実家を追放された没落令嬢、氷の魔術師と恐れられる最強辺境伯に溶けるほど愛でられる――と思ったら、ずっとそばにいた少女の正体が彼でした。私を捨てた家族が泣きついてきても、この人は私を離してくれません
没落令嬢の私は、妹の策略によって、雪の止まない辺境伯の元に送られる。
白い息と氷てしまうほど冷たい指先に身体が震えていたら——
氷のように冷たいと思っていた辺境伯に熱く溺愛される。
◇◇◇
「お姉様、ごめんなさい! 私が家の助けになればと思って辺境伯の侍女に応募して採用されたばっかりに……! お姉様と仲が良かった領主様との婚約が後から決まってしまって、お姉様を身代わりの辺境に送ることになってしまうなんて……!」
「この歳で、縁談の一つもないんだもの。あなたは結婚は出来ないわね。妹にちょうどいい就職先を見つけてもらえて良かったじゃないの」
妹と母に見送られて、私は辺境への馬車に乗った。
二人が、『厄介払いできた』と顔を見合わせて笑ったのを見逃さなかった。
二人の悪意に身体が冷えていく。
そうまでして、私を視界から消したいなんて……。
私は、なんのためにこの世界に転生したんだろう。
でも、実家が借金をしている商人の大金持ちの男と結婚させられずにすんだだけマシだ。
一度会っただけだけど、巨大な太った身体からひっきりなしに浮いてくる脂が混じったような汗と、嫌な匂い。
値踏みするように上から下まで舐めまわされるように見つめられて、生理的な嫌悪感から背筋が寒くなった。
妹が、本当は私とあの男を結婚させたがっていたのは明白だけど、領主様と私の仲を割くための辺境送りの計略が返って私の身を助けてくれた。
こんな事で涙を流すのも悔しいけど、まつ毛は濡れている。
緑が乏しくなってくる。
寒い……。
いくら着込んでいても震えが止まらない。
まだ、辺境伯の領地でもないのに、寒さに不安が重なって震えが大きく、心が冷たくなっていく。
ギュッ
肩に手が掛かる。
「大丈夫?」
少し年下の少女だった。
「あなたも辺境伯の侍女に採用されたんでしょう?」
「え、ええ」
「何が不安なの?」
「寒さが……苦手なの。こんな所に来たくなかったけど、妹の代わりに来るしかなかったの」
「そ、そうなの? でも、辺境伯の城の中はとっても暖かいのよ」
「少女は、辺境伯の城に行ったことがあるの?」
「え、さ、採用された時の侍女が言っていたのよ!」
「そうなの? 教えてくれてありがとう。不安だったけど、あなたみたいな子と一緒ならちょっと安心したわ」
寒さと不安で押しつぶされそうだった心が、ホッと落ち着いた。
(れ、令嬢のために、城を魔法でもっと暖めておかないと!)
◆◆◆
馬車が辺境の城に着くと、急いで部屋に戻る。
令嬢の為に急いで屋敷中を暖める魔法をかけた。
こっそり令嬢の様子を見に行くと、頬に赤みがさして暖かそうだった。
俺が満足して部屋に戻ると家令がいた。
「辺境伯、城を魔法で暖めてくれるのはいいですが、暑すぎます。温度を下げてください」
せっかく令嬢が喜んでくれたのに!
