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1日目 初遭遇

 ピピピピピ とアゴを伝って鼓膜を震わせる機械音。ゆっくりと意識を覚醒させていき、まぶたの裏にわずかな明かりを見つけたあとの雷太は早かった。


「意識の覚醒を確認、主観記録を再開する。睡眠中に異常はなかったようだ、各システムに大きな変化はない。帰還システムの推測修復時間は……315時間。仮眠としてはけっこうたっぷり眠れたようだ。あ、また虫だ。節足動物以外の動物をまだ確認できていない。一応サンプルを採っておこう」


 自分とスーツの状態を確認すると流れるように周囲の観測にうつる。木の枝に止まっていた虫を捕まえると、手際よく小瓶に入れて観察する。


「ふむ、節足サンプルBに攻撃性はなし。サンプルAもそうだったが、保護色や擬態化などの進化が見られない。天敵が存在していないんだろうか。ひょっとしてまだ虫しか存在していないような天体? いや、サンプル二つじゃ断定はできないな。ひとまず考慮に入れておく」


 寝る前に捕まえた羽の生えた蜘蛛は飛んでいたのだからともかくとして、今回捕まえたタガメのような虫は茶色い樹皮に目立つオレンジ色の体をしている。色々と推測をたてながら更なるサンプルを探し周囲を見回す。


 寝る前に背の高い木の上に登ったのは正解だったようで、ゆっくりと夜から朝へと移り変わっていく森全体の雰囲気がなんとなくわかった。


「ふむ。地磁気が安定しない。天体観測から方角を暫定する。数値は自動算出で」


 幸いな事に、北極星にあたる星は観測できていたらしい。実のところ現在位置が半球の北なのか南なのかはわかっていないが、暫定的に北緯として北緯30度ほど、経度は現在点を基準にするためゼロとなる。経度はともかく、緯度は今の簡易的な観測機器では細かく特定できない。


「うん……。現在の天体が球体であることもほぼ決定だな。よし……っと」


 木から飛び降りると腰のポーチから何か機械を取り出し拳にはめ込む。今まで上にいた木の根元にしゃがみこむと、地面にグッと押し当てた。


「ビーコン、射出」


 音声認識とともに強く握りこむことで、拳にはめ込まれた機械がプシュッと何かを吐き出した。これは一定周波数の電波を発する無線標識、まさしくビーコンだ。打ち込まれた場所のなんらかからエネルギーを得ておよそ200年間は機能し続ける。必要とするエネルギーも小さく、生体に流れる微弱な電流をこっそり分けてもらうだけでも十分動く。この場合は木の根に浅く食い込む事で樹木が成長の際に発生させる微弱な電流を利用する。


「ビーコンナンバーを記録。この地点をポイントゼロとする」


 これが、雷太のこの世界の起点となった。



「よし、これで迷子はなくなった。広域探査を開始する。まずは地形の記録からだ」


 記録装置はすでに自動で機械的な記録を済ませている。南南西の方角に一万メートル級の巨大な山があった。ポイントゼロから山頂までは直線距離でおよそ40キロメートル、道のりを概算すると70キロメートルほどになるだろうか。


「山脈、というわけでもなさそうだ。この地点から見た限りでは火山性である可能性が高いように見えるが、火山であの高さはありえない……いや、異世界だからな、早合点は禁物だろう。まだ確認できていないが惑星の直径が地球と異なる可能性もある。うん、そうだな。あの山に向かうとしよう」


 自分の感想も交えつつ記録をとる。目的地は決まったのでその方角へ向かってトコトコと歩き始めた。


 異変と遭遇したのは三時間ほど歩いたところだった。花や草などのサンプルも手に入れてホクホクした顔でいたところで、ガッシャガッシャと金属がこすれあうような音が聞こえてきた。


「ん?」


 音の異変に気付いて立ち止まる。スーツ付属のセンサー類は常にフル稼働、それに加えて雷太自身の感覚器官も鋭敏に研ぎ澄まして異変に備えた。


「来る……か?」


 金属音は大きく、近くなり、すぐ目の前を横切っているような錯覚になるほど大きくなったところで、一度止まったように思えた。が、すぐにまた鳴り出して今度は遠のいて行く。


「なんだったんだ……?」


 雷太は警戒をゆるめず、ゆっくりと前進を再開する。一度止まる直前がもっとも近かった。これはセンサー類もそう示している。


 ガサリと木の枝を掻き分けるとすぐに異変の正体の片鱗があらわれた。


「これは……」


 明らかに巨大な道だった。ただし、石畳やアスファルトなど文明を感じさせるものではない、赤茶けた土が露出するほどえぐられた場所が延々と続いている、そんな道だ。草木は一本も生えていない。幅は6メートルほどだろうか、長さは緩やかな弧を描いているらしく端が見えず推測もできない。


「……ふむ。排泄物らしき塊を発見。土を食ってるのか。土そのものににしか見えない。成分を分析しても他の土と差異は見られない。オルゴン粒子の含有量も若干減っているように見えるが誤差の範囲内におさまっているように見える。この帯の中にしかない特殊なものでも……?」


 雷太が発見したそれらしき茶色い塊は、みると金属音がやってきた方から点々と落ちている。間隔は一定でやはり排泄物とみて間違いはなさそうだ。それと雷太が比較したのはポイントゼロ付近の土だった。ためしに、この道の中の土を採取し再度分析にかける。


