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6日目 これも調査の一環です

 話しを聞けば、自体は意外と深刻そうだった。


 その異変が現れ始めたのは花の節、地球でいう立春から十日ほど経った頃、現在から数えると三十六日ほど前の事になるという。この時点で、雷太がひっそりと考えていた、自分たちが転移してきた事が原因である、という可能性が消えた。


 雷太が直接乗り込んできたのはこちらの時間でおよそ六日前。事前調査のための無人機が来たのも十五日前だ。


「はんずめやぁ、里んからみでぇお日さんがすずむほーのくさっぱらげや色づ変じなっだどでず」


 キツイ訛りに解読には若干のタイムラグが生じたが、ゼロから単語帳を作り直す手間と比べれば簡単なものだ。


 雷太の少しの苦労のもとに聞き出せた異変の情報を纏めると、こうだ。


 はじめは、里の西の方角の草原に生える草が全体的に変色しはじめた。彼女らの種族は見た目どおり草を主食としているので、変色した草を避けて食料を調達した。


 異変の現れ始めた頃は特に問題もなかったが、わずかな間に草が変色した範囲はどんどん広がってしまい、里を飲み込み、現在では無事な範囲は河の周辺だけになってしまった。


 もう正常な草だけでは、里の者が食べる分をまかなえなくなり、とうとう変色した草に口をつけずにはいられなくなったのが十五日前となる。


 そこからの異変はさらに顕著に出た。


 まず老人がひどい眩暈を訴えるようになり、幼い子供が熱を出した。


 体力ある若い男女も、男の方から老人たちと同じような症状を訴えはじめ、現在では里でまともに動けるのは若い女の中でも一部のみだという。


 そうして、一番まともに動ける里の若い女であるゾーリューネヅが、最後に里に伝わる伝説にすがるべく、森の賢者が住むといわれるこの森へと登ってきたのだが、崖を登りきったところで力尽きてしまい倒れていたところを雷太に介抱されたというわけだ。


 しっかりと現状をまとめてから、これは思っていた以上に厄介事であると認識した。なにせ雷太にはまったく未知の症状だったからだ。そもそも彼らの生態がよくわかっていないので、人間と同じ原因から同じ症状がでるかどうかすらわからない。


 うぅむ。と雷太はうなる。


「まあやるだけやってみるか。ただ、協力はする、しかし解決できる保証はない。それでもいいな?」


 彼女らの種族と、雷太では、知識も技術も比べるべくもない差があることはゾーリューネヅもなんとなくわかっているらしい。自分たちはどうするかを考える事すらできず、このままでは里ごと全滅する所だったのだから、仮に森の賢者の知恵ですら及ばなかったのならばそれが天命だったのだと諦めもつく。


 とはいえ、雷太はこのまま関わる気満々だった。知識も情報もまだ足りていない。そもそもゾーリューネヅ本人をはじめとして、いろいろな事に大きな違和感を覚えていた。


 それは里の様子を実際に目で見ることで、浮き彫りとなる。



 雷太は念のためヘルメットをかぶってから里へ降りた。雷太にも有害な物質を警戒したのだ。結局のところ検出されず、里の者たちの警戒を解く意味もこめて雷太は早々にヘルメットをといた。


 次に、案内はつけつつもなるべく口出しをしないよう言いつけて里を歩いてみて回った。里の規模は本当に里といった感じで、総人口は百未満といった小さなものだ。建築技術もあまり発展していないらしく、流木を骨組みに彼らのものではない動物の毛皮を貼った竪穴式住居だ。モンゴルの遊牧民かネイティブアメリカンのような生活様式だが、住む場所を移る事はめったにないようだ。


 はっきり言って、文化レベルは縄文時代とあまり変わらない。その割りに、訛りがキツいとはいえ言語が発達している事に雷太ははじめから違和感を抱いていた。


 病気の事も気にはなっているのだが、そちらの方を先にハッキリさせたかった雷太は、里の言い伝えに残る森の賢者とやらについて情報を集めた。


 相当に古い言い伝えであったようで、いささか話しが盛られすぎている感じもあったが、容姿についての供述はほぼ共通していた。


 手には指が五本あり、口の周りと頭の上以外は体毛がほとんど生えていない。耳が長く、周囲に光る玉のようなものを従えていた。


 ほぼ確信にいたった雷太はすぐにカッシェルフに渡した端末を呼び出した。


「おお……こう使うのか。雷太だな? おまえらしいとは思うがもう少し早く試してくれてもよかったのではないか?」


 呼び出しに応えたカッシェルフはどこか拗ねているようにも見えた。


「ああ、いや。うん、すまんかった」


 なんでそこまで面倒を見ねばならんのだと思いつつ、ここで売り言葉に買い言葉が始まっても仕方がないので雷太は素直に謝った。内心には少し多めの面倒くささを抱いたが。


「それより、あんた旅の途中でこんな特徴の種族に会わなかったか」


 ちょいちょい、と画面を操作してゾーリューネヅたち種族を写す。すると、カッシェルフはしばらくの間驚いて固まっていたがある瞬間ふっと思い出したように目を見開いた。


「おお! おお! 思い出したぞ! ククラカン族だな! いや懐かしい。もう何百年か昔の話だが、まだ生き残っておったのかそやつらは」


 雷太は自分の網膜に直接カッシェルフ側の映像を投影し、骨伝導で鼓膜を直接震わせているため、周りからは雷太がひどい独り言をおこなっているように見えている。なのだが、雷太を森の賢者と信じて疑わない彼らは、それもこの異変を解決するための儀式か何かなのだろうと前向きに受け止めて見守っていた。


「あんたその時に、言葉から何からいろいろ教えたんじゃないか?」

「おお、おお。教えたぞ。とはいってもわたしが出会った頃には既に初歩的な言語をもっとったからな、大した世話をした憶えはない。星の読み方と、字の存在くらいだ」

「なるほどな」


 雷太は自分の違和感が正しかったと確信した。彼らは技術レベルと比べて不必要なほど語彙が多い。ゾーリューネヅも彼女から難しい言葉を使うことこそなかったが、雷太がはなった「解決」や「保証」といった言葉を雰囲気ではなく意味で理解していたようだった。そもそもここまで容姿が違うのにほぼ同じ言葉を使っているというだけでもおかしいのだ。


 しかしカッシェルフが彼らの事を知っているとわかっただけでも、今回彼らを襲っている異変について更なる情報を得られる可能性が出てきた。


「じゃあさ、あんたがこの人たちと一緒にいる間、こんな事なかったか?」


 雷太はゾーリューネヅたちの種族のこと、カッシェルフが言ったククラカン族についてほとんど何も知らないし、手持ちの機能では詳しく解析して診断する事もできない。


 だがカッシェルフなら、言語を伝えられるだけ長く一緒にいたカッシェルフならば同じような症状を知っているかもしれない。知らずとも、すくなくとも雷太よりも彼らの生態について詳しいだろう。いろいろとアドバイスをくれる可能性は、大いにあるのだ。



 帰還可能時刻まで、約150時間。


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