9-06.チャレンジ第六層
三人組の転生発覚から6回目の夏季を迎えた。
この季の終わり頃に、クリスとウィスタリアが結納品等を持ってウィスタリアの実家を訪問。
秋分祭週にはアクヤの街に戻り、神殿で行う結婚式で女神さまの名の下に祝福を受ける予定となっている。
「わたくしは夏季の生まれでありますから、15歳最短だと秋分祭週になるのであります」
あるいは、ウィスタリア実家の礼拝堂での式となるかもしれない。
「母も父も、あっちの意向に従えってさ」
クリスことクリスティアンのもとにウィスタリアが嫁ぐカタチではあるが、平民の下級官吏の子のクリスと、領地持ち騎士家の娘のウィスタリア。
どちらの実家の力がより強いかはいうまでもない。
「家となると、私もボーヴァルディ家の当主だから、嫁ぐのではなく婿をとることになるんですよねえ」
「はぁ」
ジュスティーヌとユイの間で火花が散ったような気がするが、気のせい気のせいドライアード。
「わたしは子種でオッケーの愛人枠だから」
「はい」
家名こそないが、家業のポーション工房を継いだマリエルも、嫁ぐのではなく婿を取る派。
ただし、【ポーション製作】の必須能力である、魔力の認識と放出の才能を確保するため、婿候補が限られる。
魔術士で、できれば無属性魔力に適性のある者なんて、どれだけいるのと。
跡継ぎが男性の場合は数打ち理論で頑張れ。
跡継ぎが女性かつ適当な婿が確保できないケースは柔軟に対応。
なんにせよ、才能を持つ子供さえ生まれりゃいいのだ。
生まれなかったら、ただの【薬剤師】に没落と、才能と腕前がすべてな特化職人のお家事情。
なにがしかの才能必須で、生業のノウハウを家単位・族単位で継承するしかない。
貴族家も含めて、家業ってそういうものでしょとマリエル本人はあっけらかんとしている。
「混沌としてきたわね」
「なんか怖い」
「ねー」
「うん」
ヴィオラ、オルレア、ジャルマリス、ついでにフィアフの獣耳のフレンズたちは無関係を装っている。
☆
ともあれ夏季の方針は、順当にレベル上げと第六層への挑戦。
アドルフたちを連れた第五層道場を4回。
これにはメインメンバーからも人数を調整して参加する。
第六層チャレンジも4回を予定。
こっちはまだメインメンバーのみとなる。
☆
アクヤ・ダンジョン第六層、通称は『花園』。
昼夜ありの開放型マップを密林が覆い、水源もあり、できるならば薬草採取し放題でもある。
歴代探索者の調査では、おおよそ半径30kmの空間。
第四層の約15km四方、第五層でおおよそ半径10kmから一気に拡大している。
全域の地図は作られていない。
単純に広く、密林に阻まれ踏破困難で、かつ、目印になるものがない。
周りを囲む岩壁に洞窟があり、奥に第七層へのゲートが存在したのは幸いというべきか。
ある意味で唯一の目印、マップを取り囲む壁に向かい、外周をぐるっと調査中に発見されたという。
第五層からのゲートは、朽ちた建物内にある。
「廃墟だな」
「壁も天井も、ぼっろぼろ」
前庭っぽいところに申し訳程度に土嚢が積まれ、とりあえずの遮蔽となっていた。
「密林が迫る中に孤立した廃墟、拠点としては期待できずか」
「休憩に、第四層まで戻るわけです」
第五層には遮蔽を無視する幽霊系がでるため、妥協レベルの安全も確保できない。
ジャングルに出現する魔物は、背景に溶け込む植物と昆虫・動物系。
傾向としては第二層の森林部や第三層の上位版になるが、まともに狩れても金銭的な稼ぎは第四層並みらしい。
よって、ほどほどの富貴で満足する探索者は、第四層までで足を止める。
割に合わない第六層に現れるのは、自称・真なる探索者である。
☆
無理せずをモットーに、データからの想定と、実際に戦ってみてのズレや所感を積み重ねる。
まずは植物系から。
ウツボカズラは甘い香りで誘い、鞭のようにしなる蔦(触手?)で絡め捕り、消化液で溶かす、絞め殺す。
しかし、出現位置から動かない魔物はただの的。
第四層からダッシュで来た場合のボーナス扱いらしい。
旧14号パーティとしても、ヨッシーの【個人倉庫】から弓矢を配布して射的練習、哀れなり。
「弓術にも手を伸ばさないとダメかあ」
「威力を考えれば投げ槍も手だろ?」
『甘い香りの汁』は香水などに使われる。中銅貨2枚での買取。
