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9日目 vs炎の使者

 溶けた金属の塊をよけつつ、雷太は必死に打開策を模索する。


 そこでまず思いついたのは、たった今よけたばかりの溶けた金属塊だ。


 このどろどろに溶けた金属の正体こそわからないが、何にせよ金属が赤熱して溶けるほどの熱量は、あの巨大ミミズの中にある膨大なエネルギーの一部に違いないのではないか。


 だとすれば、この金属塊を吐き出させ続ければ、膨大なエネルギーを消費させ、無力化ないし、外から刺激を加えて倒しても問題ないくらいに沈静化させる事は可能であるはずだ。


「こっちだ、もっと吐いてみろ!」


 雷太の挑発を聞いてか否か、狙い通り巨大ミミズはまた溶けた金属塊を吐き出した。


 こんどは来るとわかっていた事だ。


 スーツに守られてノーダメージですむとはいえ無駄に熱い思いをしたくない雷太はきっちりと弾道を読んで難なく避けた、かに思われたのだが、なぜか金属塊は空中でうねうねと動きながら静止する。


「んん?」


 まさかまた未知の攻撃手段があるのか、と身構えたがどうも様子が違う。金属塊のちょうど真上をよく見ると、ジェシカが体を一際つよく輝かせながら風を操って金属塊を空中に支えているようである。


「無理すんな、まだ人が居るテントにさえ落とさなければいい!」


 こんどの指示は聞いてくれたようだ。了承を示す短いサインで一度だけ明滅するとジェシカは再び巨大ミミズ本体の方へ飛んでき、風で作った刃を飛ばした。


「あんまり不用意に体を傷つけるのは……」


 下手に触れたら爆発するのでは、と考える雷太はあまりやってほしくない事だったのだが、巨大ミミズとは別の場所から大量のイリュートロン反応を検出して思わず振り返った。


「んなっ!?」


 振り返ったとたんに辺りが暗くなる。そこにあったのは、茶色く巨大な塊だった。


「カタマリばっかいっぱい飛んでやがる!」


 よくよく見ればそれは土で濁った水だ。雷太は川がこの集落から少しはなれた場所に流れている事を思いだす。そして、水とくれば。


「サザンカ!?」


 水の塊の進行方向には青白い光点が浮かんでいる。間違いない。


「火には水か。けどこれって……」


 巨大ミミズの表面温度は100℃に及ぶか否かという程度だが、内部は溶鉱炉に近い。そんなものに大量の水がかかれば水蒸気爆発がおこるのではないか。雷太の顔が青ざめる。


「まっ!」


 止める声は間に合わなかった。


 大量の水が塊のまま巨大ミミズの頭の上からそそぎ、地表に出ている部分をすっぽりと包み込む。


 が、雷太が予想したような事にはならなかった。


「あ、あれ?」


 雷太は拍子抜けした。いきなり爆発はしないにしても、100℃にはなるのだから触れた端から沸騰してボコボコと音をたてるくらいは何もおかしくない。しかし雷太の目の前ではそれすら起きない。


「あれー?」


 巨大ミミズは濁った水に包まれて直接には見えなくなってしまった。雷太は赤外線可視化、紫外線可視化の補助があるため多少機械的な処理がかかった状態だが相変わらずその姿が見えている。


 雷太の目に映っているのは、水に包まれてからどういうわけだか苦しそうに巨体をくねらせるミミズの姿。


 水そのものは、濁っているおかげか不純物の流動から水の流れがよく見えた。


 ほぼ、不動である。


 それどころか、水は15℃ほどの低温を保ったまま安定しすさまじい勢いで巨大ミミズから温度を、エネルギーを奪っている。


 さらに、ジェシカがカマイタチの刃で傷つけていた部分から巨大ミミズの内側にまで入り込んでいるらしく、内部に蓄えられていた膨大なエネルギーも少しずつ削られているのが見て取れた。


