しょのはち 時雨の鼻血の勢い、足蹴にされるつかすてキャラ
彼等、罪人天使は神様から言わせるなら単なる試験体である。全ての予想を遥かに越える存在を作り出したかったある神様が創ったのだ。事実、他の種族は契約が一度しか出来ないが、罪人天使は何度もできる。しかし、罪人天使が欲したものは違った。彼らが求めるものは・・・・自由である。
今朝、時雨は自分がどこで寝ているかまったく分からなかった。きょろきょろ目を動かしているとそこが居間だと分かった。昨日のように右隣では美奈が静かに寝息を立てて眠っている。
「・・・・あ、そろそろ起きないといけないかな?」
立ち上がるときにふと柔らかい何かを掴んでいた。なんであろうか?これは・・・左手の方を見るといつのまにか蕾がいた。そしてその腹の上のほうに手が置かれていた。
「うう〜ん?」
他の男子だったら何をするか分からなかったが、時雨は妹にそんなことをするわけでもないのでそこは素早く手をはなして立ち上がる。美奈がいるほうに洗面台があるのでそこに行こうとすると寝返りをうった美奈に躓いた。
「んがぁ!ぐふぁああ!!」
廊下においてあった掃除機に思いっきり顔を打ち付けて鼻血を放出。青い掃除機はたちまちシャ○専用機になってしまった。そして、美奈が起きて時雨を見下ろしている。その長い髪には少々ばかり寝癖がついている。
「し、時雨様、誰にやられたんですか!」
痛くて返事の出来ない時雨はそこらへんをのた打ち回り、あたりを赤く染める。
「ま、まさか私を襲って我慢できなくなって鼻血を出したとか??」
顔を赤くしながら服を整えている美奈に向かって首を思いっきり振りながら時雨はどうにか立ちあがった。
「・・・・さっき起きたから顔を洗いに行こうとして寝てた美奈さんでこけたんです。」
「あ〜すいません。低い鼻がより小さくなってしまいましたね。けど時雨様もまぬけさんですね、まさか寝ている私でこけるなんて・・・」
その顔はなんとなく面白そうだったので時雨は少しむっとした。てか、早く顔を洗いたいので洗面台の方に歩いていこうとすると美奈につかまれて引き寄せられた。赤ちゃんのように優しく抱かれて
「はい、いたいいたいのとんでけぇ〜」
をされたのであった。そんなことにまったくなれていない(子供の頃、怪我した時雨は母親に泣きついたりしたが、相手にまったくされずに
「唾でもつけておけば治る」
と言われた。その後、時雨は帽子のつばを怪我したところにつけていた。ちなみに、そんな馬鹿なことをしたのは彼の過去の友達である。)そして、さらに出ている血の量は増加。時雨の頭は何も考えられなくなった。
「あらら〜やはり時雨様には刺激が強すぎたかなぁ?」
「おっはよう!」
朝から機嫌のいい涼は朝食を食べている時雨の顔を見て驚いた。
「ど、どうしたのその顔!」
鼻栓をしており、顔を真っ赤にしてうつむいてご飯を食べているのだ。彼の頭の中は真っ白であり、特に何も考えていない。涼がいることにも気がついていないのである。そんな時雨に変わって答えたのは美奈であった。
「実は朝からいろいろあってですね。そりゃもういろいろ・・ここでは言えないような事とかですね。」
あの後、時雨は美奈看護された。(お医者さんごっこみたいだった)この前治ったあれが一時的に復活してしまった時雨は朝から結構血を出したのだ。時雨はフライパンをかじった方がいいと思われる。
「・・・・じゃ、もし今時雨を触ったらどうなるの?」
ちなみに、今彼を涼が触ってしまったら行動とかも重なって次の結果となる。
そのいち、涼が後ろから
「おはよう、時雨お兄ちゃん!」
といって抱きついたら彼の朝食は鉄分がさらにプラスされることとなり、その鉄分がふんだんに入っている赤い朝食の上で気絶するであろう。
そのに、涼が近付いただけで時雨は立ち上がって走り出すと思われる。散々おもちゃにされたんだからそれは致し方ないことかもしれない。
涼はなるべく刺激しないことにして時雨の前に座って挨拶をするだけにしておいた。
「あ・・・・涼、おはよう・・・」
あたりに青白い人魂が見えた気がしたが涼の気のせいかもしれない。今の時雨がいるべき場所はお化け屋敷である。そして、そんな時雨にはまだ妹がいることを忘れてはいけない。
「兄さん!おっはよー!!」
座っている時雨に思いっきり抱きついちゃったのは蕾である。目の前に座っている涼には時雨の顔がどんどん赤くなっていくのが分かったのであった。そして
ボン!
