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8日目 能力の個人差

 日がのぼって里のテントに戻ると、すでにゾーリューネヅもオグゾンドールアもおきだしていて、目は覚めたもののまだ不調から体をおこせずにいる老人達の面倒をみていた。


「おはよう」

「「はよーごづまづ」」


 テントに入ってきた雷太に気づかなかったようなので声をかけると、二人からは元気な返事がかえってくる。オグゾンドールアと違い、ゾーリューネヅが魔力への適正を得る過程を雷太は見ていないので安心しきれない所があったのだが、どうやらゾーリューネヅは雷太がこの里に来る前に自力で適正を得ていたようだ。疲れこそ見えるものの魔力蓄積症の症状は全くない。それは機械で観測できるパラメーターにも裏打ちされている。


 そんないち早く病に克った二人が甲斐甲斐しく世話をする様子を横から見る限りでは、患者たちの中にも死相が浮かんでいるようなものは居ないようだった。あせらなくとも、もうしばらくは持つだろうと、雷太は楽観的に見た。


「さて、それじゃあ……」


 何か案が浮かぶまでは昨日のスケジュールを繰り返すつもりで、雷太は再びデータの収集に戻る。


 二人も飲み込みの早い看護助手を得ただけあって機械の解析処理が追いつかないほど収集速度が速まった。直接採血するのは助手に任せ、雷太は雷太にしかできないデータの整理に勤める。ついで今日からは、血液検査だけでなく簡易解析装置の遠隔照射も定時ごとに行うように指導した。


 二時間、三時間と続けて新しいデータが入っても、やはり数値の推移は変わらなかった。


 カッシェルフの書籍にあった通り、老人達は一人も魔力に適応できそうにない。根治は無理そうだと、昨日のうちにわかっていたものの、雷太はやはい歯がゆい気持ちでいっぱいだ。


 悔しさを押して淡々とデータの収集、整理に努めて気が滅入っていると、そのうち昨日は広場に移る時間が来た。


「じゃあ、若い集のところに行ってくるから、戻ってくるまでここを頼む。なんかあったら呼んでくれ」

「「あい」」


 二人の看護助手は見事に唱和した。



 焚き火の広場へ行くとさすがに全員起きていた。しかしいかに野生的な種族とはいえ、地べたに雑魚寝というのは辛かったようで全員どうにもスッキリしない表情だ。雷太も、目がトロンとしてやや充血していればそのくらいの表情の変化はわかるようになった。


「おはよう。全員辛そうだが、大丈夫か? おそらくそんな所で寝てたせいだとは思うが、ほとんどの者は病気を克服できてないわけだから、無理しないように」

「「「あーい」」」


 こちらも返事は上手いこと唱和したのだが、助手二人と違ってどうにもムサ苦しい。大半が男だからだろうか。


「賢者さまぁ、おきづげぇあづがつすとごすが、オイラだづぁ、そンのぉ、わがっだがもすんねづす」


 気遣いはありがたいが、自分達はわかったかもしれない。と言ったのはウヅスグルオンだった。他にも後ろに何人か控えていて同じような表情をしていた。


「わかったってのは、魔力を、か?」

「あい。魔力を、づす」

「ふむ」


 残念ながら雷太はまだカッシェルフのように、魔力を視認する事ができない。簡易解析装置を照射して今までの傾向を確かめる、というのも考えたが、それでは時間がかかりすぎるので見える者に判断を委ねることにした。


「二人とも、どう見る?」


 ジェシカは昨日からずっとアルカンコー族のお守りにつけていた。オグゾンドールアの容態について確かめるために一度戻って来てもらいはしたが、その後はまたお守りだ。サザンカは雷太のスーツのベルト部分にある隙間がお気に入りらしく、とくに自己主張することもなくずっとそこにいた。


 そんな二体のアルフェーイの雷太への返事は、雷太の見える範囲まで浮き上がってからの肯定の縦ゆれのみ。ストレートすぎて雷太は逆に不安になる。


「このまま放置しても大丈夫そう?」


 やはり同時に縦に揺れる。なるほど、と雷太はひとまず信用する事にした。


「じゃあ、君らはまだできてない人のところにいって練習を手伝うんだ。できない人一人に対して、君らも一人、そうやって少しずつできる人を増やしていく。いいな?」

「あい」


 代表してウヅスグルオンだけ声に出す。あとの若者は頷くだけだった。どうにもウヅスグルオン以外全員顔色が悪いように見えるのは雷太の気のせいではないだろう。


「ああ、まてまて。やっぱりしっかり休んでからだ。それまでは俺とジェシカで昨日の続きをやる」


 やっぱり不安だ。一つ前の指示を撤回して休むように言いつける。しかしなぜだか、若者達はひどい顔色のまま素直にそれを聞こうとしない。


「ンづすけンど……」

「けど、なんだ?」

「オイラたづだ、なんかしででっす」


 何かしていたい、と言う彼らはそれとなく必死な形相に見える。伝わってくるのは、焦りだろうか。


 雷太が見る限り、重症である老人達でさえまだ辛そうにしているだけで意識を保っているのだから、自力で助かる見込みのある彼らはもっと症状が軽い。彼らがなぜ焦っているのか、雷太には理解できない。


「……何かするためにも今は休め。ちゃんと動けないのに何かしても何にもならんぞ」


 少し迷ったが適当にそれっぽい事を言ってあしらう。思いのほか正論が出てしまって、里の若い集も納得するしかなかったようだ。おずおずともともと自分達がすんでいたテントへ戻って言った。


「よし。じゃ、再開するか。っとその前にみんな、朝飯はいいのか?」


 呼吸の授業の前に尋ねると、それでやっと思い出したようで、広場のあちこちから腹の虫がなり始める。


「そンやぁ、オイラたづ、昨日ン昼だっが、飯だ食っづぇねえ」

「え? 昨日の昼から?」


 まさか、と思う雷太。


「もしかして本当に昨日の昼からずっと、呼吸法の訓練だけやってたのか?」

「あい。賢者さまぁ、飯だ食っづぇえづ、いわンかがったづす」

「おいおい……」


 そんな細かい所まで指示しなければやれないのか、と。雷太は看護助手の両名の評価を上方修正するとともに、それ以外の里の者たちを大幅に下方修正したのだった。



 帰還可能時刻まであと、約94時間。


 助手についてる二人が特別有能なだけ、種族全体での平均的な学習能力はこんなもの

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