「なんてこったい」


 雷太は一連の光景を呆然と見守るしかできなかった。これが、魔法の、アルフェーイの力か、と。


 このままでは雷太の活躍する場がなくなってしまいそうだが、雷太には別に活躍願望などないのでそれはかまわない思っていた。むしろ、自分の労力が減っていいとすら。自分はこのまま油断なく巨大ミミズの観察を続け、異変があるようならばすぐにそれを知らせられるようにしておけばいい。


 だがおそらく、このまますんなりとは行かないだろうなという予感は、雷太は既に感じていた。


「………順調にエネルギー総量は下がっているが」


 雨の日、道路にミミズが上がってくる理由はなんだっただろうか。あれは決して湿気を好んでいるから直接雨に当たるために来ている、などというわけではない。むしろ逆で、空気を含むやわらかい土に水が染み込んで呼吸ができなくなるからだ。


 その状況を、そのままあの巨大ミミズに置き換えた場合、どうなるだろう。


 雷太がその考えに至った時、まるで計ったかのように地面がグラグラと揺れ始めた。


「二人とも離れろ!」


 既に周囲には生物の反応がなかった。里のアルカンコー族たちはある程度は離れられたようだ。


「はやく離れろ!」


 未だにしつこく水をまとわりつかせているサザンカに向けて強く叫ぶ。サザンカは少し迷った。決意するまで待たず、巨大ミミズはその巨体のうちにあるエネルギーを爆発させるように、埋まっていた残り九割以上の身体を地上へと突き出した。


「ああぁぁ! まずい!」


 その様は突如として現れた塔のようだ。しかし、当たり前だが塔などではない。


 サザンカの無事を確認する暇もなく、それがゆっくりと傾き始めたのがわかると、間違いなく自分を狙ってきていると雷太は確信する。


 倒れてくる。速度は上がる。加速度的に。同時に雷太の思考速度も上昇した。


「コール、ライフル!」


 ロケット砲でもぶち込めば空中で粉みじんにしてあの巨大ミミズが地面に衝突した時の衝撃を小さくする事もできるだろうが、地球から持ち込んだ装備に、この状況を打開できるような重火器は存在しない。地球から持ち込んだ技術だけでは到底不可能だ。それでも、雷太は手元にスナイパーライフルを具体化して握りこむ。


「ジェシカ! フォロー!」


 次に、いち早く巨大ミミズから距離をとって無事だったアルフェーイを自分のもとへ呼び戻す。


「背後についてくれ」


 細かく説明する暇などない。とにかく、でたとこ勝負でこの小さな黄緑色の光点が上手くフォローをしてくれればいいなと思った。


 そうして、雷太は自分の中の魔力を急激に高める。


「んん!」


 カッシェルフから渡された液化魔力を飲み下したような焦燥感に襲われる。あの時は喉だけだったが今回は全身。しかし一度経験した感覚であるため雷太は動じない。スーツのバイタルチェッカーが激しく異常を告げるが完全に無視した。今回はこの感覚を自ら操っているのだ。


 氷の翼を作り出す魔法、その翼に風を当てる魔法、両方を同時に使った時ですらこんなに激しい感覚には襲われなかった。それほどに体内の魔力を高めている。


 高めた魔力を、腕を通してライフルへとそそぎ込む。


 完全にぶっつけ本番だが、雷太はこのスナイパーライフルから発射されるエネルギー弾を増幅する魔法を使うつもりだ。上手く行くかはわからないが、ダメそうなら走って逃げる。


 爆発された時の事も考え、ヘルメットも展開する。


 雷太の中からライフルへと入り込んだ魔力が、銃口の先端に集中しはじめた。


 それを確認してからようやく、雷太は銃口を目前に迫る巨大ミミズの巨躯に向け、引鉄に指をかけた。



 帰還可能時刻まで、あと約65時間。

今回は流れを意識したいので二話更新

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