう量だが、はじめから調査補助の目的で、遠くから調査・調達の障害となりえる対象を排除することを目的として開発された銃器であるため弾数制限は問題視されなかった。



 それが本来見込まれていた使われ方なのだが、雷太がこれを選んだ理由は別の所にある。


 一種の裏技のようなもので、エネルギージェネレーターのリミッターを解除する事で、ビーム弾を延々と照射し続ける事ができる。


 これをやると銃身はただではすまないが、これを試したバカな先人たちは全員ただですんでいる。


 そこにさらに魔法でビームを増幅することで、漫画やアニメに見たような、銃口よりもよほど太いビームを照射できないか、というのが雷太の狙いだった。



 手早く解除されたリミッターがスーツを通して警告してくるが、さきほどからスーツのバイタルチェッカーの方が激しい警告音を鳴らしているのであまり差がない。


 もろもろのわずらわしい音を無視し雷太は、


 引鉄を、引いた。



 瞬間、目の前に現れたのは雷太の思い描いた通りの光の柱。それも、夢に見た起動兵器が放っていたような、理想的なビームの柱だ。


 にも関わらず雷太はそのビームの柱を見て悦に浸る余裕などなかった。


 目前に迫るミミズの体躯のせいではない。発射そのものの反動のせいだった。


「ぐおっ! これは……予想うえっ!」


 雷太の素の力をスーツのフィジカルアシストが全力でフォローしているというのに全く抑えられる気がしない。


 さらに加速する思考の中でゆっくり自分の上体がビームの反動で上に傾いて行くのを歯を食いしばりながら認識していた。


 と、不意に背中から力が加わる。後ろを振り返る余裕などないが、視界の端に表示されたのは背後で必死に光っている黄緑色の光点だった。おそらく強風を起こして雷太を背中から押し返そうとしているのだろう。まさしく雷太が望んでいた理想的なフォローだ。


 銃身を支える両腕に意識を集中の重点と、フィジカルアシストのエネルギーを移動させながら、雷太はさらに強く引鉄を握りこむ。


 既に目いっぱいの出力で発射されていたため銃身が放つ威力は増えなかったが、さらに気合を入れた事で魔法による増幅は強くなる。その増幅されているビームの光が強すぎてスーツの減光調節がまだ追いつかない、おかげで巨大ミミズがどうなっているのかわからない。他にしようもなく手元を見ると高純度タングステンメタルの銃身が発射されているビームのエネルギーに負けて赤熱しはじめた。


 もって五秒。十秒以上は絶対にたないだろう。


 雷太は限界まで引鉄を引き続けると決め、視覚による情報調達を諦め、記憶に頼る事にした。


 発射する直前の巨大ミミズの位置を思い浮かべ、始めにビームが直撃した箇所と反動で傾いた角度を大雑把に計算する。その予測に従い、まだビームが直撃していないだろうもっと頭部へ銃口を向けるべく、ゆっくりと身体ごと銃口を上へ傾ける。


 実測時間にして予測していた五秒が経つ。加速した雷太の体感時間の中では一分を越えていたかもしれない。


 銃身が焼ききれて膨張崩壊する前に、触媒が尽き、それを感知したシステムがエネルギーの生成をやめた。


 急に反動がなくなったせいで雷太は前のめりに倒れそうになる。


「っと……ととお」


 ようやく思考が通常の速度に戻った時、まず雷太の目に移ったのは必死に銃身に氷を貼り付けて冷却をしようとしているサザンカの姿。同時に、ただの光点であるにも関わらず、肩で息をする、という表現がピッタリなジェシカの姿だった。


「はは」


 なんとも緊張感のない二体の姿に雷太は乾いた笑いをしてしまったが、油断なく回りを見る。


 雷太が心配した、巨大ミミズの大爆発はなかったようだ。ひとまずは安心したが、赤熱した金属のしぶきが辺りに散らばってテントに火をつけている。


「サザンカ、ジェシカ、まず消火だ。ライフル(それ)は放っといていい」


 ヘルメットを収納しながらそういうとアルフェーイは散開して個別に消火を行っていくが、それを確認する前に雷太はまず顔をしかめた。


「熱っ」


 極太のビームと体内に高熱を秘めていた巨大なミミズがぶつかりあったのだから、何も不思議な事はない。むしろ素肌が触れても焼けない温度でとどまっていたのが不思議なくらいだが、その辺りはアルフェーイのどちらかが気をきかせてくれたのかもしれない。


 さらに、サザンカの操作がとけた魔法の氷があっというまに溶けて蒸発したのを雷太は見逃さなかったが、見なかった事にして再び情報化して収納した。


 またエラーを吐き出したから、再び使えるようになるまでにはしばらく時間がかかるだろう。それでも、再使用の見込みがあるだけ御の字というものだ。


「はあ」


 一度、全身で深呼吸し、改めて辺りを見回そうと身体をひねったとき、雷太は真後ろ、ほんの少しだけ離れた場所にあったそれを見てギョッと身を硬くした。


 ドロドロに溶けた金属が入っていたらしいゴムのようなものの筒。

間違いなく、巨大ミミズの頭部である。


 筒の中からこぼれだした金属は今にも雷太へ届きそうになっていて、それが放つ熱気もたまったものではなかった。雷太が嫌っているハズのヘルメットを再展開するほど凄まじいものだった。


「けど、まあ……」


 完全に身体を分断されたどころか、大部分を巨大なビームに飲まれて蒸発させられたミミズ。念のためにとじっと見張るが、さすがにもう動かなかった。


 その頭部が落ちている場所から考えて、本当にギリギリの所だっただろう。回りのテントの被害も考え、決して圧勝とは言い切れないが、人的被害はでていないハズである。それを考えれば、これは間違いなく勝利だった。


「よっし」


 誰にも聞こえないヘルメットの中、しかし記録には残るヘルメットの中で、雷太は一人小さく勝ち鬨をあげた。



 帰還可能時刻まで、あと約64時間。

ケッチャコ

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