13-10.女神様の御意思か?
秋分祭週の夜、転生三人組は年に一度の振り返りを行う。
転生発覚から実に19回目の秋、28歳という年齢になっている。
「レベル91から93。あがっちゃいるが、厳しいな」
「領主化案件もあるのに、僕たちはダンジョン&ダンジョンさせてもらってこれですからねえ」
「30歳までに完済達成フリーダムは無理目か」
現状が半年で1レベルアップのペース、この先さらに鈍化するのも確実だ。
ただし、合計6レベル分の成長のオーブが手元にある。
レベル99ないし98までのジャンプに使う、その時が来るのをじっと待っている。
☆
秋季冒頭、一年間のクラン運営方針を決定する年度会議の議題は大きく三つ。
一つはダンジョン活動方針。
三人組のレベル100達成に向け、鋭意努力で結論。というか、もう、それしかない。
浮遊島ガーディアン戦という新要素はあったが、ルーティンは組みあがっており、回数をこなして獲得霊格量を積み重ねる。
成長のオーブというドーピングアイテムの追加入手は運次第ゆえ、計画には入れない。
二つ目は子どもたちのこと。自分たちの、そしてクランの今後について。
今年度の学院幼年科への進学は5人。
本科へは、マリエルの第二子が薬剤科、ウィスタリアの第二子が家政科の上級使用人課程(執事コース)、ジャルマリスの第一子が探索科で、プリムローズの第一子は魔術科と、見事にばらけた。
「学院パーティでは協力するって言ってましたし、大丈夫でしょう」
「前もって、教えられるだけは教えたしねぇ」
冬季にも3人の子が祝福の儀に臨む。
順繰りで学院に、世間に送り出していく。
早いものでおよそ一年後、今年度の夏季の終わりには、第一陣の卒院があるかもしれない。
騎士科と薬剤科という、3年卒にはハードル高めの二人だが、いまのところ無理とも言ってきていない。
「うちの子はまあ、家業を継いでもらうのが第一だけど、クランに入りたいって言うならとめることもないし」
「入るもよし、よそに行くもよし、一から旗揚げするもよしなのであります」
マリエルとウィスタリアの意見が、おおむねメンバー全員の考えだ。
「全員巣立ったら、俺も領地に引っ込みたいが、リーリアが街を出たくないってなあ」
「慣れない環境は辛いだろうし、しょうがないんじゃないかな」
腕組みが癖になったアドルフに、引退後はヴィオラとともに領地に行くだろうフィアフが応じている。
議題の三つ目が、領主化事業案件になる。
☆
案件が現場で動き出して3年目。
アクヤの街の代官様も隠居を見据え、これを最後の仕事にしたいとのことなので、開発成功しましたと言える成果をお出ししないといけない。
「3年というのも一つの目安みたいです」
「まあ、お上にしても、だらだらと時間ばかりかけられたくはないわな」
ほぼほぼ放牧地だが、耕作地とあわせて500町歩は確保。
生産力は低いが、領民100人くらいならぎりぎり穀物自給できるかな、というラインには達している。
この先も耕作地の開墾を進めるが、しばらく領内街道の敷設に重点を置く。
東境のヨッシー村から中心本拠地のジュスティーヌ村へと、ジュスティーヌ村と南境関所拠点をつなぐ2本が最優先。
でもって、ラッドとセバスの暫定地なのだが、それぞれ領境に位置するのは防衛上は悪くない。
川湊を造れば、外とのアクセスも良くなる。
ただし、東北際はバンド川経済圏とでもいうべき領域に属すことになり、同じく東南際はアチュール川経済圏に。
どちらも、アクヤの街そのものではなく、北と南の宿場町がメインの接続先になる。
「むしろ、領内の連絡を密にすべきだと思うのです」
「物流って面でも、俺んとこ整備するのが一番だと思う」
ジュスティーヌとヨッシーの意見も正しい。
「街道、今無理に伸ばしたところで、維持できるの?」
ヴィオラのダメ押しを受け、敷設する街道を絞り込み、連絡の取りやすい距離にセバスとラッドの根拠地を置くとすると、まず前進拠点その2が候補にあがる。
そこはセバスの村に。ジュスティーヌ村からの街道1本追加。
ラッドの置き場所は、防衛的縦深をとる意味でさらに山の中に進むか、領境へのつなぎポイントにするか。
「山奥に籠って何と戦うんだって話だな」
「では、先の暫定地への途中、東南方面のこの盆地で」
ヨッシー村からジュスティーヌ本拠までの街道の途中で分岐を伸ばし、その先をラッド村にすることにした。
☆
親方衆に秋・冬だけの追加動員を依頼し、マンパワーでもってごり押し。
冬季中に、4+1拠点間をつなぐ領内街道の整備などを行い、進捗を代官様にご報告。
「騎士領としては広すぎるのが問題ではあるが、現に開発したとあれば、王都の連中も無下にはできまい」
