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6日目 育つ命、枯れる命

 焚き火の広場はやまないざわめきで満たされていた。


 里の者たちに雷太の問いへの答えをすぐに出せるハズはなかった。ただでさえこれだけの人数の意見をまとめるのは容易でないというのに、里の全てが病に侵されているという非常事態なのだから。


 雷太の方もすぐに答えが来るなどとは思っておらず、静かに成り行きを見守っていた。明日までかかるかな、そんな気持ちだ。


 ところが里のざわめきを取り置いて、一人の老人が杖をつきながらヨロヨロと雷太の前に歩み出る。


「二づんええ話じィど、一づん悪ぃ話じィだ、どづらンほごづ、でっけえ話でずげ?」


 調子が悪いせいもあるのだろう、そもそも年老いた事で声帯も悪くなっているのかもしれない。ゾーリューネヅよりも訛りがキツかったが、雷太は難なくその意図を読み取った。二つの良い話と、一つの悪い話だと、どちらが重大な事だろうか訊いているのだ。


「里全体にとっては、おそらく、二つの言い話の方が大きいだろう。しかし」

「あぁ……もっ、ええづす。そんならええ話ン、二づだぐぇ、聞がしぢぐだがす」


 雷太がわずかに言いよどんだところで老人は言葉をさえぎった。


 悪い話を聞かず、良い話だけ二つとも聞きたいという老人。いつのまにか里のざわめきは静かになっていた。この老人の意見が、里の総意になったのだろう。雷太は一度深く頷きながら唾を飲み込み、総意を重く受け止めた。


「まず、赤ん坊は適切に処置すれば全員助かるだろう。大人たちも、死ぬ気で訓練すれば助かる手はある。これが一つ目の良い話だ」


 子供を持つ親たちが、ほっと息をつく。子供が助かるとわかっただけでも安心できるという親は大勢いたようだ。


「二つ目は、助かった子供たちはほぼ無条件で、大人たちは訓練して命を永らえれば、俺や森の賢者に少しだけ近い存在になれる、という事だ」


 やや漠然とした言い方に里のものたちは首をかしげた。雷太としては彼らが好みそうな言い回しを選んだつもりだったのだが、はずしてしまったようだ。


「つまりだ」


 雷太は両手を広げて、右手に炎を、左手に氷の塊を浮かべて見せた。自然にはありえない光景に、里がどよめく。


「君たちも、こういう事を――魔法を使えるようになる」


 簡単に言われてもそうそう実感などわいてこない。


 だが言われた事を何度か咀嚼し、頭では意味を理解したが心では信じきれず、だけど、でも、もしかしたら、という気持ちを芽生えさせた里の者たちは、確実に心の中に熱い火種をともした。


 雷太が里のものたちから話しを聞いてわかったのは、無数の光の玉を従え、火を熾し、風を操り、水を浮かべ、大地をひっくり返して里から困難を退けた森の賢者の伝説は彼らにとってとても大きな支えとなるものだったという事だ。信仰と言ってもいい。目の前の雷太もその伝説の一端を行動で証明して見せた。そしてその雷太が言う、森の賢者に近づけると。


 できるのか、そうなるのか、と静かに熱く議論が始められようとするなか、雷太は複雑な表情を浮かべ、諦めたような、悟ったような表情の老人とただ見つめあう。


 老人があえて語らせようとせず、今も何か大きく熱いものにかき消されてしまった一つの悪い知らせを雷太は考える。


 老人たちはもう助からないだろうという事。


 少なくとも目の前の老人は確実にそれを悟った。ひょっとすると、床に伏す他の老人たちも既にわかっていたのかもしれない。


 弱弱しく微笑みかけてくる老人を見て、雷太は静かにゆっくりと瞬きをした。



 つまるところ、雷太がはじめにした里の者たちへの問いかけは、あまり意味のない責任転嫁への布石でしかなかった。


 あえてどちらの話から聞くか相手に決めさせる事で「自分はお前らに覚悟を決める時間をやったぞ」ともう一つ「お前たちが聞きたいと言ったから教えてやったんだからな」という言い訳を作り出し正当化しようとした。その言い訳が無くとも、里の者たちを待つ運命は大きくは変わらなかったのだから、雷太の精神衛生を守るほかに意味はまったくなかったのだ。


 その布石の意図もおそらく老人は知って、悪い知らせを聞こうとしなかったのは自分達なのだから、自分達が助からない事を伝えなかった雷太に責はないのだという正当性を残してくれた。これは雷太の狙い以上だ。


 で、あるというのに、雷太の気持ちは晴れるどころか落ち込むばかりだ。


 伝える責任、とやらを重く受け止めすぎていて、雷太はいつのまにか頭に血を上らせていたらしい。死を前にした老人の理性的な立ち振る舞いですっかり頭が冷めた今、雷太の中に残ったのは罪悪感ばかりだ。 


「ご老人、お名前を、教えてほしい」

「ギュオールクーオン。アルカンコーのギュオールクーオンと申ずもンでず。クオン、と呼んでぃぐだづ」

「クオン、久遠……」


 母国語との不思議な一致に、雷太はより切ない気持ちになった。



 帰還可能時刻まで、あと約147時間


ストックが尽きました\(^o^)/



次からは週1か週2くらいのペースでの投稿になると思います。


ああ、筆が遅いなあ

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