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6日目 解決への糸口

「質問にそのまま答えるならば、わたしがククラカン族とともに過ごす間に、彼らがそのような症状を発症した事は一度も無かった。あの頃は世界を記すことにも意義を見いだせなくなっていてずいぶんと無気力になっていたから、記憶もあいまいではあるのだが、大きな事件といえる部分はたった今思い出した。種族の存亡に関わるような大事だから記憶の抜け落ちなどはないだろう」


 老人特有なのか、カッシェルフ本人がそういう気質なのか、やたら回りくどい言い方で、なおかつ核心は別にあるのだぞと冒頭でほのめかしている。


「(やっぱ面倒くさいじいさんだなあ……)」


 雷太はあきれた。種族の存亡に関わる、と自分で言っているんだからもっと急げよ、と。もちろん、そんな事を口に出して突っ込めばもっと話が長くなるのは目に見えているから、雷太はそんなこと表情にも出さない。


「しかしその症状自体には他の原始種族との接触の間にいくらか覚えがあるぞ」


 やっと本題に入ったようだ。雷太もやや姿勢を正した。


「類似する症状はいくつかあるが、周囲の植物にまず異変が現れたとか、まず乳幼児から症状を表したなど、そういう場合は間違いなく、悪性魔力蓄積症だろう」

「悪性魔力蓄積症。なるほど」


 難しい単語が並んだが、既に翻訳済みのものだった。雷太はすぐさまデータベースから記載されていた書物を呼び出した。


「魔性生物理論~魔法と生態の関係~。か」

「おお、それだ。うちの書庫を全て憶えていったというのはホラではなかったのだな」


 置いてきた端末を使いながら通信し、使い方は理解したといっていたのに、まだ雷太のスーツの性能を覚えていないらしい。やはり老人か、と思いつつ雷太はあえてそこにふれない。


「なるほど、わかったありがとう。しっかり読み込んで対策を考える。また何か困った事があったら連絡すると思うけど、そっちからも何かあったらよこしてくれていいからな」

「ん? それはどういう――」


 カッシェルフが皆まで言い切る前に雷太は一方的に通信と遮断した。今の反応から察するに、半ば本気で植民地化されると思っているカッシェルフは、雷太が置いていった端末を受信専用だと勘違いしているのだろう。カッシェルフには本格的な協力者として端末の使い方をしっかりとマスターしてもらわなくてはならいのだから、雷太はあえてスパルタ気味に放置して自力で使い方を憶えてもらうことにした。


 ともかく、今はカッシェルフが呼ぶところのククラカン族。今の彼ら自身が名乗る所のアルカンコー族だ。


「ふむ……」


 病気の原因の特定はできたと見ていいだろう。あとはその病気について改めて情報を読み込んで対策を練る。


 悪性魔力蓄積症について記されていた書物、魔性生物理論~魔法と生態の関係~は、見た目にはあまり質のよくない紙の本が五冊分ほどのものだった。一冊のページ数はおよそ二百。


 医学書ではなく魔術書のカテゴリに入っていたせいで、症状の検索時にヒットしなかったのだろう。ついでに言えば、わりと簡単に読める部類の本であったために雷太自身の記憶の中にもあまり残っていなかったのだろう。


 この本によると、悪性魔力蓄積症とは、患者にとって相性の良くないタイプの魔力を長く蓄積した場合におきるさまざまな症状の事を指す。具体的には、青年から老人の場合は、めまい、倦怠感、吐き気。乳幼児の場合は発熱に嘔吐・下痢など。


 乳幼児と、青年からの症状が大きく異なることも特徴であり、乳幼児については頭を冷やし、嘔吐・下痢がある場合は水分をしっかりと摂らせるなどしておけば自然に治癒するとある。


 難しいのは青年期を越えたものたちへの処置だ。


「うーむ……」


 雷太の中で結論は出たが、伝えるには気が重い。しかしどうやら、この星で、この世界で生まれ、生き続ける限り必ず通る道であるらしい。


「リューネさん、里の皆を集めてくれ。自力で動けなくても、話をできる者は皆だ」


 やはり気は重いが、自分のせいでこうなったわけではないし、と言い訳しつつ、決意を固めると補佐についてくれていたゾーリューネヅを里じゅうに走らせた。



 里を形成する獣皮のテントのまんなかにある広場。そこには大きめのキャンプファイアが焚かれていて、なるべく火を絶やさないようにしているらしい。とはいえ、彼らの主食は火を通す事をあまり必要としない草そのものだから、火の優先度はさほど高くない。


 火が特別なものかといえばそうではなく、べつにアルフェーイたちのような特別な存在が宿っているというわけでもないようだ。


 ではなぜ大事に守っているのかといわれると、彼らもその返答には困ってしまったようだった。


 なんとなく、伝統だから。それ以上の理由などないのだろう。


 雷太が父方の祖父の家に行った時に聞いた話では、日本という地方は未だに独立国だった時代の名残を色濃く残す場所で、どれだけ最新鋭の技術の粋を決した建築物をつくる時でも、まず初めに地鎮祭という土地の神とやらを鎮め建物をつくる許しを請う儀式をするという。魔法や精霊が実在するこの世界ならばまだしも、居るという確証を得られない存在に対して許しを請うのはおかしな話、という考えも浮かば無くはなかったのだが、そこは日本人の血を濃く継ぐ雷太、なんとなくわかるな、と思ってしまった。


 つまりそういう事なのだろう。


 伝統によって焚かれ続ける里の中心の火を見ながら、雷太はまだ今からする話しをどう切り出すべきかを考えていた。この焚き火とて決して無関係ではない。


 きっと彼らは雷太がここでどんな選択肢を提示しても、最終的には生き残るのだろう。だがその時、この焚き火を続ける文化を残しているかどうかはわからない。


「あンのぉ。はなじだきげぇもンだ、みぃんなあづまっだどでづ」

「そうか」


 ゾーリューネヅに声をかけられずっと眺めていた焚き火から振り返り、雷太はウッと声を詰まらせた。


 雷太が思っていたよりも、数が多い。自力で動けなくとも話はできる者、とかなり広く集める範囲を指定したが、最も長く発症している老人など一人もこられないのではと予想していた。ところが、焚き火の広場に集まった者たちのうち、きっちり1/3は老人達だ。


「あー…ああ。うん。里の皆に集まってもらったのは他でもない。今君たちが悩まされている病について、三つほど知らせなければいけない事ができたからだ」


 広場は静まり返っていた。雷太がとくに意識せずとも声は里中に響き渡る。


「そのうち、二つは良いしらせだが、一つは悪い知らせだ。君達はどれから聞きたい?」


 雷太はヘタレだった。




 帰還可能時刻まで、あと約147時間


前回更新は滑り込みアウト


そして展開は思いのほかヘヴィーなかんじになってまいりました

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