といったが、何とか鼻血を出さずにすんだのは蕾の胸が美奈より小さかったおかげだろう。
「・・・いいかい、蕾、朝からそんなにはしゃいでたらいけないだろ。」
時雨はなんとかそう言って蕾をはがして席に座らせる。素直に応じた蕾を見ながら溜息をついた涼は時雨の顔を見た。その顔は真っ青。フラフラの足取りで自分の席に戻った時雨は朝食を素早く食べ終わった。蕾に事情を説明した涼はそんな時雨を見ていると何か嫌な予感がした。
「・・・ごちそうさま・・・」
お化けのように音を立てる事無く退散していく時雨を氷雨という不幸が襲った。
「おにいさまぁ〜おはようございます!!」
真正面からのダイブ。時雨は避ける事無くそれを受け止めてとうとう、鼻血を出してその場に倒れる。そして、時雨を倒したときに返り血を浴びた犯人は目を丸くしている。
「ええぇ!何で気絶するのですか!!」
事情を知らない氷雨は慌てて、その他の人たちは溜息をついた。とりあえず、氷雨は時雨の血を集めるために指を鳴らした。たちまち、あたりに飛び散ってた時雨の血は集められて、氷雨の席においてあるコップの中におさまる。これは吸血鬼の能力の一つである。
倒れている時雨を美奈は担ぎ上げて美奈の部屋に持っていった。時雨はうなされており、何かぶつぶつ言っている。
「さすがにやりすぎましたね、そろそろお目覚めの時間ですよ時雨様。」
ぼかん!ぼこ!!どかぁ!!!あべしぃぃ!?
朝食を食べている彼女達はすごい音を耳にした。たんこぶを作った時雨はやっとまともな顔になっており、ふらふらしながらも家を後にした。
そして、時雨は道端で倒れてしまったのである。
涼は少々ながらも時雨を心配していたが、その前におかしなことに気がついた。
「あのさぁ、何で時雨の血ってあんなに勢いよく吹き出したりするの?」
「それはですね、もとより罪人天使は紅血臓器と言うものが体にあるんですよ。なんでも神様の遺産とかで、血がすぐに作られたり、傷がすぐにふさがったり、ゴキブリ並のしぶとさを持っているのが罪人天使なんですよ。それに、今人間界にいる罪人天使は二人しかいないんですよ。そして、時雨様は巷で噂の『滅亡者』らしいんですよ。世界を消そうと思えば息を吹きかけるぐらい簡単なんですよ。」
「・・・・そ、そんな!時雨が一度世界を滅ぼすなんてありえないよ。」
「そうですね、彼はとっても優しい人ですからね。私もラッキーなご主人様のメイドになれて嬉しいですよ。」
その目が怪しかったので涼は美奈に質問してみることにした。
「・・・美奈さんもしかして、時雨の事が・・・」
「はい、私は時雨様の事しか思ってませんよ。それに他の人はほとんど時雨様に甘えていたりしないので私が甘えているだけです。」
涼も時雨に甘えてみたいのだが、これまでの空白の時間があるのでなかなか話し掛けることも出来ない。それに、彼女は既に高二だから・・・と言う理由でも遠慮しているのであった。
「やれやれ、思いっきり今のうちに甘えておかないと時雨様に彼女が出来た場合二度ととはいいませんが甘えることが出来なくなるんじゃないんですか?それに、今の時雨様なら甘えても大丈夫なんですからね。」
涼は詳しく時雨の事を知らない。何故、彼が女の子が苦手になったのか・・・。
「そうですね、彼は・・・恥ずかしがり屋なんですよ。」
涼の考えていることが分かったような口ぶりで美奈はそう言った。そして、立ち上がって弁当を涼に渡す。そろそろ、彼女の登校時間である。
気絶していた時雨は学校の保健室で目を覚ました。あたりに人影はなく、保健室の先生もいないようだ。そこはほとんど病院の個室並みのベッドの数があり、白一色で統一されている部屋からは清潔感があった。保健室の先生にはあった事がまったくないが、とりあえず自分が何故このようなところにいるか、考えてみる。
・・・・・・?
