はじまりの物語7
「──はあ……」
リビングのソファーで寛いでいた私は今日何度目になるか分からない大きなため息をこぼした。
昼休み茜ちゃん達に授業をさぼったことを咎められ、午後の授業では先生にちゃんと集中しろと何度も怒られ、放課後には担任の先生から居残りで授業態度について小言まで聞かされる始末。
「そして当然のごとくお客はゼロなんだもんなぁ。ほんと踏んだり蹴ったりの1日だよ」
そうぼやきながら座ってたソファーに身を投げ出し天井を見上げる。そしてまた一つため息がこぼれた。
いま挙げたどれもは私を憂鬱にするには十分なものだ。けれどその全てを合わせてもここまで私を落ち込ませることはなかった。
原因は分かってる。今日の芳野さんとの会話だった。
「……私ってそんなに信用ないかな? 明らかに誤魔化されてたもんな」
芳野さんは私を騙せたと思っている。だけど私だって見習いとはいえ伊達に占い師として修行してきた訳じゃない。あの程度の嘘くらい簡単に見破られる。
でもそうゆうことが問題じゃない。嘘をつかれたことよりも話を打ち切られたことよりも何より、芳野さんに頼りなく信用出来ない人間だと思われていたことが私にはショックだった。
「これじゃあ占い師になるなんて夢のまた夢だよ。もしかして私、才能ないのかな」
占い師にとって占いを当てることはもちろん大事だ。けれどそれ以上に相手の信用を得ることが何を置いても大切なのだ。でなければどれだけ占いを当てたって心には届かず、無価値なものとして片付けられてしまう。それじゃあ占いそのものに価値が無くなり、占った意味すら無くなってしまう。
「こうゆう時、お母さんやお婆ちゃんはどうしてたのかな……」
先行きに不安を感じ、ついまたため息が出てしまう。
「──こらっ。そんな所で寝ないの。行儀が悪いわよ」
声かすると同時に顔を照らす蛍光灯の明かりが遮られる。目の前にはお母さんが腰に手をあて怒ってますよとゆうポーズで私を見下ろしていた。
「まったく。そんなに暇なら夕飯作るのを手伝いなさい。少なくともそこでゴロゴロしてるよりよっぽど健全よ」
そう言ってお母さんは私の手を取り無理矢理からだを引き起こす。
「まあでもその前に──唯音は何を悩んでるの? その理由くらい話してくれるわよね?」
目線を合わせ真っ直ぐ私の目を見るお母さん。そこには確かな確信が存在した。
「……私が悩んでることを簡単に見抜いちゃうなんて、やっぱりお母さんはプロの占い師なんだね」
「──あのねえ。あれだけ分かり易く落ち込んでれば誰でも分かるわよ。唯音は全部顔や態度に出るんだから」
「う……」
朝にも同じことを言われたのを思い出す。私ってそんなに隠し事できないくらい単純なのかな……。
「でもね、そうでなくとも私はあなたの親なのよ。娘のことが分からないはずないでしょ」
「お母さん……。あはは、それもそっか」
「で、唯音は何に悩んでるの?」
もう一度、今度はさっきよりも優しく訊ねる。そんなお母さんに私は今日あったことを全部話した。
「──ねえ。私ってそんなに信用出来ないのかな?」
切実な想いがこもった私の疑問にお母さんは少し考える素振りをとる。
「そうね……。もし私がその女の子だったとしたらきっと同じことをしてたと思うわ」
「──っ!?」
お母さんの言葉が私の心に抉るように突き刺さる。
「そっか……私ってお母さんにもそう思われるくらい人から信用されてないんだ」
言いながら私は沈痛な面持ちでうなだれる。もし一人だったら今すぐにでも泣き出していた。それぐらいお母さんの言葉が私にとってとても痛く、重いものだった。
「でもそれはあくまで私が単なるクラスメートだったらの話。もし私が唯音のことをよく知る友達だったとしたら、きっと正直に打ち明けてるわ。それこそ誰よりも早く、真っ先にね」
「お母さん……」
顔を上げた私にさっきまでの暗く沈んだ表情はもうなかく、かわりに太陽のような明るい笑顔がそこにはあった。それを見たお母さんは満足そうに頷き同じ笑顔を浮かべた。
「さて、そろそろ夕飯の支度を再開しないと。早くしないと母さんが帰ってきちゃうわ」
「そうだね、ちゃっちゃと作っちゃおう。──お母さん、ありがとね」
返事のかわりにお母さんは小さく微笑む。そんなお母さんにつられて私も顔を綻ばせて笑った。




