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1日目 調査と考察

 動く木の枝はしばらくピクピクと動いていたが、しばらくして動かなくなった。


 雷太はその間ずっと呆気にとられて動けなかった、などということはもちろん無く、

調査目的できているのだからしっかりとスーツの簡易解析機能を二度三度にわたり使い、可能な限り詳細に経過を見た。


 もともと、いま雷太が着ているスーツについている簡易解析機能はプロトタイプのようなものだ。解析専用の設備が整った研究所に持ち込むか、専用の機材をこの世界に持って来るかしなければ完全な解析は不可能である。


 しかし簡易的とはいえその場である程度のレベルの解析が可能であるというのは、それで搭載すべき機能なのだ。


「また未知の粒子だ。オルゴン粒子とも大きく異なる。一番近いのは……電子か」


 ピクピクと動いている間はほとんどトカゲの尻尾そのものだったが、動かなくなればその辺りに落ちている枯れ木の枝と見分けがつかなくなった。だが枯れ木と変わらなくなるのもおかしな話だ。なにせこの枝が幹から切り離されたのはつい先ほどの事なのだから、通常ならまだ水分が残る生木でなければならない。


「ふむ……」


 先ほどの動いていた状態の簡易解析結果と、現在の結果を比べると、未知の粒子の検出量は明らかに目減りしている。まるで時間の経過とともに外へ抜け出ていっているようだ。同時に、動きの激しさと粒子の量も比例している。


「どれどれ……」


 さらに試しにと、手近な木の枝を手折って解析にかける。すると新たに得た枝は瑞々しいにも関わらず新粒子が一切検出されず、動かなくなって枯れ枝になったそれからはわずかながらもまだ粒子が検出された。その他の物質構成はほとんど変わらず、強いて言えば動いていた方の枝には見た目どおり水分が足りないというくらいだろうか。


「電子、陽子、中性子に続く特殊原子構成因子……とでもいうべきか。となると、魔素子、は安直か? うむ、木が動く、イリュージョンみたいだったから、幻子まぼろしと書いてイリュートロンだ」


 思いついた仮称になかなかのセンスだと自画自賛し満足げな笑みを浮かべる。さっそくその仮称を登録し、解析結果のパターンと関連づけ、各種センサーの一部を連動させて次からは自動的にあの動く樹木の仲間を感知できるようにした。


 この拡張性の高さもこのスーツの特徴だ。


「次に遭ったら幹ごとだな……」


 雷太は不敵な笑みを浮かべながら再び山を登り始めた。


 ところが、山に登頂するまで雷太がまたあの動く樹木の仲間とであう事は一度もなかったのだった。



 ポイントゼロから出発して八時間、アルマディウムの遭遇からは四時間ほどたった。遭遇地点からは8キロ、ポイントゼロからは20キロほど離れている。


 テクノロジーが実体化したようなスーツに包まれているわりに進行速度は遅いが、途中で興味を引かれるものがあればその都度立ち止まってサンプルを採取していたた事が大きな要因だろう。こまめに採取を行ってきたおかげでサンプルはもう百に及んでいた。


 いくら小さいとはいえ小瓶をそれだけ持っていれば目立つものだが、そんな様子は雷太にはない。


 それもそのはず、平行世界との壁を突破するだけの技術を得た地球ではすでに、見かけ以上の収容能力をもつ装置の実用化を成功させていた。むしろ、平行世界を超える技術はその発展と言えるものだ。


 多くの武器装備は粒子レベルで分解され構成情報のみが記録・保存される。新たに取得した物資を収納する場合も同様だ。


 ただし、新たに取得した物資に関しては最低でも一度は簡易解析にかける必要があり、構成が完全に解析されていない新取得物などはふたたび取り出した時に構成情報が本来と大きくかけ離れてしまう可能性がある、などの難点は残っている。


 さらに、雷太はスーツの機能原理を完全に理解しているわけではないので気付いていないが、構成を完全把握している機器に関しても、世界の移動から何らかの影響を受けるのではないかという予想は立っていた。持ち込んだ銃器類が使えないのはまさにそのせいで、構成する物質の一部をこの世界にあわせ置換させなければならなかった為だ。


「にしてもでかい山だなぁ……」


 20キロも進んできて標高もそれなりに上がったが環境の変化がほとんどない。気圧すら大差ないというのはどういう事なのだろうか。


「……惑星の直径が地球と違う可能性か」


 少し前に自分がノリで放った言葉を思い出す。それがどうやら真実味を帯びてきた。


 しかし、こうして木々の枝々の合間に見える姿の頂きにはしっかりと白い冠が乗っているのだから、少なくとも気温は下がるはずである。周囲を一度ぐるりと見回して目新しいものを見つけられないと確認する。


 それでももくもくと登り続け、森林限界が近づいてきたことを植生に違いが出始めて知る。やはり高地に生息する植物の特徴も地球とほぼ変わりない。稀に食虫植物のようなものを見つけて期待するのだが、イリュートロンはでず、新たな粒子の発見もなかった。


 一応サンプルだけはとっておく。


 それにしても、地球とはやはり違う。広葉樹から針葉樹が主になり、木々の合間や根元に生える草花は小さく肉厚になった。そこまでは地球とほぼ同じだが、樹木そのものの背は一向に低くならず、むしろ幹は太く、背も高くなっている。


 気温は少しずつ下がっている。地球の植物でも一定以上の酸素濃度がなければ発芽しない、また一定以上の二酸化炭素濃度があると発芽しない、などの性質をもつ種類があったが、気圧は先ほどから大差ない。


 ひょっとすると、これらの樹木がある程度育ったあとに何らかの環境変化があったのかもしれない。雷太はそう見当をつけた。


 なにかの資料として役立つかもしれないと思った雷太は、地球ならば樹齢何千年になるだろうという大樹の樹皮を少し削りとり、ついでに近くに落ちていた松ぼっくりのような形の何かも拾い上げて解析にかけた。


 こんな調子でサンプルをとりながら雷太の異世界探査は続いていく。



 期間可能時刻まで、約294時間。


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