全く、記憶がない。思い出せるのは昨日のことぐらいである。
まぁ、確か夜はあの地下にある冥土喫茶に行って・・・・
「あ、今晩は時雨様!みんなぁ、時雨様が来ましたよ!」
ワァー、店内から凄まじいぐらいの声が聞こえてくる。何故なんだ・・・
「あのぉ、何でこんなに騒がしいんですか?お客さんは他にも来るんでしょ??」
奥から僕と背が同じくらいのメイドさんが現われる。
「いえいえ〜お客さんは賢治さん以外こないのですよ。それに、賢治さんは何かとっても変な目で私たちを見たりするのでとっても初心な時雨様はみんなに好まれるんですよ。それでは今日もこの前みたいに、鬼ごっこをしましょう!」
いえぇーい!と店内ではエキサイティングなメイドさんたちが騒ぎ出して外に出て行った。
「それでは今回も私が審判をつとめさせてもらいますね?時雨様、頑張ってください。」
外に出ると早速罠らしきものが転がっていた。
「えーん、みんなにおいていかれました・・・」
正確には転がっていたと言うより、しゃがみ込んで泣いていたんだが・・・絶対これは罠に違いない。そうと分かっていても僕はその泣いている少女に話し掛けてしまう。しかし、保険をかけておくべきだろう。
『我は、哀しみを背負いし天使・・・』
時雨の背中家から鮮血のように紅い何かがほとばしり、彼に力を与える深紅の翼となる。
「・・・えーと、タッチ。」
少女の方に手を置いて一応安全を確保する。これなら彼女に襲われる心配はないだろう。
「ホントに皆においていかれたの?」
「・・・はい、私、ここに来たの最近の事なんで・・・・よく分からないんです。その、あの、できればみんなのところまで連れて行ってくれませんか?」
連れて行くも何も、僕はこれからそこに行くのである。
「うん、いいよ。それじゃ、背中に乗ってくれないかな?」
僕は背中に小さな女の子を乗せてから校内に続く階段をのぼっていったのである。
「・・・時雨様を確認、背中に新米を背負っています!」
「あのおばか・・・」
「どうしますか?」
「全軍攻撃開始。手抜きなんて一切不要です。」
「了解、全軍攻撃ぃ!」
そんなやり取りが聞こえて、すぐ後、凄まじいほどの攻撃が僕に襲い掛かった。
ヒヒューーン!ダダダダダダダダッ!!!
