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7日目 夢から始まる一日

 雷太は夢を見ていた。


 幼い頃の自分をみおろすような視点。ああ、これは夢だなとすぐにわかるような夢らしくない夢だ。


 夢の中で雷太はまだ義務教育を受け初めて間もないほどで、どうしてもわからない問題を前に泣いているところだった。


 雷太が幼い頃に通っていた学校は義務教育と銘打たれて入るが、将来は為政者や技術開発者になる人材を育成するための、いわゆるエリート学校であり、幼い頃から高い水準での教育を与えられる。


 その時の雷太が泣いていた原因は、昔使われていたという骨董品のトランジスタラジオを一度簡単に分解して考察し、作文にするというものだった。


 論文形式であることが理想ではあったが、そこまで厳しく定められてはおらず、作文としても最低限のものでよい。最悪、あらすじが書かれた読書感想文のようになっていたとしても合格をもらえる課題だった。もっとも、それでも義務教育に入りたての子供に課すような宿題としては十分にハードなのだが。


 雷太は、仕組みを解き明かす事についてはかなり優秀で、自力でやっても最低限の点数は取れるだけの実力をもっていたのだが、父親がそれをゆるさなかった。


 これでは単なる説明書だ。考察ができていない。


 そういうと父親は雷太の目の前で、作文の原稿用紙を破き捨てた。


 雷太が父親に対して潜在的に反発するようになったのはその頃からだっただろう。課題を否定するくらいならまだいい。しかし目の前で破壊するのはやりすぎだ。大人になった今も雷太はそう思う。


 おおざっぱに言えば父親への反発新が高じて、エリート街道から外れ命の保証などまったくない平行世界の探索者となったわけだが、自力で考察できない、という事がこうも深刻だと夢で気づかされるというのも、なかなか皮肉だと雷太は思った。


「いや、違ったな。たしかこれには続きがあったはずだ。何年か経って似たような事があって、その時には言い返したハズなんだ。あの時は、なんていわれたんだっけか」


 そう考えると見る夢の場面がパッと入れ替わる。ちょうど思い出そうとしていた事があった場面だ。


 義務教育が始まってから十二年が経ち、任意教育へ進むか自由労働をはじめるかというタイミング。進学を選んだ雷太が進学テストのためにまた同じような、しかし今度はしっかりとした論文を書いて送れという課題を受けた時の事だ。


 前回は学校の方針から紙媒体での作文だったが、さすがに今度はデータで送るもので、書き上げたものを自分で読み返しているところだった。


 どんな論題を選んだのかは完全に忘れてしまったのか、肝心の題目がかすれて読めないが、ちょうどよいタイミングで父親が現れチェックしてやるから自分にもデータをよこせと言い出した。


 以前のことなどすっかり忘れていた雷太はむしろありがたい気持ちでデータを渡したのだが、ぱっぱと読み上げた父親はまるで汚いものでもみるような顔で、雷太の目の前で送信されたデータを完全消去した。そして言う。


 こんなものは論文とはいわん。


 まさに一蹴。


 その瞬間に、過去のトラウマが蘇った雷太は激昂してしまいその時は父親が言っていた事を聞いていなかった。しかしこうして夢に見ているという事は、記憶のどこかには残っていたのかもしれない。


 夢の中で、現在の雷太に見守られる過去の雷太は取り乱しているが、現在の雷太は注意深く父親の言葉に耳をかたむけた。


「おまえは全体から物事を理解することには昔から長けていた。しかしなぜその結果に至ったのかという疑問を抱かない。もっと物事を疑え。おまえの場合は何かを疑わなければ物事が発展しない」


 父親の言葉はすっと現在の雷太の頭の中に溶け込んだ。同時に、意識が急速に覚醒していく。


「疑う、か」


 目を覚ました雷太は自然と呟く。何度も頭の中でその意味を反芻し、いまの状況、目的に適用する。


「カッシェルフ、もう起きてるか?」


 雷太の中で何かが動き始めた。



「じゃあさ、そもそも魔力への適性ってなんなんだ? なんで種族そのもののレベルが上がると魔力への適性がうまれる?」

「違う、逆だ。魔力への適性がうまれる事が種族レベルの上昇であると捉えるのだ」


 カッシェルフは次々に来る質問にやや押され気味だった。雷太に教鞭をとった時間は、丸一日分にも満たないが、雷太は本やらなにやらから勝手にどんどん吸収し一人前レベルの魔法使いになってしまった。その間に質問という質問は無かった。


 ところが今朝、急に、応答する間もなく通信が開かれたかと思うと、挨拶もそこそこに矢継ぎ早に質問を投げかけられる。


 どれも、なぜ授業中にきかなかったのかという初歩的な質問だったが、どうやら雷太はそこに解決するヒントがあるのではと考えているらしいと感じ、可能な限り誠実に答えを示す。


「それは……うん。解釈の違いというのはわかるんだけど、言い方を変えたほうがいいか。魔力への適性ってのは、身体のどこが変化するから生まれるものなんだ?」

「身体の、どこが?」


 カッシェルフは一瞬、質問の意味が理解できなかった。


 カッシェルフが今まで身をおいてきた魔法論というものは、あらゆる物質は魔力によってできている、というもの。どんなものでも極限まで分解すれば必ず純粋な魔力へ回帰するという考え方だ。


 そこから、今まで主流だった魔力への適性というものは、生物の肉体すべてを構成する魔力の変質であり、具体的に肉体のどこかの部位に変化が生じたから魔力への適性がうまれる、という考え方はまったく存在しなかった。


 つまり、雷太が従来とは全く違うアプローチを見つけた、という事になる。


「身体のどこが……そんな考えは今までなかった。面白い考えだ。従来の魔法理論には頭から否定されてしまうような考え方だが、完全否定できるだけの理論をわたしは持っていない」

「……そうか。うーん。悩みどころだけど、まずはこの線で調べなおしてみるか……」


 雷太の決断力が昨日と全く違う。カッシェルフにもそう感じられた。


 雷太の中で、確実に何かが動き始めていた。



 帰還可能時刻まで、あと約128時間。


実際に夢が何かのヒントになる事って、ありますよね?


夢の中でできた曲をそのまま作曲するような方もいるらしいですしおすし

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