他の使用人が暑くて仕事にならないなら仕方ない。
夜の令嬢の部屋だけは暖められるが、昼は移動するから令嬢の場所だけ暖めるのは難しい……。
◇◇◇
辺境伯の城に着いた最初の日は、ポカポカ真夏のような暖かさだったのに、次の日は冬になっていた。
自分の部屋だけは暖かいけど。
「令嬢……。ごめんなさい、城の中は暖かいなんて嘘ついて……」
手に息を吹きかけて温めていると少女が来た。
「少女、どこにいたの? 辺境の人は寒さに慣れてるから、これで暖かいのよ。嘘ってわけじゃないと思うわ」
期待してしまったからがっかりしたけど、少女は何も悪くない。
馬車での道中、ずっとそばで私を暖めてくれたのは少女だもの。
「ここは私が代わるから、令嬢は辺境伯の部屋をお願い。あそこは暖かいから」
「え?」
「大丈夫! 私に任せて!」
「……う、うん」
少女に背中を押されて、強引に辺境伯の部屋に向かわされる。
昨日、城に到着してちょっとだけ見かけた。
氷のように冷たい横顔の人。
見つめられたら凍ってしまいそう……。
辺境伯の部屋に飾られてる冷たいガラスの小瓶が、彼を表している。
◆◆◆
「令嬢!」
俺は少女の姿で侍女の仕事を終わらせて、すぐに自室に向かう。
令嬢が待っているからだ。
馬車の中で見かけた凛とした姿。
泣き出しそうなのに必死に堪えて、まつ毛だけを濡らしてた。
熱い感情を内に秘めてる瞳と、対照的に吐く息が真っ白で美しかった。
この城で、令嬢を俺が暖めたい。
しかし、令嬢はいなかった。
部屋は綺麗に整えられている。
暖炉の前で誰かが休んで暖まっていた形跡だけがあった。
◇◇◇
「ど、どどどうして、辺境伯の部屋にずっといなかったんですか!?」
「どうして少女が知ってるの? ちゃんと暖まれたわよ」
私はにっこり答えた。
本当に暖かったから。
「だったら、なんでもっと暖まっていなかったんですか!?」
「だって、辺境伯に会ったら嫌だもの」
「え?」
「銀髪にアイスブルーの瞳が、見ていると寒くなってくる」
「ええ!!?」
少女が驚いてるけど、普通の感覚だと思う。
辺境伯は氷の王子様って感じだもの。
「く、黒髪ならいいんですか!?」
「私は金髪で碧眼の王子様がいいかな。仲の良かった領主様も金髪碧眼だったのよ」
「な、仲が良かった!?」
「私と結婚してくれると思ったのに、妹に取られちゃったの。だから妹の代わりに辺境まで働きに来たのよ」
「い、妹は神ですか!?」
「どうしてよ。私のものを何でも欲しがって、手に入れるし、面倒なことは押し付けられて、いいところなんて全くないわよ」
「でも、そうじゃないと、令嬢が辺境に来ることもなくて、あ、会えなかったから」
少女がちょっと照れたように言う。
「……うん、そうね。少女と会えたから私も辺境に来れたのは良かった。あの家族と離れられたし。ちょっと寒いだけね」
私は少女を抱きしめた。
「少女、暖かい……。少女と友達になれて良かった!」
これが、前世でも孤独だった私が生まれてきた理由?
「わ、わ、私も、れ、令嬢に、会えて良かった!」
少女は真っ赤になっていた。
女の子同士なのに、変なの。
少女は慌てて仕事に戻る。
ゴトッ
空のガラスの小瓶を落としたことに、少女は気づかなかった。
◆◆◆
「金髪碧眼ってこんな感じか……?」
俺は鏡の前で自分の姿を確認する。
「辺境伯、令嬢が風邪で倒れられたようです」
家令が報告する。
「なんだって!?」
俺は急いで令嬢の部屋に行く。
令嬢が苦しそうに眠っていた。
俺は魔術師だけど、回復の魔法は知らない。
熱で苦しそうな令嬢に冷たい空気を送る。
うなされていた令嬢が、気持ちよさそうに少し微笑んだ。
眠っている令嬢の顔に触れる。
「ん……」
動いた!
もっと笑って欲しい。
ちゃんと俺を見て欲しい。
「……辺境……伯?」
令嬢が目を開いた。
どこかまだ朦朧としている。
「……似合わない……」
俺の金髪碧眼のことを言ってるらしい。
「でも、銀髪は寒そうって君が……」
「……寒そうでも、好き……。氷の王子様みたいで素敵……」
令嬢はまた眠ってしまう。
真っ赤になった俺だけが残された。
素敵って、俺のこと……令嬢が……!
トントン
令嬢の部屋をノックする音。
俺がいるところを見られたら大変だ!
俺は少女になってドアを開けると、看病に来たメイドと入れ違いに出ていく。
「え!? 辺きょ……!」
◇◇◇
ついて早々に風邪で倒れてしまうなんて……。
侍女の同僚にはあまり歓迎されていない気がする。
回復してすぐに、辺境伯の部屋を掃除してと、そっけなく言われてしまう。
私に向けられてヒソヒソ何かささやかれている。
少女に会えなくて寂しい。
相変わらず辺境伯の部屋は暖かい。
私の部屋と同じくらいの暖かさだ。
辺境で育った人には暑すぎるんじゃないかしら。
あんなに冷たくて氷みたいで綺麗な人なのに、寒がりなの?