「お! 微量ながら未知の物質を発見。構成としてはチタンにもっとも近い。これは持ちかえって細かな分析にかけたいが……うん?」


 新しいサンプルに夢中になっていた雷太はまたあの異音の接近に気付くのが遅れてしまった。ようやく気付いて顔を向けたときには、それはもう目前に迫っていた。


「どぅわっ!」


 驚いて間抜けな声が出る。次の瞬間にはこれも記録に残るんだよなあと思って情けない気持ちになったが、今は目前に迫る脅威への対処が先決だ。


「そいやっ!」


 直撃されるまえに掘り返されたばかりのように柔らかい地面を蹴ってひとまずそれの正面上からは逃れた。どうやら急な方向転換はできないらしくしばらく過ぎたあとにガシャガシャと耳障りな金属音をたてながらその場にて百八十度会頭する。


 それを例えるならば、足が長いダンゴムシ、だろうか。ただし、全身が金属的な光沢をはなっており、幅が6メートル、高さも2メートルほど、長さに至っては10メートル程もある巨体だが。


「また節足動物かよ! しかもでかい!」


 雷太は相手の動く姿を全方位から観測すべく動き回る。木々の枝を足場にしたり捕まったりしながら素早く動いて撹乱。巨体のためか、巨大ダンゴムシは雷太の動きに全くついてこれず右往左往しているように見える。


「ふむ……。眼球と思しき器官は……あそこか? ああいうデカいのはとりあえず目から潰すのが定石ってもんだが」


 銃を取り出そうとしてエラーが吐き出された。転移の影響でまだ使用できない事をすっかり忘れていたのだ。雷太は小さく舌打ちしてスーツとよく似た質感でリレーのバトンのような形をした道具を取り出す。


「くそう……」


 雷太には高度な文明の利器が味方しているが、だからといってあの巨体には近づきたくない。全体の動きは鈍重であるように見えるが、足の一本一本を見るとせわしなく動いておりそれなりに動きも早い。


「目がダメなら、一本ずつでも!!」


 節足動物など外骨格を持つ動物は基本的に頑丈だが、間接部が脆いという弱点がある。バッタの後ろ足はもげ易い。


「ゼェア!」


 ちょこちょこと小刻みに動き回っていた雷太は、巨大ダンゴムシの真後ろに回りこんだタイミングで一際大きな掛け声と共に大きく跳び上がった。手には青白い光の剣が握られており、先ほど取り出したバトンはその柄の部分だったのだ。


「っとぉう!」


 上手く巨大ダンゴムシの背の上に降り立つと、その拍子に青白い剣の先が背甲に当たってバチリと火花を散らす。


「うお! かてえ!」


 この剣はバトンのような柄の部分から折りたたまれていた実体部分が飛び出たあと、その周囲を短波高出力の粒子ビームがらせん状に覆う。実体部分は複雑な機構なのでどうしても脆くなってしまい、それだけではあまり堅い物は殴れないが、ビームの出力はそれを補ってあまるだけの威力をもって設計されたはずだった。それが一瞬でも弾かれたとなるとこの巨大ダンゴムシは想定外の強度、ということになる。


「くふふ」


 雷太はまた思わず笑顔になった。純粋に楽しいモノを見つけたときの子供の笑顔だ。


「よっしゃあ!」


 俄然やる気になった雷太は狙い通り足の付け根、間接部分を狙ってビームソードを叩き込む。節足動物は間接が弱いと相場で決まっているのだ。


 予想のとおり間接の強度は背甲とくらべ極端にわやらかく、豆腐に包丁を通すようにあっさりと通って一振りで一気に二本の足を胴から切り離した。焼き切っているのだが一瞬のできごとでジュウという音すらしない。


 金属製の巨大な足だけがバランスを崩して森へと倒れる。


 大きな地響き。音にあてられたのか遠くで何かが飛び立ってギャーギャーと鳴いている。鳥か、と思ったが今はそちらを確認している暇などない。


「おらあああああ!」


 雄たけびをあげながら、雷太はビームソードを斜めに構えたまま腰を落としつつ巨大ダンゴムシの背中を駆ける。音はしないがスパッスパッと幻聴がきこえてきそうなほど景気良く、足を胴体からほとんど、または完全に切り離す。


 左側の足を2/3ほど切り離したところでとうとう踏ん張りが利かなくなった巨大ダンゴムシの胴体が大きく傾いた。


「っつつ、とととぉあ!」


 傾いた状態でも巨大ダンゴムシはまだあがく。そこかの足が動くたびにグラグラと揺れる背の上ではもう雷太も意味のある言葉を吐いている余裕がない。口から出るのは掛け声か思わず漏れた声だけだ。


 片手をついて傾く背になんとかしがみつき、少しでも隙あれば這って動いて残る右側の脚にもビームソードを振るっていく。


 奮闘する事およそ一時間。残す脚はあと数本というところまでいったところで、ようやく巨大ダンゴムシは動かなくなった。


「ふぅ……」


 こうして、雷太の初の戦闘は無事勝利とおさまった。


 期間可能時刻まで約308時間


まだ投稿フォームの扱いに手間取っております

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