「うわぁ、ホントに手抜きなしですか!!」
恐るべし、冥土軍団。てか、いつの間に光化学武器が量産されたんだ!実弾以上に危ないだろう!とりあえず、今は避けることに専念しなくては・・・
紙一重で僕は全ての攻撃をかわすことにした。というより、紙一重でしか、かわす事が出来ないからだ。
「・・・・うぉぉぉぉ!!たっち、タッチ、多津血!!!」
前線でいろいろ撃ってきていたメイドさんを戦闘から除外。今の僕なら何とかなるはずだ!さらに、後ろで攻化学兵器をいじっていたメイドもゲームオーバーとする。
「大丈夫?かすり傷とかしてないかな?」
「はい!大丈夫です!!それにしても本当に強いんですね、さすが『紅時雨』時雨様です。」
白旗あげている皆様の前に後ろに乗っていた小さなメイドさんを降ろして本当に怪我してないか確認する。きている服にもどこにも綻び等がなかったのでよかった。
「さ、それじゃあ僕は行くからね。」
「はい、また後であいましょうね、時雨様。」
そんな話している最中にも曲がり角からなんか怪しく黒光りする筒のようなものが僕を狙っている。ここにいたら白旗あげているほかの人たちも被害に巻き込まれること間違いないのでその方向に突っ込む。
もはや時代はビームの時代。先程から脇を光の線が通過している。学ランはぼろぼろになっておりまた縫ってもらわないといけないようだ。しかし、学ランの代償として、生き残っているメイドの数は片腕で数えるぐらいまでになっている。
「・・・タッチ!」
そして、残り一人。屋上に駆け上がり、あたりを見渡すと・・・美奈さんが立っていた。
「み、美奈さん!どうしてここに!!」
「・・・私は時雨様のメイドですが・・・ま、ご主人様の力量拝見と再戦ですよ。それでは行きますね!!」
右腕にはこの前説明してもらった、『蒼月・改』が光っている。そして左腕には『蒼月』と対を成す刀『紅陽』が握られている。そして・・・ありえないことに・・・彼女の背中にはランドセルのようなものが装備されており、黒光りする物騒な黒い筒が僕を狙っている。
「・・・美奈せんせえ、今度僕にその背中のものを教えて下さいね。」
「はい、了解しました。」
一陣の風が吹いて戦闘は始まり、時雨は両腕に深紅の剣を出す。そして美奈は右腕、左腕を振り上げて叫ぶ。
「蒼月奥義!!『蒼青藍』紅陽奥義!!『赤紅朱』」
突如光りだした刀は僕に凄まじい剣げきを喰らわせてきた。そのほとんどは防ぐことにせいこうしたが、学ランは先ほどよりぼろぼろとなってしまった。
その後、ただ剣を振り回しながら戦っていた僕はなかなか美奈さんを倒すことが出来なかったが、持久戦に持ち込んで勝利を収めた。
今回、罰ゲームは一応言っておいた。(仲間は大切にする事)そして家に帰った僕は居間でいつものように寝たのである。うん、ここまでは記憶としてあっているだろう。
「お、起きたようだね。君は今日、登校中の途中で倒れたんだよ。」
保健室の向こうの部屋から賢治がやってきた。そして必死になって思い出すのだが、やはりどこにも今日の記憶がない。これも一種の記憶喪失と言う奴だろうか?