詳細な地図とは、記載範囲を把握しているという動かぬ証拠だからね。
開発対象地と指定された範囲内にとどまっている以上、落ち度もない。
領民の数、食料生産に不安はあれど、まあ、大丈夫ではないかとのことだった。
だいたい、土地開発は生産力を見込めるところから進むもので、小国時代から数えて王国数百年の歴史で、有望な地はあらかた誰かのものになっている。
いまさら割り当てられた地とは、これまで見向きもされなかった地なのだ。
それに、アクヤの街としても悪くはない。
もちろん新領地で自給自足も結構だが、当面は食料に雑貨に鉄などの必需品、全部まとめてアクヤの街経由の購入でまかなうことになる。
「まだ、貯えはあろうな」
「はい。当面は大丈夫です」
ならばよし。代官様の手柄として、経済うるおう街を後任代官に引き継いでやれる。
☆
ダン活には、アサルトライフルに軽機関銃だけでなく、対物狙撃銃も持ち込んだ。
その期待に応えてくれたのか、秋季1回目のダイブで浮遊島が降下。
二度目のガーディアン戦には、前回の重戦士に加え、戦士あるいは剣士とでもいうべき、身長よりも長い大剣を肩に担いでいる者も登場した。
擲弾や手榴弾も惜しみなくぶちこみ、手を出させずに殲滅。
「ふぅ、やっぱ火力は正義だな」
「ええ、ええ、そうでしょうとも!」
「あははははは」
うつろに笑うジュスティーヌと噛みつかんばかりのヴィオラを背に、2つの宝箱をあけると、どっちにも、なんかどこかで見たような宝珠が入っていた。
成長のオーブが、合計6レベル分。
「神は言っている。『使え』と」
言ってないよ!
……言ってないよね?
手持ち分と合わせレベル98にできるタイミングで使い、追加で手に入ったら99にもするが、それ以上は保留。
「だって、最後は自力で到達したいやん」
そういうことになった。
☆
秋季2回目には予想通りガーディアン戦は発生せず、冬季1回目で発生。
戦士あるいは剣士に、一見ぼろきれで身をまとっているかのような上背の低い人影、そしてバックパックを背負い何らかの道具を手にしている者の3体が登場した。
「リポップ12週、あるいは季に1回のボーナスってことだな」
「……まともに戦ったら、多分、ボーナスなんて言えないと思うんだ」
第三回戦も封殺で、フィアフ君はかわいい呟き。
お宝は、火炎追撃効果の付いた『レーバテイン』という名の剣、飛行能力のあるという翼付きサンダル『タラリア』、そして『絶対結界(時空障壁)』を生じるという魔道具。
「レバ剣は北欧神話だけど、タラリアってなに?」
「ギリシャ神話。ヘルメス印のサンダルです」
「ていうか、『持ち主が名付けた』だからなあ。転生方面の諸先輩で確定だろ」
名付けは作り手や持ち主の権利だから。
拾った小枝に『運命の指針』なんて名前を付けてもいい。食べ物・飲み物じゃなくても『アンブロシア』や『ネクタール』と呼ぶのも自由。
でも、名前負けってこともあるから。ほどほどに。
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転生三人組はレベル94にあがった冬の終わりに、成長のオーブを一気に投入。レベル98まで駆けあがった。
ほかメンバーは91から92となっている。
100までの素数の最後となるレベル97で、ヨッシーのギフト名が【倉庫業】に変化し、『貸倉庫』コマンドが追加。
『分離』した倉庫を他者に貸し出し、貸し出された者は機能の制限された【個人倉庫(限定版)】を使えるようになる。
「『分離』コマンドってこのためか!」
人数制限もあるし、当然のようにラッドとセバスに倉庫が付与された。
でもってガーディアン由来をのぞく特記すべきレアもんは、収納の腕輪で20点目になる。
オークションには36点を出品。金貨2880枚。
「最近、出品物のグレードが上がっていますが、やはり、資金問題ですか?」
「それなー」
口座に振り込まれたお金を引き出しに組合に行ったら、担当のおじさんが額に汗を浮かべながら心配そうにたずねてきた。
いえ、資金繰りはまったく問題ありません。
保留品の更新で、放出するグレードが上がっているのです。
でも担当のおじさんに、ひいては探索者組合には、土地開発案件で持ち出でひぃひぃというていをよそおっている。
行政機構や各種組合、大手商家相手の取引だと、口座間の送金・引き落としが使えることも多いので、相応の額を残しておく必要はあるが、根本的なところでいまいち信用できないのだ。
だって口座名義人の死亡の際は残高を組合事業費に充てるといった、組合に有利すぎる内規が定められている。
知識は武器、知識は指針。
とっててよかった、就職者向け『組合の仕事』講座のあれやこれ。




