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7日目 三歩進んでしばらく止まる

 雷太は血液検査の範囲を広げ、データと病状の照らし合わせを徹底して行っていた。


 いくらハイテクノロジーの恩恵があっても地道なデータ収集というものはどうしても時間がかかる。その上人手が足りていない状態なので仕事はこなしてもこなしても増えるばかりだ。


 だが驚くことに、老人たちへの治療行為、里の若者たちに行っていた訓練、範囲を広げ新たに集めた血液の検査、三つの面からそれぞれ一定の成果は上がっていた。


 治療と血液検査に関しては、根治の目処が立つほどにまではいたっていないが、若者達はジェシカの吹かす風に合わせる事でほとんど全員が呼吸法をクリアし、そのうち何割かは初歩ながらも体内の魔力を操作する感覚を掴んだ。


 訓練を経ずに自然と魔力操作を身につける幼児たちのように呼吸と同じレベルで、とまでは行かないだろうが、その程度でも定期的にこの呼吸を行う事でもう悪性魔力蓄積症で命を落とす事はなくなる。ただ、身体が慣れなければ何をするにも息切れがとても早くなるらしい。


 治療と検査は表裏一体だ。別々のタイミングではじめ、そのまま別々に進めているが、検査の結果はそのまま治療のヒントになっている。


 症状から回復した幼児たちの血液を見ると、イリュートロンが結合した何らかの元素が含まれる割合は、未だに症状を出し続けている老人達の血液よりもずっと多い。これは、魔力に適応したからこそ多くのイリュートロンを体内に取り込めるようになった、と解釈できるし、カッシェルフの蔵書の中に唱えられていた説とも共通する考え方ではあるのだが、雷太は別の考えを持っていた。


「(こういう現象の収集こそ俺がこの世界に来た本分なんだが、まあ今は人命だ。仕方ないだろう)」


 独り言も自動的に記録に残される。雷太は内心を声には出さない。


 雷太が考えた新しい説は既にカッシェルフにも伝え、その可能性をカッシェルフが可能な方面からのアプローチで検証するように頼んである。どのくらいで結果が出るかはわからないし、その結果が今回の病気の治療に役立つかもわかったものではないが、雷太の後続の調査員、開発員たちの助けになる事は間違いないだろう。

 今はじっと黙って解析結果をにらみつけながらデータが蓄積されるのを待つしかない。



 雷太が考えた新説とは、魔力欠乏症と魔力蓄積症が、要因が違うだけでほぼ同じ病気なのではないか、というものだ。


 イリュートロンと魔力が同一のものであるかはまだ断定できないが、とても密接な関係にある事は間違いない。そこで雷太がひらめいたのは、イリュートロンがどの粒子に最も近い性質を持っているか、である。


 機械の観測によれば、イリュートロンは電子に最も近い性質を持つ。電子は原子同士の結合と、物質の温度状態に非常に強く影響する。


 スーツに内蔵されている簡易解析装置では、粒子の有無がわかっても、粒子の状態までは詳細に調べられないため、この場での判断はできないものの、魔法を使っている状態というのは、イリュートロンが活発に動いている状態なのではないか、雷太はそう考えた。


 では、それがどう治療に関わってくるのか。仮説はまだ続く。


 電子と似た性質ならば、活発に動くイリュートロンが結合している物質は、電子が活発に動いている物質と同じように不安定になるのではないか。電子レンジで水が蒸発するように、液体ならば液体の状態を保てなくなる、そんな事が生きた生物の体内で起きてしまったら、あまり想像したくない現象だ。


 ともかく、いきなり爆発するような激しい反応こそ見られないが、確実に何らかの影響を受けているから彼らは変調をきたしている。


 現状の設備ではどうしても細かな原因まで特定できないために、根治については彼らのあらゆる意味での抵抗力にまかせるしかなく、若者達はその抵抗力をもって快調へ向かい、老人達はもう自力で抵抗できるようになるだけの時間も体力も持たない。


