しょのにじゅうはち 魔界編8 つ、疲れた・・・・
はち、
時雨はとりあえず彼女の能力がよくわからないので試験をすることにした。どれだけ魔法が使えるか試してみるのだ。
「・・・さぁ、はじめようか?」
「ええ。」
イクスの今日の授業内容はとりあえず時雨に魔法を当てるといったことであった。だが、時雨に当たるどころかかすることもなく、結果は無駄にイクスが疲れるだけとなった。
「・・・・はぁ・・はぁ・・・」
「よし、じゃあ・・・休憩しようか?」
時雨は近くの席に彼女を座らせてから散らばった本を本棚に戻す。もはや虫の息といっても過言ではない彼女はそんな時雨を見ながら息をする。
「・・・・・せんせぇ、どうだった?」
「ん?まぁ、いうだけのことはあるからね。やっぱり君は筋がいいんじゃないかな?」
あれだけ動き回って息ひとつ乱れていない時雨を見てイクスはようやく整ったため息を出す。
「せんせぇ、やっぱり・・・・私は体力をつけたいのですけど・・・」
「?そうかい、じゃあ今度からは広いところに場所を変えようか?」
すっかり綺麗になった部屋を見て時雨はうんと頷く。そして、イクスの部屋を出た後は調理場に向かって歩く。
「ああ、時雨君じゃないですか・・・。昨日の夜はどうもすいませんね。」
「いえ、いいですよ。」
可愛いエプロンを着てにんじんの皮をむいている魔王とはどうにも想像し難いものである。時雨はそんな彼の隣に立って手伝いを始める。
「時雨君は料理もできるんですね?」
「・・・少しぐらいならできます。一時期ですが一人暮らしをしていたんですよ。」
今となっては遠い過去のような気がする昔の一人暮らしを思い出す。前の自分と今の自分は大きな違いがあるような気がする・・・・。時雨はそう思いながらさっさとにんじんの皮をむいていった。
夕食も終わり、もはや後は寝るだけとなった時間、時雨は部屋に戻ってくる。すると、そこには刀が人間になって待っていたのであった。
「時雨殿、ちょっと体が疲れているようですよ?」
「そうだねぇ・・・ちょっとばっかり顔色が悪い気がするね。」
「うん、ちょっとだけ・・・疲れたみたいなんだよ。」
時雨は再びベッドの上に転がる。このままこうしていたらきっと眠ってしまうに違いない。
「・・・では時雨殿、私たちは城の警護に回りますね。こういうときこそ、主君の影として生きる私の務めですから・・・・」
「・・・はぁ・・・まったく、姉上は頭がきっと固いんだろうね。しょうがないから拙者もついていってやるよ。」
時雨はそんな二人に感謝の言葉を述べて寝ようとした。今日は少ない時間だが、シャワーを浴びているので気持ちがいい。だが、時雨は寝ることができなかった。
「・・・時雨さん、ちょっといいですか?」
「・・・・ん、ハデスちゃんどうかしたの?」
彼の部屋にいつはいったのか、ベッドの近くにハデスが立っていた。
時雨は重たいからだとまぶたに総攻撃を開始、見事勝利を収めていつものような顔に戻ってハデスに座るよう、促す。
ハデスはすでに寝ていたのかパジャマ姿である。だが、ちょっとパジャマが変わっており、なんというか・・・ワイシャツの上だけを着ているようにしか時雨には見えなかった。しかもボタンは上のほうしか止まっていない。過労時でピンクの枕を胸の前に抱きしめるようにしているのできわどさではなく、可愛さが勝っている。
「・・・実は、先ほど怖い夢を見たんですよ。」
そういって顔を青くするハデス。その表情からすると本当に怖い夢を見たようだ。
「どんな夢かな?できれば教えてくれない?」
「はい、実はですね・・・・」
彼女が見た夢は次のとおりである。何故か・・・・気がついたらつぶすとプチプチなる物体をハデスはつぶしていたそうだ。だが、その途中で誰かにそれをすべてつぶされた後に、泣いている彼女の前で更にプチプチをつぶすという、普通の人にとっては間違いなくどうでもいいことであった。
「・・・・あの、だから・・・また見るかもしれないんですよ。」
彼女は何かを伝えたがっているのだが、時雨はまだ気がつかない。眠気が彼を襲っているのだ。眠気と戦っているのではですがいっていることを真剣に考えようとしてもなかなかできない。
「ええと、もっと具体的に言ってくれないかな?」
彼が今にも睡魔に負けそうな感じでハデスに告げる。そろそろ時雨の体力はそこをつきそうになっていた。
「・・・・一緒に寝てください。駄目ですか?」
「・・・・え・・・?別にいいよ?」
眠気が時雨の感覚を奪っていく・・・まるで別人のようなことをいっているのだが、しょうがない・・・・時雨軍は睡魔に負けたのである。
「ほんとですか!!」
「・・・うん、ハデスちゃんも明日は早いだろう?」
「はい!!そうです。じゃ、失礼しますね。」
自分の枕を時雨の枕の隣に置いてから彼女は寝転がる。彼が使っていたベッドは客用なのででかい。二人は悠々と寝ることができた。
「・・・時雨さん、あなたは何で私を助けてくれるんですか?」
「・・・・う・・ん?・・それは・・・」
「それは?」
それ以降、彼は黙ってしまった。答えに困ったのではなく、眠ってしまったのだ。ハデスは時雨のほうに擦り寄っていき、丸まるように眠った。
そして、時雨は目を覚まして驚いた。いや、驚くという表現では足りないだろう。
「・・・・・。」
彼の体にハデスが引っ付いて眠っているのだ。彼を離すまいといった感覚でなかなか離そうとしない。まるでコアラか蝉だ。そして、時雨はもっと驚いた。ハデスの格好は朝から刺激が強いものだったからである。ボタンはすべて外れ、見えそうで見えない・・・そんなきわどい所であった。
「・・・・・?」
昨日のことを思い出そうとしても思い出せない。彼はあせった。かなりあせった。別に何もなかったのだが、記憶があいまいな彼はあせったのである。この後、朝起きたハデスは枕をそのまま時雨の部屋において出て行った。
時雨は思う、世の中には危険がいっぱいだと・・・・