私は、考えに耽ってしまい、ハッとする。
早くしないと辺境伯がきてしまう。
鉢合わせしてしまったら嫌だ。
風邪で寝ている間に夢を見た。
金髪碧眼になって辺境伯が私に会いにきてくれる夢。
まるで、私に好かれようって頑張ってるみたいでとっても可愛い人だった。
私のために何かしてくれる人なんて少女が初めてだったのに……。
夢を見てからますます、辺境伯の事を考えると胸が苦しくなる。
あんな素敵な人、絶対に好きになっちゃうから、近づきたくない。
妹と二人で金髪碧眼の王子様に憧れていた子供の頃。
領主様はその憧れをちょっとだけ満たしてくれたけど、辺境伯は本物の王子様だから、私に振り向いてくれることなんてないもの。
ただ、遠くから見て満足していたい……。
「令嬢……!」
そう思っていたのに、辺境伯が入り口から入ってくる。
「君が俺の部屋にいるって聞いて急いで戻って来た……」
え?
辺境伯は息を切らしている。
「やっと会えた……君は俺のものだよ」
辺境伯が私を抱きしめた。
◆◆◆
令嬢が俺の腕の中で真っ赤になってる。
可愛い。
やっと令嬢を抱きしめられて、俺の身体も熱い。
「……辺境伯、部屋が暑いんじゃないですか?」
令嬢が戸惑いながら俺に尋ねる。
令嬢は暖かいように調節してあるから、俺には暑すぎるのは確かだ。
「私のために、ありがとうございます。でも、私も辺境伯と抱き合ってると暑いです……」
見ると令嬢の赤い顔が少し汗ばんでいる。
俺は慌てて魔法の暖房を切った。
魔法以外の暖房を使ってなかったから、雪の降る外と同じになって途端に寒くなる。
「辺境伯……寒いです。でも、極端で可愛いです。こうしてると、暖かくて幸せで」
極端と言われて恥ずかしいけど、令嬢が可愛いって言ってくれた。
俺は令嬢をもっと強く抱きしめる。
令嬢の熱が身体に伝わって、まだ暑いくらいだった。
日が傾くまで、令嬢と抱き合う。
「あ! も、戻らないと! 全然、仕事してない!!」
令嬢が俺から離れて立ち上がる。
「ここにいればいい、もう俺とずっと一緒だ」
俺は、令嬢をもう一度抱き寄せた。
「そう言うわけにわ……。侍女として雇われているし、全然仕事してないけど……。辺境伯より嫌われたくない人がいるんです」
「え?」
お、俺よりも好きな奴がこの城に!?
「辺境伯のことは大好きだけど、戻って侍女の仕事をします」
令嬢は出て行った。
途端に凍える寒さになる。
「くしゅん!」
へ、部屋を暖めないと。
令嬢の部屋も……。
……。
なんで、俺のこと素敵だって、王子様みたいだっていって。
さっきまで、あんなに強く抱き合っていたのに……。
俺は足の力が抜けて膝から崩れ落ちた。
床になんとか両手をついて、倒れずにはすんだ。
なんで、なんでなんだ!?
令嬢ーー!!
◇◇◇
戻るのが遅くなっても侍女たちは私に何も言わない。
嫌われてるみたいで寂しいけど、怒られたら言い訳しようもない。
使用人の食堂にも少女の姿はない。
今までも食堂で少女を見かけた事は無かったかも。
ポケットからガラスの小瓶をだす。
これだけが、少女の存在した証になってる。
自分の部屋に戻ると温かかった。
辺境伯が暖めてくれてる。
今日のことを思い出すと顔が赤くなる。
少女は私と辺境伯をくっ付けようとしてくれていた気がする。
会って話したら喜んでくれると思うけど……。
◆◆◆
俺は少女に変身していた。
令嬢が好きな男の正体を暴かなければ!
なんで! あんなに強く抱き合ったのに、俺より好きな男がいるんだ!
「少女!」
令嬢が俺を見てすぐに駆け寄って抱きついてくる。
「会いたかった……!」
上気した頬で、優しく笑う令嬢。
俺を見る時よりも愛しそうで……。
「辺境伯と一緒にいたかったけど、私のことを気にかけて、なんでも聞いてくれる少女の方が大事だから……」
令嬢が好きな奴って俺(少女)!?