「ま、元気になったのならもういいよね。今日は文化委員長が手伝いはいらないそうだから今日はいつものように授業をうけるんだよ。それじゃ、迷子にならないように教室に戻って来るんだよ。」
時間は既に午後になっていた。その後、僕は教室に5時間目がはじまってから入り、亜美さんの隣で授業を受けた。
そして、休み時間。
「時雨君、学ランぼろぼろだよ。どれかと戦ったの?」
「いや、知り合いと鬼ごっこしてたらこうなったんだよ。」
危うく、体もぼろぼろになりそうだったよ。
「今日は登校中に倒れてたって賢治が言ってたけど大丈夫なの?」
「うん、寝てたからもう大丈夫だよ。」
時雨は少し前から不思議に思っていた。怪我してもほとんどすぐに治ってしまうのだ。それに、前より鼻血が出る量なんかも多くなったりしている。
「・・・・さ、そんなことより次の古文は小テストだから勉強した方がいいんじゃない?」
「そうだね、でも今からやって間に合うかな?」
テストの結果は悲惨なものであり、とても口に出せるものではない。今日の授業はここで終わり、放課後となった。
未だに、先程の結果を悔やんでいる時雨は掃除の当番であったので更に気が重くなる。
「はぁ。」
出るのは溜息ばかり。他の掃除当番の残った一人(他の男子は全て逃げたので時雨以外は全て女子。)は不思議に思って時雨に話し掛ける。
「どうかしたの?」
「あ、高仲さん。実はですね・・・」
時雨は自分のからだの異変と小テストの結果を報告。
「ああ、それはね、罪人天使の体の中には凄まじいほどの回復力を持っている臓器があるんだよ。だからちょっとやそっとの攻撃では死なないよ。」
「はぁ、なるほど。しかし何でそんなこと知ってるの?」
「それはね、私は断罪する者だからだよ。」
「・・・そうですか・・・」
少々、暗い雰囲気になったので掃除をさっさとして終わらせようと時雨は頑張った。
「それよりさぁ、何であの時僕を襲ってきたりしてたの?」
「それはですね、天国にいる神様たちがあなたを恐れているからですよ。時雨さんはかなり危ない存在だと言われていますし、一度世界を滅ぼしているんです。二度と同じような過ちを犯さないように時雨さんを仕留めるのが私たちの任務だったのですが、この前、天国から連絡がきてその必要はなくなったそうなんです。なぜかは分からないんですが・・・だから、時雨さんが『断末魔』に襲われたと聞いたので私は独断であなたの護衛をすることにしたんです。」
「あ、そうなんだ。ありがとう。」
そのとき、教室のドアが勢いよくあいて、一人の人物が立っていた。その男は背が高くかなりがたいのよい体育会系の格好であった。
『・・・標的発見。これより排除します。』
「!?『断末魔』の雷神!!時雨さん、逃げてください。」
男は右腕を時雨に向ける。その腕は人間のものではなく、黒い筒があった。時雨は、その腕に向かって持っていた箒を投げてから高仲を抱いて教室を出た。廊下側ではなく、開いている窓から下にダイブしたのである。
「あ、天使化するの忘れた。」
二階だったので、幸い大怪我する事無く着地に成功した。これも彼が人間だったら骨折していたに違いない。なんとかしびれる足を立たせて上を見る。窓から雷神が時雨を見下ろしていて今度は左腕を時雨に向ける。時雨はさっさとその場を後にした。
そして、また校舎の中に入って時雨は自分達の教室から離れていく。途中、まだ校舎に残っている生徒たちが時雨を指さしている。そのなかに、さっき掃除から逃げていった三人組がいた。
「おーい、しぐれぇー!高仲とデートか?学校でお姫様抱っこしていてもいいことないと思うぞ。意外だが高仲はもてるから少ない男子から反感買うよ。ちなみに俺は亜美だけしかめにないからぁ!」
「違うよ!ちょっと用事があるだけ。」
誰もいないところまで走ってきて高仲をおろした時雨は一応あやまった。
「ごめん、とっさの事だったから・・つい。」
「い、いや、いいよ。・・・そんなことより敵が来たよ。」
廊下を突き当たった場所に先程の人物が右腕から煙を出しながらたっている。その目は間違いなく時雨を睨んでいる。
