1-03.英雄級探索者を目指そう
満10歳で受けられる【祝福の儀】は、人生にとって大きな節目である。
儀を経て、世間一般に成人とされる15歳前後までが、与えられた加護を踏まえて、半人前・小さな大人として将来選択をする期間。
といっても職業選択の不自由な社会。
家業を継ぐか丁稚に出るか、家庭内奴隷に収まるか脱走して盗賊になるか探索者になるか、選択肢などこの程度。
転生からまりの対価支払いを抱えるラッド・ヨッシー・セバスの三人にとっては、事実上の一択。
この世界ではレベルシステムが採用されている。
三人の霊格レベルが100に達するまでの間に、天引き的に対価を徴収され、100到達で完済となる。
なおここでいう霊格レベルとは魂や肉体の格のことで、人格・人品のことではない。
修行によって磨き高めたり、倒した相手の霊格を一部取り込んだりで霊格レベルがあがる。
「つまり、自分たちは経験値的なものを天引きされる、成長デバフだな」
「一気にゲームっぽくなったぞ」
野の獣や、あるいは人を殺しても霊格は取り込める。
凄腕の狩人や戦場の鬼なんてものものが生まれるのはそういうこと。
しかし、例えば地上の山で野生のクマを10匹狩るのは相当に大変だ。
ダンジョンでは、魔物が尽きることはない。
得られる霊格量は総じて低めとされるが、数をこなせる。
ゆえに、ダンジョンに潜る探索者こそが、三人の要望、レベルあげに最も近い職種ということになる。
「『ゲームっぽい』システム、加護がそもそもダンジョン用のようですし、探索者しかないです」
ひっつめ髪のセバスのまとめに全員が頷いた。
どうせ自分は次男だからな、と角刈りラッドは苦笑した。
どこかに丁稚に出され職人修行するのも、探索者として命をチップにするのも、やりがいとしちゃ大差ない。
そこに、前世の悪友同士で人生ゲームを協力プレイ。楽しんでやろうというのだ。
モチベーションもあがるというものである。
「ただ、レベル100までのロードマップは想像もできなかった」
雑な短髪のヨッシーが続いた。
「俺もレベル100にはどうすればなれるかって手当たり次第に聞いてみたけど、なんかこう、生温い目で見られたっていうか」
ちなみに三人の知るところではないが、現在のアクヤ・ダンジョンで活動する探索者のトップグループがレベル50から60台。
この国の建国王がレベル100であったとか、時代が下って大戦争時代に活躍した英雄王がレベル100だとか。
実際どうだったかは知らないけれど、おとぎ話や伝説ではそうなっている。
そういう伝説で語られる存在を目指そうとする10歳児がいたとします。
レベル100とは、キリのいい値だから謳われているんだろというのが世間擦れした大人らしい感想。
現実を知らず、おとぎ話を素直に信じて憧れることができるのは子どもの特権。
でも、その夢をいたずらに否定せず見守るのも大人の役割かもしれません。
いずれ現実を知り夢破れ挫折を味わうとしても、それが成長し大人になるということなのですから。
☆
世間にはあまり知られていないが、ダンジョンとは『霊格の修行場にして物資の獲得場』であると女神から宣託されている。
【祝福の儀】で授けられる加護も、本来はこのダンジョンへ『挑む者への援け』だ。
そしてまた、為政者にとってダンジョンとは、各種ドロップに採集・採掘で得られる資源を産出する、一種の鉱山でもある。
この国自体が元はアクヤのダンジョン鉱山で発展した由来を持つ。
今でこそ一地方都市だが、アクヤは小国時代の王都でもある。
建国王がレベル100という伝説も、王自らがダンジョンに入り浸っていたからか、あるいは入り浸った結果とてもお強くなられて王様やるしかなくなったためか。
伝説は、そのへんの裏事情を語らない。
転生三人組の所在するアクヤの街周辺、所属する国の政治・社会制度は前世でいう中世的な封建社会。
王様が絶対権力を握るには至らない、領主たちのなかで抜きんでた頭くらいの位置付け。
農業は大規模な地主による荘園制や、より小規模な農家による耕作が地域によって入り混じる。
産業の基礎は徒弟制で、各種の同業者組合が品質と雇用を守り新規参入を拒む。
アクヤは現在も王家直轄領であり、伯爵級の代官およびその取り巻き(上級官僚)が派遣される。
市街地と周辺地域だけで公称5万人、近郊の農村も含めたアクヤ領全体では公称10万人の人口を抱える大都市・領だ。
ただしこれは都市籍や農村籍に記載のある成人人口。
未成人者や流動人口などを含めると数倍が暮らしている。
余談だが、下級官吏は現地人がほぼ世襲しており、ひっつめ髪のセバスの家もそのひとつ。
☆
・目的 転生にまつわる借金(?)完済。後ろ向きにはペナルティの回避
・必達目標 レベル100
・方針 ダンジョン探索者
セバスが、地面に書き出した『探索者』を指し示し、情報収集の成果を披露した。
「方針を一段掘り下げて学院を推します。ていうか、僕は学院行きがほぼ確定」
この世界の管理者の配下を名乗る『まばゆい人影』こと転生担当の作為こみこみなのだろう、ここはダンジョンで栄える都市アクヤ。
王国の運営する学院も設置されている。
王家・国はダンジョン鉱山からの収穫を重要視し、学院にも探索者を育てるための部・科を設置。
国策として広く門戸を開き、平民のみならず留学生も受け入れている。
そう、他国の者であっても、ダンジョン探索者としてならば緩い基準で受け入れる。
だって、向こうから来てくれる鉱山奴隷と思えば、ねえ?
そういうわけでアクヤの街の学院の戦術部探索科は、300人ほどの在籍人数を誇る。
少ない?
門戸は開かれていても、自発的に学ぼうとする人間はどうしても限られてしまう。
それこそ、下級官吏を世襲する家として、子息に最低限の教育を施すことは親の義務と考えているセバス家は、平民枠での上澄みだ。
「『学』の大切さは前世でも明らかだったが、『学院』なんてモノがあるのか」
職人として中堅クラスの親を持つラッドの認識からしてそんなもの。
門戸は広く開いている。
だが、平民でも上流層や富裕層にはともかく、学院の存在自体が世間に広く知られていない。
「その学院に、探索科って、探索者活動のタメになる学科があるってこと?」
「そう。知識・技術はもちろんですが、コネとかツテとかも重要なんですよ。苦手だけど」
前世での挫折経験などの記憶もあり、ラッドもヨッシーも、セバスの言を理解できる。理解できてしまう。
だが引っかかるのがそれぞれの家庭環境事情。
「自分とこは、学費出せないだろな」
「俺だってだ。養護院だぞ」
もちろんセバスも、二人の事情はこの10年の現世知識で推しはかれる。
しばしの沈黙を破り、わざとらしい低い声で告げた。
「稼ぐしかあるまい」
「セバスだけど御屋形様ぁ!」
「自分にも異議はないが、方法がなあ」
ともあれ、おおまかな方向性の確認はできた。
時間もそれなりに経っているし、材料がない中で考えてもムダなので、今日の集会は終わりとする。
今日明日の飯すら危うい非常時サバイバルモードでもない限り、使える時間は下準備にあてるのが社会人経験者の嗜み。
段取り八分の精神なのだ。
「稼ぎの方法とそれぞれの加護の検証、また来週ていうか週末の無の曜日でどう?」
「俺はOK」
「自分もなんとかする」
そういうことになった。