「わ、私なんかより、辺境伯の方がずっといいです! すぐに辺境伯のところに戻りましょう! 令嬢!」
「……少女は、私といるの嫌なの!?」
「そ、そういうわけじゃ……」
「なら……ん? ……少女の香りが変わった……」
令嬢がポケットから小さなガラス瓶を取り出す……。
「れ、令嬢のお母様がお見えです」
家令が掛けて来る。
俺にかけてくるつもりで、少女の姿なのを見てしまったという顔をする。
「え……?」
令嬢が自分を呼んでると思って、困惑している。
令嬢が家令に付いて行き、俺も変身を解いて後を追った。
◇◇◇
「妹が領主様に婚約破棄されたのよ! 妹はうちが借金をしているあの汚い男の元に嫁ぐしかなくなったと言うのに、あの男は腐った性根が治るまでは実家の支援は出来ないと言うの!」
妹があの嫌悪感しかない男の元へ嫁いだの!?
領主様との婚約をとられたけど、子供の頃に金髪碧眼の王子様に二人で憧れていた頃があった。
あの巨大な男の元に妹がいると思うと吐き気がした。
「妹は泣くばかりで頼りにならないし、領主様はあなたと結婚したいといっているの。結婚したら実家も支援してくれるっていうのよ! こんな陰気な辺境なんてやめて、帰りましょう!」
……あんなに頼りにしていた妹を売って、まだ自分のことだけ……。
なんて母親なの……。
怒りで震える手を強く握りすぎて爪が肌に食い込む。
「俺の侍女を勝手に連れていくのはやめてもらおうか」
冷たく凍る、それでいて威厳のある声が響く。
辺境伯が母を見つめていた。
神秘的でカッコいい。
私はホッと落ち着いて、震えが止まった。
「これは失礼しました。でも、こんな子が一人消えても辺境の城なら問題ないでしょう」
「それが問題あるんです。ところで、婦人。あなたはここまでどうやって来られましたか?」
「馬車を雇って来ましたわ」
「代金は?」
「この娘が払ってくれますわ。今まで、働いた分の給金もあるでしょう」
「問題というのはそこなんです。彼女は城で全く働いていないんです」
「なんですって!?」
なんですって!
私も一緒に驚いた。
「勝手に持ち場を離れて別の場所を掃除したり、病気になったり、持ち場に行ったのに一日中仕事をしていなかったり、彼女は給金を貰える程は働いていないんです」
「そんな……!」
「食事や部屋の割り振りや治療費など、むしろこちらが請求したいくらいだ。お母様が来たのならちょうどいい。家令、請求書を作り払ってもらえ。ここまでの馬車代も」
「そ、そんなお金は……」
「払えないなら、地下牢で罪を償ってもらうだけだ!」
辺境伯が一喝する。
「くっ! ……わ、わかりましたわ。この娘はあなたに売りましょう。借金を返してもお釣りが来るでしょう」
母はそう言って辺境伯からお金を引き出そうとする。
「やめて……」
私は声を絞り出した。
「私と妹はあなたの娘なのよ。競わせて、搾取できるほうにとりいって、利用できなくなったらゴミみたいに捨てて、もう一人の方って、それだけで我慢できないのに、お金になるならそっちがいいって……!」
ここまで……ここまで腐っていたなんて!
「私が辺境伯のものになっても、あなたにはなんの関係もありません。あなたは母親でもなんでもない、他人です」
「なら、ただ馬車の代金を払っていないだけか。すぐに捕まえる必要があるな」
辺境伯が言うと兵士が現れて、母は地下牢へと連れていかれる。
「待って、違う! 嘘よ! 許してーー!!」
「あなたが私の母親だったのが嘘だわ……」
絶叫しながら母は消えていった。
同じ城にいても、もう、二度と会うことはないだろう。
母を視界から消してくれた辺境伯には感謝しきれない。
でも——
◆◆◆
令嬢の酷い母親は牢に入れた。
きっと令嬢が喜んでくれている!