『・・・許さない。許さない許さない許さないユルサナイィ』
「こ、こえー!もはや顔も人間じゃないし、ホラーだ!!」
「ここは任せて下さい!!」
高仲がいつのまにか持っていた箒で突っ込んでいったが、左腕で軽く払われただけで時雨に激突。
「・・・おかえりなさい。お怪我はありませんかご主人様?」
「・・・ただいま。大丈夫です。」
彼女を受け止めて、時雨は彼女にこう頼んだ。
「・・僕があの機械に襲い掛かるから一撃でしとめることが出来なかったらその隙に一撃でどうにかして欲しい。できるかな?」
「わかったよ。」
もはやコメディーではないような気がしてならないが、ここは黙っておこう。
『我は、哀しみを背負いし天使・・・』
鮮血のような翼が彼をまとい辺りには紅き羽が飛び散る。その光景を見ていたものは数少ない。舞い上がった羽が床に落ちるまでに決着はついていた。高仲は舞い散った紅い羽の向こうで雷神が倒れているのに気がついた。その向こうには時雨が立っている。
「さ、掃除の続きをしようか?早く終わらせないと暗くなるからね。」
時雨は近くにあった掃除用具にぴくりとも動かなくなった機械人形を丁寧に入れた。そして高仲の方を振り返って笑った。
教室、外は薄暗くなっており、もう残っているのは二人ぐらいである。あの後、急いで戻って掃除を再開してようやく今終わったのである。
「じゃ、高仲さんまたね。」
「うん、ばいばい。」
校門の前で別れて小さくなる背中を時雨はずっと見つめた後、再び校舎の中に入った。そして、先程雷神を入れた掃除用具の所まで行って、動かなくなった雷神を引っ張り出して持ってかえることにした。
「・・・ちょっとやりすぎたから修理しておかないといけないな。持ち主が怒りそうだから・・」
彼にそんな高度な自立ロボットみたいなものを直す事は多分出来ないだろう。直すどころか次の日粗大ゴミに出してそうだ。時雨は雷神を引っ張って家まで持ってかえった。途中警察に聞かれたので時雨は嘘をつかずにはっきりといった。
「ちょっと調子が悪いので家に連れて帰っているんですよ。」
まだ話し掛けてこようとしたが、事件性はないと思ったのか警察は諦めてかえっていった。ようやく家の前について時雨はどうしようか考える。持ってかえってきたのはいいが、一体誰がこのロボットを直すんだろうか?
とりあえず引っ張って中に入れる。すると、美奈が時雨のもとにやってきた。
「遅かったですね時雨様。妹さん達は既に帰ってきてますよ。」
そして時雨はこのロボットの事を美奈に任せようと思った。重火器やらなんやらの扱いがうまい美奈なら少なくとも時雨よりはマシのはずだ。時雨は美奈に大体の説明をした。
「分かりました。今日は徹夜でいじらせてもらいますね。」
そして、次の日。朝起きて時雨はトイレに行くとトイレが変わっていた。
「どうです、時雨様?生まれ変わったでしょう?他にいろいろあった部品は私が全部もらっちゃいましたけど、別にいいですよね?」
『はじめまして、私の名前は雷神と申します。これ以後、私は時雨さまのときのみ、トイレでのふんばる時間応援させてもらいますね。』
なんだか、よく分からないままこうして『断末魔』のメンバーが一人消えてしまった。
その頃、消えたメンバーを探している人たちは朝から電柱などに雷神の写真を張っていた。
『名前:雷神 特徴:ごつい 飼い主から切実なメッセージ:雷神、早く戻ってきておくれ、僕は君以外に認めてくれる人がいないんだよぉ』
人形。
誰かが神様の真似をして創造した種族である。基本的に従順な性格で、作成者によってその形や能力は変わる。その昔、天界と魔界の戦争にも使用されていたりもした。一度も暴走などをすることはなく、人形は自分達の手で仲間を増やしていった。だが、稼働時間が存在していて、それを超えるとその人形は動かなくなってしまう。
今回は少し遅くなってしまいました。こんな作品でも待っていてくれる人がいたら嬉しいですが・・・。さて、今回は時雨が何故あんなに鼻血をぶち負かすのかをちゃんと説明してみましたがどうでしょうか?面白かったら幸いです。次回は、勘違いをした人物が時雨に決闘を申し込む話になると思います。