1-05.足の遅いチーターたち
【祝福の儀】では加護を授けられると同時に、自己認識、いわゆるステータスを確認できるようになる。
意識することで脳裏に浮かぶもので、他者に見せることはできない。
①名前(年齢)
②霊格レベル
③加護技能
④(加護じゃない一般の)技能
ヨッシーの望んだ『ゲームっぽい』ステータスと呼ぶには貧弱な項目だが、「これがないと与えた加護の確認もできないの」という切実な事情で付与されている。
表示されないけれど、実は【自己認識】も③枠の加護技能なのだ。
☆
雑な短髪のヨッシーことヨルグの加護技能は、【個人倉庫】Lv.0(縦5cm×横5cm×高5cm)。
「待って、単位がcmなの?」
「最初、『1辺およそ2サムビッツのキューブ体』だったのよ」
しかも、『テルミンのサムビッツで2倍ちょっと』『アルツのサムビッツで2倍弱』。
なんのこっちゃとヨッシーが唸っていたらcm単位になっていたそうだ。
身体尺/身度尺や生活を基準にした尺度には、個人差や地域差がつきもの。
1食分だから1合のように生活に結びついたわかりやすさはあるものの、絶対値としてはいまいちだ。
転生三人組はSI単位系を理解できるので、彼らに関わる数字は基本そっちで表示する。
「異世界もので収納系の【ストレージ】だの【インベントリ】だのは欠かせないチートの定番」
「日本人にとって『四次〇ポケット』と『どこで〇ドア』、ついでに『タケ〇プター』は基本だものな」
国民的人気漫画は、もはや刷り込みレレベルで認知されていると思います。
「実際使ってみたんだが……使い方がポンとわかるって、すげぇけど気持ち悪いな」
「ノーミソいじられたんだなって思うと、ねえ?」
前世記憶を流し込まれた時点でいまさらではある。
「亜空間的なとこに出し入れするのに魔力ってのを使うらしくて、入れる時はなんでもなかったのに出すときにめっちゃ頭痛くなって視界がぐるんぐるんしてゲロ吐いた」
「魔力切れっぽい?」
なお養護院での実演時の反応。
レベル100を目指すと言い出すなんて、凄い加護を貰ったのかと思っていたら、どや顔で小石を隠し、取り出したと思ったらいきなりゲロを吐いたヨルグ坊やの将来が心配されている。
「最近、なんか腫れ物に触るような態度とか、生温い目とか」
「お、痛い子扱いか?」
☆
角刈りのラッドことラドクリフの加護技能は、【通信販売】Rank:0。
「異世界通販キタ! これで勝ツル!」
小躍りしたヨッシーだったが、購入可能品目は水(500ミリリットルPET)・塩(100グラム小瓶)・シリアルバー(チョコ味)・手羽先(醤油味)の4点のみ。全部200ポイント。
「小銅貨1枚を『入金/買取』してみたら10ポイントに変換てことでキャンセルした」
「え!? チョコバー1本に小銅貨20枚!?」
絶望の呻きがヨッシー方面から聞こえた。
「シリアルバー(チョコ味)な。家のおとんの日当が小銅貨だと16枚くらいだったはず」
「職人の日当以上……いや、でも、チョコ味にはそれだけの価値が……」
手元から石ころをひろって差し出すヨッシー。
「これ、ポイントにできる?」
「……0.08ポイント」
小数点以下あるんだと軽く驚くセバスをよそに、次々と石を拾っては差し出してくるヨッシーだったが、8回目にラッドが額に手を当てた。
「いきなり頭痛がきた。背筋にも嫌な寒気がある」
「あ、多分それが魔力切れの前兆です」
現在の保有ポイントは0.63。
ヨッシーがシリアルバー(チョコ味)を食べられるのはいつの日か。
☆
ひっつめ髪のセバスことセバスチャンは、加護技能、【生活魔法】(7種7spells)のお披露目。
ぶつぶつと呪文を唱え【着火】と宣言すると、セバスの指先に小さな青白い炎が揺らめいた。
「異世界とくれば魔法。異論は認めない」
「「理解する」」
そう、魔法なのである。
「僕の保有魔力、いわゆるMPを仮に10として、火属性の【着火】、背筋に走る不快感と脂汗で頭痛が無視できない領域になるのが10回目」
「てと、消費MP1か」
ラッドが単純な計算だなと言おうとしたところに、続きがあるとセバス。
「水属性の【清水】他は1日5回、無属性だけ6回使えて若干の余裕ある感じ」
「ん?」
土属性魔術士の加護を持つセバスの母曰く。
生活魔法の【着火】は、火魔術の一般魔術階梯/小魔術階梯の【種火】とほぼ同等。というか同じものと思われる。
「火魔術の【種火】が消費MP2。
これをそのまま当てはめて、【生活魔法】のどれも本来の消費MPが2とすると、僕は火属性と非常に相性がよくて、無属性もまあまあという結果になります」
相性がいい属性だと、消費MPが少なく済むのだ。
各種属性魔術のギフト持ちはそれなりの出現率があり、長年の研究の蓄積もある。
【生活魔法】もたまに出るのだが、ポン付けされたプリセット・スペルが各種魔術の最低階梯と同等ということで、残念なハズレ加護と認識されている。
☆
それぞれの加護の検証の総括。
「ヨッシーの【個人倉庫】は容量次第だな」
「やっぱ成長のカギは使用回数だよな?」
『Lv.』だの『Rank』だの補記されている技能が成長しないはずがない。
ラッドの【通信販売】も使用回数、累計取引額あたりが成長・ランクアップの肝と予想される。
「品目次第だろうけど、ぶっちゃけ日常雑貨でもありがたい」
「前世日本基準の日常雑貨なんて神ですか」
とにかくにもポイントを貯めないと話にならない。
なくなっても問題のないモノを、せっせと『入金/買取査定』を経てポイント化することになる。
なお、親兄弟はじめ周囲の人たちに、あの子のギフトは【ゴミ箱】らしいと思われてしまうのは仕方のない話。
「セバスの【生活魔法】も回数か?」
「魔術系と同じなら知識・修練と霊格レベルなんですが、【生活魔法】には階梯ごとの呪文書がないみたい」
魔術士であれば、各種呪文をモノにしていくプロセスが確立されている。
師や呪文書に学んで知識を詰め込み、師を見本に魔力操作の実践演習を重ねるのだ。
「知識部分、呪文などを自力で構成・練り上げられるなら、あるいはいずれ核撃は嗜みにて候……」
「ほほう、中二心が漏れ出しておる」
「やはりコヤツも罹患者よのう」
実は『物理法則や化学現象の理解度』の違いからのトンデモ展開は、すでに示されている。
セバスの【着火】で出現するのは『青白い炎』。
セバスの母は、我が子が【生活魔法】というハズレを引いたうえに、赤や黄のような『まっとうな色の火』でないことに心を悩ませている。
神学的には、女神さまのくだされる加護に「ハズレ」などというものはない。
建前論はさておき、三人とも周囲からはハズレギフトを得たと思われているのだが、自覚的には真逆。
「実質チートな加護貰ったなあ」
「今今で『使える』ものではないってだけだな」
スタートダッシュを決めるような足の速さはないけれど、『将来性に期待』できることも『待つ』ことの大切さも理解できている。
だから今は深く静かに。
音無き流れは水深し。




