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6日目 小川の導き

「小川だ! でかしたぞ!」


 二体のアルフェーイに先導されて、目当てのものはすぐに見つかった。


 木々の丈はいくらか低くなっているとはいえ、この程度の小さな川は上空からでは見つけられなかっただろう。やはり降りて正解だったと思いつつ雷太はさっそく小川から水のサンプルをとる。


「ん? 人間は君らと違って水も食べものも摂らないと死んじゃうんだ。ちゃんと飲める水か確かめておかないと、手持ちの水が無くなった時に困る」


 解析結果を待ちながら、なぜ水を調べる必要があるのか、というサザンカの問いに雷太は答えた。


 情報化する事でかなりコンパクトに収納できるとはいえ、現在の技術では、収納できる量は無限ではない。特に水や食料は情報化してもなお他の物資と比べかさばるものなので、現地調達できるにこしたことはないのだ。


 同時に、雪解け水とも違う水の質の調査も重要である事は間違いない。


「……水質も問題ない。イリュートロンと、あ」


 雷太はここに来てまた未知の元素を発見した。放射性は無し。最も近いのはヘリウムだが常圧常温でも液体で安定している。また、温度を上げても気化する様子はなく、火を近づけても着火しない。燃えないのは単に微量であるせいかもしれないが熱を近づけても液体のままだという所もヘリウムとは大きな違いだ。


「サンプル採取、分離工程の後、再度解析」


 解析結果は同じ。最も近いのはヘリウムとしか出ず、具体的にどこがどう違うのかまでは解析しきれない。


「このまま海に出るつもりだったが、これは水源も確認したほうがよさそうだな」


 新物質を含んだ水だ。新たなサンプルも期待できるし、十分に観察して資料をとっておくべきだろう。次来るときのためのビーコンも置いておきたい。


「とりあえず、この新元素をヘリクリウムと呼ぶ事にする。じゃあ、上流に寄り道するぞ? 周りに脅威は?」


 二体のアルフェーイは異常をうったえない。


「では、出発!」


 退屈な空の旅から一転、また新しい発見と出会ってしまった。やはり情報は脚で稼ぐべきだと思いながら、雷太は増えた仲間とともにようようと歩き出す。



 水源もあっさりと見つかった。一見だけではとくに何の変哲も見つけられない湧き水で、小さな泉から懇々と湧き出ている。


 泉から直接水を採取しても新元素の含有量は小川に流れていたものと大差ない。ただ、大差ないとはいっても途中途中で採取しきた水と順に並べると、水源から遠のけば遠のくほど検出量が減った。この事からヘリクリウムは、水よりも少しだけ重く、地面に溶け込んで行く性質があるのではないかという推測が立った。


 泉の周りを大雑把に調査してもやはりめぼしい成果はあがらない。かといって、ここで精密な調査を行うのも何か時間を無駄にする気がした。


「どうしたものか……」


 おもわず悩みどころを口からこぼす雷太。するとサザンカが自己主張するように縦に揺れる。


「何かいい案があるか?」


 尋ねると、サザンカは明滅して「マ・カ・セ・ロ」とだけ残して泉の中に飛び込んだ。飛び込んだといっても、ポチャンともピチャンとも音はしない。わずかにできた波紋も湧き出る水の勢いにのまれてすぐに消えてしまった。


「まかせろ、と言われても……」


 雷太は戸惑って、同じアルフェーイであるジェシカに意見を求めた。の、だが、ジェシカは雷太の頭の上から降りてこようとせず仮に明滅して何か伝えようとしているのだとしても見えやしない。


「仕方ないな……」


 他にやることもなかったので、雷太は近くの土壌の調査を始めた。予想通り、小川の周辺はヘリクリウムを多く含んでいる。ヘリクリウムがどういう作用をおこすのかはわからないが、検出されなかった土壌と比べて微生物がやや少なくなる傾向もわかった。


 と、土壌サンプルを10個ほどとって考察していたところでサザンカが泉から飛び出してきた。水を操って何かを運んできたらしく、親指ほどの大きさの水晶のような透明度の高い結晶体を抱えている。


「お疲れ様。これが、水質が違う原因?」


 また尋ねると、サザンカはわからないと答えた。しかし、水源をたどっていくともっと大きな結晶でいっぱい壁から生えている水脈に出たという。


「ふむ……とりあえず分析にかけてみるか」


 貴重なサンプルだ。表面を少し削って粉を採取し、それを分析にかける。出た結果を見て雷太は微妙な顔になる。


「これは石膏の結晶体だ。石膏……なんだけど……?」


 石膏の結晶体はもっと地中深くか、火山などの温泉付近、はたまた干上がった海などで生まれ、成長するもののはずだ。こんな地表近くの泉近くにできるものだろうか。


「どのくらい潜ったんだ?」


 さらに尋ねると、大して潜ってはいないという。雷太の知るサザンカの最高速度と潜っていた時間を考えても、それほど深くにまで行っていたはずはない。


「そこの、水の温度はどうだった?」


 こんどは質問の意図を理解できなかったようで、オウム返しに聞き返された。


「えっと、水は熱くなかったか? お湯になってたか?」


 細かくして聞き返せば、そんな事はないという。やはり謎だ。よくはわからないが、この新元素と無関係とはとても思えなかった。ついでに言うと、これを突き詰めたところで今後自分たちの役に立つのかも不明だったが、それを言ったら異世界の調査など最初からやってられない。


「よし、とりあえずこれは貴重なサンプルとして確保しておく。ありがと」


 雷太がお礼を伸べながら手を伸ばすと、サザンカは雷太の指先にちょんと触れてどこか嬉しそうに小刻みに震える。すると今まで頭上から動かなかったジェシカまで手のひらの上に躍り出て自己主張を始めた。


「うんうん。ジェシカもね」


 苦笑しながら雑に礼を述べたが、ジェシカはまんざらでもなかったようで、クルクルと螺旋を描きながら大人しく雷太の頭上に戻る。サザンカはというと、空を飛んでいた時にいたベルトの内側に戻ったようだ。それぞれお気に入りの場所が違うというのも面白いかもしれない。


「予定通りビーコンは残しておく。あとは下流に向かおう」


 地質学は雷太の専門ではない。なので適当にデータを集めると、調査は早々に切り上げた。



 小川に沿って森をゆく。


 下流に向かうにつれて少しずつ川幅が広くなったが水量はそうそう変わるものではなく、どこか別の小川と合流する事もないままけっこうな時間、けっこうな距離を歩いた。


 その間に気付いたのは、この川にはほとんど生き物が居ないという事だった。


 魚はいなくとも、水棲甲殻類くらいは居てもよさそうなものだったがそれもない。


 そもそも霊峰ジェンボのふもとの山に居たときからずっと思っていた事だったが、この森には動物が異様に少なく、姿だけでなく痕跡すらみつけられない。


 いったいなぜなのか。見当もつけられないまま、とうとう夜になった。


 

 帰還可能時刻まで、約164時間

残り時間を打ち直しを検討ちう

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