そう思って令嬢の顔を見る。
令嬢は怒っていた。
「私が働いていないって? あなたのせいでしょう!」
「俺のせいって……?」
「ここはいいから辺境伯の部屋に行ってって行かせたり、掃除しようとしたのにずっと抱きしめたり。病気は私のせいだけど……」
俺が少女だってことがバレてる……。
「……なんで、バレて……」
令嬢がガラスの小瓶を取り出す。
「少女はこの香水をつけていたのに、空になって使い切ったのね。さっき会った時に別の香水の匂いがしたけど、それは辺境伯の部屋にあった香水の匂いだったのよ」
「……に、匂いで……」
「ちゃんと働こうとしてたのに……」
「ご、ごめん。風邪はなれない場所だし仕方ないよ。君の母親を追い払うために、ちょっと誇張したんだ!」
「少女は……最初から、いなかったのね……」
令嬢が今にも泣きそうな顔になる。
「俺がずっと少女だったんだ。この城に来る途中の君の悲しそうな顔に一目惚れして、ただ君に近づきたくて、慰めたくて……少女になった……」
「うん、少女は慰めてくれた……」
「でも、君のそばにいたらもっと触れたくなって、抱きしめたくなった……」
令嬢に近づく。
「……あなたは、少女じゃない……」
令嬢は涙を流した。
「でも……少女がいたから、あなたのことを見る余裕が出来たんだと思う。安心できないと、いくらあなたが素敵でも、好きになれないもの……。きっと、私は同一人物として一緒に好きになったんだと思う」
令嬢が俺を抱きしめてくれる。
俺も強く抱き返した——。
「でも、他の侍女たちにも働いてないって思われてたのが悲しくて……」
「令嬢、それは違います!」
侍女何人も集まっていた。
「辺境伯が少女の姿で気にかけているのはバレバレでしたから、令嬢は特別な方だと、みんな最初から知っていたんですよ」
口々にそう言う。
ば、バレてたのか、俺の気持ち!
俺は真っ赤になる。
令嬢も赤くなってる。
「私は、本当に少女が女の子だと思っていただけで……」
「辺境伯の部屋に行かれる時は、令嬢もとても嬉しそうでしたよ」
令嬢の顔がもっと赤くなる。
「知らない侍女がいればみんな気付きます。バレバレでしたよ、お二人とも」
「これからは、ご夫妻のために働きますよ」
◇◇◇
私は辺境伯の部屋にいる。
最初から婚約者としてこの城に来たことになっていた。
辺境伯は今日も私のために部屋を暖めてくれる。
けど、私は寒い部屋で辺境伯の体温で暖まるのが好き。
あなたの熱い身体に抱かれながら、あなたの情熱が白い息になって見えるの。
「じゃあ、妹の結婚相手の商人を知ってるの?」
「君のいた街の領主とは取引があって、商人とも知り合いだよ。侍女の募集を手伝ってくれたのは商人で、可哀想な令嬢が来るって連絡をくれたのも彼なんだ」
「え? じゃあ、商人がいなければ辺境伯は私を好きになってくれなかったの!?」
「君のことは一目見た瞬間に好きになるよ。……ただ、少女にはなってなかった」
「私も、辺境伯の事は一目で好きになったわ。でも、少女がいたからもっと好きになったの。辺境伯の暖かいところを深く知れたのは、少女のおかげよ……」
辺境伯がキスしてくれる。
こんなに熱くてとろけそうになるのは少女を知ってるから。
『腐った性根が治るまでは実家の支援は出来ない』と商人に言われたと母が言っていた。
領主様に婚約破棄されて行き場のない妹と結婚して教育までしようとしてくれるなんて、本当に見た目以外は聖人のような人なんだわ。
「領主様も知ってるんでしょう? どんな人なの?」
「すごく性格が悪くて嫌なやつだ」
「……嘘よね?」
私は思わず笑ってしまう。
辺境伯の嫉妬はすごくわかりやすくて可愛い。
春になって雪が溶けたら、性根が治って別人みたいになった妹と商人が、商談のためにやってくる。
「辺境伯婦人、また、お会いできて光栄です」
そう言って私にへりくだる妹。
私と結婚できなかった領主様も商談にきて、辺境伯がこれみよがしに私に抱きついてくる。
私も辺境伯が大好きだってずっと離れず伝えるの。
「君は、一生この雪の城で俺の体温を感じていればいいだけだ。君の全ては俺のものだから、全部俺に委ねて」
「はい、辺境伯」
幸せな予感に胸が高鳴る。
私は、あなたに会うためにここにいる。
辺境伯は、私を一生離してくれません。




