8日目 奇妙な三者面談
「雷太か。おまえの言うとおりだったぞ。炎そのものからはどうやっても残滓は確認されず、ああ、いや、イリュートロンだったか、それは反応しなかったが、炎に触れている空気から大量のイリュートロンが反応した。わたしにはよくわからないが、おまえは理由に見当がついているのだろう?」
成果を報告するカッシェルフはすこしばかり憔悴した様子だった。
「うん。俺の世界だと義務教育レベルの簡単な理科だ。こっちの世界でもある程度は物理学が通用するらしい」
「ム…ふむ。やはりわたしもまだまだ学ぶべき事が多いようだ。おまえの後続とやら、期待しているぞ」
「ああ。どんな奴が来るかはまだわかんないけどな」
この通信も記録しているし、先ほど地球側と共有化したデータの中にもあの時までに行ったカッシェルフとの通信は入っていたはずだ。カッシェルフが地球側の技術を学ぶことを望んでいる事はすぐにあちらに知られるだろう。その意に沿うような人選をするかは、主任こと北条輝紗螺のさじ加減だ。
「とにかくこれで、イリュートロンと魔力が密接に関わっている事は確定的になったな。どう関係してるかは、あんたと、後続に任せるしかないけど。なあ、イリュートロンが混ざった空気や水が、生き物の身体に害を及ぼす可能性ってのは無いか?」
名目上、雷太が魔法を研究するのは先行調査員として当然の事だ。なのだが、雷太の心情的な優先順位は、老人達の延命治療、同時にまだ根治の見込みのある若者達への助けだ。どれだけ調べても調べすぎて無意味になるという事はあるまいが、そこに繋がらないのならば今はあまり興味を持てない。
「む、ちょうどその話をしようとしていた所なのだ」
「お? なんだ?」
特効薬か何かを思いついたのだろうか、アルカンコー族の中でも特別飲み込みの悪い者たちへの指導で疲れていた雷太は、ついそんな都合のいい事を期待した。もちろんそんなものはない。
「昨日、おまえが仕留めていた草食獣の事だが、腹の中から火の魔石を取り出していたな?」
魔石。急に新しい単語が出てきたが、雷太にはこの単語を翻訳した覚えがあった。でなければとっさに魔石などと聞き取れない。しかしカッシェルフとの会話の中でこの単語が出た事はなかったはずだ。雷太は自分の記憶の中と記録装置のライブラリを同時に検索する。
「魔力を強く帯びた石状の物体。魔法を使う獣の中から多く発見される」
「そうだ。さては今まで忘れていたな?」
教科書を読み上げたような口調にカッシェルフはすぐ気づいたようだった。雷太がばつの悪い顔をするが、雷太の顔は向こうには映らない。
「しかしおかしいのだ、普通あのサイズの獣に人の拳よりも大きな魔石は生じない。しかもあの獣は平原に住み草を食む種だ、火の魔石が生じる事もおかしい」
「ふむふむ」
雷太はカッシェルフの話しを聞きながら並行してライブラリ内の魔石に関する記述を読んでいた。
魔石は大別して四種類ある。即ち、火、風、水、土。魔力を視認できるものは簡単に見分けをつけられるが、できないものでも、細かく砕いた時にどのような反応を示すかで簡単に分別できる。この、反応の種類数もかつて魔法が四種類のエレメントでできていると解釈された原因の一つであるらしい。
魔石は必ず、生き物の体内で生成される。今話に出ている火の魔石は草食獣の体内にあったが、必ずしも動物の中にあるとは限らず、通常よりも大きく育った樹木や、魔力の濃い地域に生息するものであれば小さくとも体内に魔石を抱えている可能性は高い。
そして今まさにカッシェルフが話している、生成される魔石の属性の特徴は感覚的であるがわかりやすい。主食としている物の性質がだいたい魔石にも反映される。
「あのような草をはむ獣であれば、草が持つ土と水と風の魔力によってそれぞれが干渉しあい中和され魔石が生成される事はほとんどない。草とともに土を食んでいる場合ならば可能性も無くは無いが、できても土の魔石だ」
「なるほど。確かにそうだ」
「じつはあの時には気づいていたのだが、何かと話すタイミングがそらされてしまったので今まで言いそびれていたのだが……」
また話が長い。眠気からくる苛立ちも来て雷太はとうとう口を挟む。
「結論を言って――ありゃ」
別の回線からの呼び出しコール。カッシェルフ以外の通信相手など現状で一つしかない。
「すまん、上司と繋ぐぞ」
おそらくまた急展開についてこれないのだろうな、とは思いつつ一応は一言断ってから、地球との通信を繋いだ。
「雷太か。まだ無事のようだな。既に一つ回線が開いているようだが」
「なん?」
「翻訳ライブラリも共有されてましたよね?」
「ああ、大丈夫だ。そちらの紳士にも私の言葉はそちらの言葉で聞こえているハズだ」
雷太には輝紗螺が母国語でしゃべっているように聞こえる。カッシェルフにはこの星の言葉で聞こえているだろう。自動翻訳機能の端末ごとの割り当てなど、情報端末を扱う上で基本中の基本だ。
「カッシェルフ、こちらは俺の上司。北条輝紗螺さんだ。今は通信だけでしかしゃべれないが頼れる上司だ。で、こちらがカッシェルフ。現地の協力者ということを公式にしておいてほしい」
カッシェルフは未だに植民地化された土地の原住民だという冗談をおぼえている。それを先につぶしておいた。
「お初にお目にかかるよカッシェルフ殿。こちらとそちらの交流が安定すれば、ぜひ一度直接お会いして話をしたい」
そういって輝紗螺がモニタの前で一礼する。カッシェルフも釣られて頭を下げた。
「う、うむ。こちらこそよろしく頼む。紹介された通りの者だが……むむ、いや失礼」
モニタ上に映される輝紗螺の顔を見て訝るカッシェルフ。雷太は苦笑しか出てこない。雷太自身も輝紗螺との初対面は似たようなものだった。
「それで雷太、話しの続きだが」
「それで雷太、話しがあるのだが」
かと思えば、二人の声が見事に重なった。
雷太は少し、嫌な予感がし始めた。
帰還可能時刻まで、あと役72時間。
PSO2のEp2面白いです^p^