トレントは木の魔物。
第三層ではマップBOSSだったようだが、旧14号パーティはついぞ出会えなかった相手だ。
ベンジャミン兄さんが戦った感想は、タフではあるがそれだけと。
確かにタフ。ゲーム風にいえばHPだけは高いなという感じ。
腕枝の振り回しとか、葉っぱ手裏剣とか、けっして弱いわけではないのだが、凌げてしまう。
「移動しない相手は的でFAだろ」
シニアトレントはガツンと強力になったトレントらしいが、遭遇していない。
「出会えないまま終わるかもね」
「マップ自体がガツンと広くなっているでありますから」
いずれも『トレントの枝』、『トレント材』、『トレントの実』をドロップする。
『トレント材』は、当時のベン兄さんが意地で持ち帰った長さ3mくらいの丸太で、買取は大銅貨2枚。
☆
昆虫・動物系の魔物で面白いのが、巨大芋虫が巨大蛹をへて、巨大毒蛾になるという変態が見られること。
いずれも見た目ソノママな命名。
巨大芋虫は意外に素早く、転がり体当たりが攻撃手段で、背にびっしりの毒棘も持っている。
でも、地形的な要因もあって、第四層の洞窟猪のほうがやっかいに感じる。
外皮もやわらかいので、避けるか、毒込みで耐えられるならばHPが多いだけという印象。
第四層からダッシュで来た場合のお手頃な相手らしい。
『芋虫肉』は淡泊な味で、煮ると溶ける。焼くのがおすすめ。
買取は中銅貨1枚だが、日持ちの関係で現地で消費してしまうからの珍味扱い。
魔法鞄を持たないパーティにとっては、貴重な現地調達食材でもある。
「脂を感じない豚トロ?」
「白子のほうが近くないか」
巨大蛹はただの的だが、放置して巨大毒蛾になるのを待つのも手。
巨大毒蛾は微妙な上空からの毒鱗粉とクチバシ攻撃を行ってきて、遠隔攻撃手段がないと詰む。
もちろん、歴代探索者の積み重ねたデータを利用でき、第六層まで来るような連中が対策をしないわけもない。
火矢なり火玉なりを浴びせて火だるまにするのがトレンドだ。体当たりをもらって、逆火だるまにだけは要注意。
火玉は組合そばの雑貨店で小銅貨3枚で売っている。
持ちひものついた油を染み込ませたボールで、麻袋で包んだおがくずなどが一般的。
秋分祭週の夜の火祭り用品が原型で、火をつけてぽーいっとな。
鱗粉はマスクをしていればそこまで悪影響はない。
身体にいいものでもないので、ヴィオラがいる回では、出会いがしらに風魔術で吹き飛ばすのが安定。
『毒蛾の鱗粉』は中銅貨1枚で、麻酔用途や幻覚剤、筋弛緩剤などの原料となる。
☆
殺人蜂は、超攻撃的な巨大スズメバチ。
森蜂の対処法を流用できる。
貫通力の増した毒針だが、鉄板+なめし革の積層装甲には歯が立たない。
「蜂シリーズは勝手に仲間を呼んでくれるのが楽だよね」
ユイちゃんもすっかり染まってしまわれた。
射撃蜘蛛は巣を作らない蜘蛛。
射撃糸は、衝撃と粘着が使い分けされる。
『蜘蛛の足』はカニの味。ゆでるかフライがオススメです。
旧14号パーティにとっては一番やりにくい相手だった。
いや、第六層で活動する探索者の全てに嫌われている魔物と言っても過言ではない。
ただでさえ遠隔攻撃持ちは厄介なうえに、バレーボールやサッカーボールくらいの大きさ。
虫としてみれば驚異のビッグサイズだが、狙うべき移動標的としてみると小さい。
コチラからの遠隔攻撃を素早く避ける、近づくと逃げる。
追い払ったかと思えば、また忍び寄ってくる。
「これまでで最強のAIじゃね」
「AIいうなし」
やや泥仕合気味に、石礫が飛び、矢が飛び、攻撃魔術が飛び。
「【闇矢】まで避けるって、どんだけよ!」
中等魔術階梯のアロー系は、自動追尾が組み込まれているが、鋭角には曲がれない。
何かに当たってしまえばその時点で衝撃・破壊等の効果を発揮して終わり。
魔術士だと、高等魔術階梯の、いわゆる範囲魔術に巻き込むのが結局のところ確実とされる。MPケチって勝てる相手じゃないってことだ。
脳筋道を行く一般探索者界隈では、素早さで上回り、近づいて仕留めるという力技推奨。
間違ってはいない。
最後に大毒蛇さんなのだけど。
巨大な蛇でマップ最強なのだけど。
【発勁】が効くのよねえ……。
「う~ん、ごっちゃんです」
マジ、ゴッツアンです。




