1-09.サルから始める魔法教室
例の木陰に集うヨッシー・ラッド・セバスの転生三人組。
学費と探索者の実入りにある程度の見通しが立ったとして、各自のギフトの検証経過を共有する。
「俺の【個人倉庫】、朝晩の1日2回使ってるが、変化なし。魔力は自然回復こみでギリ感。腹は減るけど」
「そう、魔力使うと腹減るんだよなあ。ちゃんと身体に栄養回せてるのか心配だ」
三人の中では一番背が高い角刈りのラッドの体型は、若干ひょろっとした印象を受けなくもない。
養護院、味はともかく腹いっぱい食えるからなと語る雑な短髪のヨッシーのお腹に、ひっつめ髪のセバスが手を伸ばす。
「スキル成長のトリガー、使用回数でなければ入れるモノしか思いつかないなあ」
「だから腹に話しかけるなっつーの」
たぷたぷぅ。
「自分の【通信販売】、手当たり次第に『入金/買取査定』試してるが、中銅貨15ポイント、粒銅が4ポイント。当然どっちもキャンセル」
この国で通用する貨幣として最低単位なのが粒銅。
ふちがギザギザの短冊状をしたちまっこい銅貨で、交換レート上は粒銅6枚で小銅貨1枚になる。
同様に小銅貨4枚で中銅貨1枚。
金銭価値で粒銅を1とすれば、小銅貨6、中銅貨24。
これが【通信販売】の『入金/買取査定』だと4:10:15。
「金銭価値じゃなく、地金の評価値っぽいですね。おカネとして普通に使う方がマシみたい」
「銅がグラム1ポイントって感じか。金銀は試す機会もないが、期待できそうにないな」
庶民レベルだと、それこそクオルタ銀貨が常用の最高貨幣とも言える。
もっぱら銅貨経済圏で一部の銀貨が高額貨幣として扱われる感じ。
金貨なんて貯蓄貨幣か大取引の決済貨幣であって、普段の生活に関わらないよねという感覚だ。
ラッドも魔力の余裕の限り、なくなっても問題ないモノをポイントに変換する作業を継続。
ただ、ゴミはゴミなのだ。ろくなポイントにはなっていない。
☆
「僕は図書館で調べた【生活魔法】のうち2つ、修得を目指してみました」
【生活魔法】の呪文は、【魔術】における一般魔術あるいは小魔術階梯と同等とされる。
この前提が正しければ、少なくとも15の呪文が存在することになる。
セバスが加護で得たプリセット呪文は7つ。
【生活魔法】の記録上、12までは確認できた。
つまり、5つは未修得であり、さらに記録に確認できなかった同等魔術の3つも会得できるかもしれない。
今回試してきたのは光属性の【小癒】と無属性の【力弾】。
「応用・拡大解釈方面じゃなく?」
「新しい呪文の修得できたら、ヨッシーたちに教える手がかりになるかなって」
加護はポン付けなので、どうやって修行すればそうなるのかが全くわからない。
セバスは両手を上げた。
「ところがねー、ただ呪文唱えてそれっぽいポーズとってみてもダメ。発動しない」
「ダメかあ」
何回も何回もブツブツと呪文を呟き怪しいポージングを繰り返す息子に、見かねた母が介入した。
セバスの母は加護で【土属性魔術】を得ていたが、魔術科ではなく家政科卒。
【土属性魔術】には軍人や探索者、土木系の仕事もあるが、魔術士として食っていくわけじゃないなら家政科という選択肢もある。
女性として、嫁ぐのに評価が高いのは当然、家政科卒になるのだから。
ただし魔術科の講座も最低限おさえていた。魔術士の、嗜みとして。
さておき、呪文の修得で大事なのはイメージ。
どう魔力を集め動かし、どういう作用・現象を起こすのかのイメージ重点。
願う心・信じる心が力になるとの母の薫陶を受けたセバスがイメージトレーニングに励んだのは言うまでもない。
「一度発動が成功すると、二度目以降は徐々に成功率あがる感じでした。【力弾】」
セバスの指さしたすぐ先の地面でパンッっと小さな小さな土埃が舞った。
「ただし、これが元来の【力弾】と同じものかはわかんないです」
ユーザーの多い魔術だと、誰かのモノを手本にしてそれをイメージし再現するという習得プロセスを経るのが普通で、学院の魔術科でもそれを踏襲している。
だが、【生活魔法】の使い手は少ないうえにハズレ加護認識なので、ほぼほぼ全員が初期インストール呪文を生活の中でほそぼそと使う程度で終わってしまう。
セバスの【着火】の炎が青白いように、同じ呪文名であっても他の生活魔法使いのものと何か違うだろうとは想像がつく。
【力弾】もまた、あくまでもセバスのイメージした無属性魔力の小さな塊を射出するというものになっている。
「あれ? 呪文は?」
「つきつめればいらないっぽ」
「無詠唱じゃん!?」
「発動句(呪文名)は省略できていないのと、魔力操作の時間はかかるから、無詠唱じゃあないでしょう」
なお、魔術士界隈では詠唱省略の時点で高等技術です。
彼ら三人が前世におけるサブカルチャー汚染著しいだけです。
「発動句も省略できれば、無言って意味での無詠唱でいいと思うが」
「それがですね、人間、イメージを連想させる何かがあるとわかりやすいというか……
『相手の懐に飛び込んでしゃがみ状態から回転ジャンプしながらのアッパーカット』と逐条で動作を説明するよりも、『昇〇拳』の一言で一連の動作や結果が伝わる現象的な?」
「完璧に理解したわ」
「発動句が、一連の魔力操作をまとめたマクロのショートカットになっちゃってるのか」
だから、そのショートカット詠唱に挑戦した魔術士が、どれだけ屍をさらしてきたのかと小一時間。
☆
「『サルから始める魔法教室』、はっじまるよー」
「「ウッキィー!」」
「魔力認識はパスしたものとして、魔力を体外に出せるかどうかチャレンジー」
「「ウホッウホッ!」」
「ちなみに属性の適正が無い場合、すべてが無駄になります」
「「ブーブー」」
適正を調べる『魔力適性鑑定』を受けるにも、魔力を体外に出すという大前提をクリアできている必要がある。
お金もかかる。
「【力弾】は無属性。こう、お腹の底の方から色のついていない魔力を引っ張り出して、腕を通して指先に。僕は、血管・血流に乗せていっとけってイメージです」
だが仮に無駄になるとしても、彼らにチャレンジしないという選択肢はない。
だって、魔法だから。
「チャクラを開いて気を回すみたいなもんかねえ」
「気かあ。たしかに生命力っぽいイメージ」
ラッドが武術っぽい系で理解を示し、ヨッシーも追随する。
「指先に魔力が溜まったら、小さな弾丸のイメージで固めて、射出。【力弾】」
デコピンくらいの威力が近場の地面を襲う。
「せんせー、指先云々以前に魔力が動きません」
「ひたすら繰り返してやってみて。としか」
「それは、そうなんだろうが……」
「もうちょっとこう……、手心というか」
とにかく魔力を身体のあちこちに動かす訓練、動かしてみようと努力するべしとの方法論は、実際正しい。
鍛錬・修練によって自力で魔術に開眼した人たちのしてきた魔力操作訓練そのものである。
「腹式呼吸で瞑想で……」
「ヒッヒッフー」
「ウッキー」
とにもかくにも地味で成果の見えない鍛錬を、ひたすら繰り返すしかない。
サルのように。
ゆえに、『サルから始める魔法教室』。
講師役自らもサル化しているが仕方ない。
だって、魔法なんだもん。