 つまり、若者は勝手に助かる。老人はもう助からない。まわりくどく新しい道を探してそれを再確認しただけだったが、医療とはそこで終わるものではないのだ。


 ここから始まるのは延命治療。今まで探して打ち立てた新しい道、新しい仮説も今までそれすら不可能であると考えられていた延命治療を見つけるだけの成果はあるハズだと、雷太は諦めていなかった。



「平均値は取れたか……ここを基準値にしてみるかな」


 はっきり言ってこの里に完全に健康な者などまだ一人もいないのだが、一番調子が良いと見られる者の体液を何人分かチョイスして、体液に含まれる各種成分の平均値をとる。


 魔力にあてられて体内の何かが変質してしまった。それがおそらくは悪性魔力蓄積症の原因である。しかしそれを症状として訴えているのは、あくまで身体の器官のどこかだ。魔力のせいで変質してるから、これは元のモノとしては扱えないよ! というエラーを吐いているのだろう。


 雷太の中にもまず電子レンジと水の関係が頭に浮かんだため、雷太は体液中の水分が極端に少なくなっているせいで血液の流れが悪くなっているのでは、と簡単に予想していたのだが、どうも違うらしい。


「あれぇ……」


 どうやら生物の身体と違い、高度に簡易化された機械は本当に機械的にしか物質の有無を判断してくれない。


 そんな機械のてにかかれば、調子が良くなる者と、悪くなる一方の者との血液成分の差は、個人差の範囲内にまとめられてしまった。水分、塩分、鉄分、脂肪分に糖分、あらゆる成分が異常なしと出る。


 どうも一筋縄ではいかない。雷太は再びもどかしさを感じ始める。


「(落ち着け……まだ治療を模索しはじめて二日目なんだ。そうそう簡単に成果があがるわけはないんだ……)」


 明確なあせりを自分の中に自覚した雷太は、少し目をつぶって呼吸を整えた。


「あンのぉ……も、おぐづでん、えづすけ?」

「おぐづでん? あ、うん。もう起きれそうなら起きてもいいぞ」


 深刻そうな面持ちで目をぶつっていた雷太に、オグゾンドールアがおずおずと声をかけてきた。どうやら彼らの方からは雷太の表情を見て取れるらしい。なんとなく不公平だなと感じながら雷太も表情をやわらかく戻して返した。


 見ると、ずっとオグゾンドールアに付き添っていたウヅスグルオンの方が、どういうわけか寝入ってしまって寝台を使っている。


「そンで、賢者さまさえ、よがづげりゃあ、おいらンもおでづでいつか、すっづこづねがねと」

「手伝いか? ふむ」


 確かに、オグゾンドールアはゾーリューネヅに続いて飲み込みの早い若者であるようだった。そのゾーリューネヅも朝方に雷太に釣り上げられてからはずっと働きづめで、そろそろ息が上がっているように見える。


「そうだな、リューネさんと交代しながらじさまばさまの世話してもらおうか。やり方は今から教える。リューネさん!」


 ゾーリューネヅに軽い休憩を与える意味もふくめて雷太はゾーリューネヅを呼んで一緒にオグゾンドールアに注射器の使い方を教えていく。


 横に並び立つと、やはりというかなんというか、若いオグゾンドールアよりも雷太の方が背が高い。そのまま手元で操作しながら使い方を教えていると、覗き込んだ拍子に注目せずとも貫頭衣の襟元から内側が見えてしまう。


 異世界なのだから、同種族というのは欲張りすぎかもしれないが、せめて容姿の近い相手で、相手も女性ならば色気のあるシーンだったのになあと思いつつ説明を続ける雷太だったが、その隙間からふと見えたささやかな膨らみにとある可能性を見出す。


「とまあ危ない事はないが使い方は間違えないでくれよ。リューネさんは交代で休憩だ」


 その可能性を確かめようとしない雷太は、ある意味で正常だった。



 帰還可能時刻まで、あと約115時間。


やっぱり周一更新のわりに文章量が少ない


もっとがんばらにゃ

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