1-01.道連れ転生
青い空に白い雲がぽつぽつり。
これぞ夏至祭週という好天の下で、人々は思い思いに祭りを楽しんでいる。
神殿前の石畳の広場には雑踏に喧噪、食べ物屋台から放たれる香ばしかったり甘かったりの匂いと各種の呼び声が流れている。
そんな活気あふれる神殿前広場の外れ、お祭り騒ぎの熱気をさえぎる建物のかげ。
少年が三人、腰を落として項垂れているが、気づいた誰もがそっと立ち去った。
祭週イベントのひとつ【祝福の儀】では、満10歳以上の者が、女神様からの加護を授かることができる。
正確には、『(ダンジョンに)挑む者への援けとして、(女神さまが)【祝福の儀】で加護を授けてくださる』。
ま、そんなの気にするのは学者レベルのはなしなわけで。
一般民草としては、幼年期を生き延びておめでとうイベント、加護もらえるぞってな理解だ。
そして、望まなかった加護や使い道のない加護、はっきり言ってハズレ加護を得てしまう子たちが一定数発生する日でもある。
だから、頭を抱えて蹲る三人の少年たちも、第三者的な善意の優しさで放置されていた。
☆
雑な短髪の少年が頭をごしごしこすりあげ、大きなため息をついて目線を上げた。
「マジで『白い部屋』なのな」
続いて、首の後ろでひっつめ髪の少年も空を見上げた。
「霊格レベルが低すぎて認識できないからそう見えるって、そうですかとしか」
「……あったま痛いし吐きそうだ」
流し込まれた『前世の記憶』の影響で、頭痛が、吐き気がひどい。
神殿前広場の外れで座りこむ三人の中央、角刈りの少年が額に指を当てたまま左右を見やる。
「短髪がヨッシーで、ひっつめがヤベックか」
「はい。僕は前世ヤベックこと矢別。君はユッキー、そっちがヨッシーと?」
「ああ。……転生って、俺がゴネた結果らしいけど、記憶、死ぬ直前までだから、死んだ後のことはわっかんね」
彼ら三人はそろって満10歳、数時間前に神殿で行われた【祝福の儀】の参加者であった。
その際、『神託システムのちょっとした応用』とやらで神界的な異界に一時移され、『白い部屋』でこの世界の管理者の配下を名乗る『まばゆい人影』から状況説明を受けた。
前世のヨッシーこと吉井は48歳で身投げしたのだが、怨霊化しかけて前の世界で担当相手にゴネてゴネてゴネたらしい。
「多分、死んだことで洗脳が解けて、現世への未練……漫画の続きとか、財団Bの新作とか、コンビニの季節限定ソフトクリームとか」
「俺の怨霊化の原因として納得できるのが辛ぁい」
恨みや未練の深さこそが怨霊化のファクター。
どれほど俗な内容であってもトリガーになりえるのだ。
「ともあれ成仏してクレメンス」
「成仏したからの今世だよなあ?」
解脱を目指す仏教的世界観なら、輪廻転生は苦行の続き。悟りを開いた仏に成れていない状態なわけですが?
「めでたしめでたし」
「どっとはらい」
「終わってねーよ! てか、始まってもいねーよ! 俺たちの物語はこれからだろ!!」
腰を浮かせたヨッシーは、しかし、自らの叫び声に頭痛を悪化させ再び蹲った。
☆
深い深いため息が、濃いこげ茶色の髪を角刈りに整えているユッキーからこぼれた。
「道連れで転生云々はいい。次の世でも一緒にやりたいという厚い友情に免じて」
いわゆるゲンドウポーズ、軽く組んだ両手で口元を隠すひっつめ髪のヤベックがクソ真面目に応じる。
「そうだね。そんなことはどうでもいい。大事なことじゃない。なんで美少女に転生していないんだ!」
「しょうがないだろ。選べるもんじゃないんだし!」
ヤベック的には本気度50%くらいの場を和ますためのネタ振りに、ヨッシーもこれまた本気度80%くらいで反応する。
ちなみに前世と同じ男の子なのは一般的な転生移民におけるデフォルトです。
いわゆるトランスセクシャル・サービスが欲しかったのなら、転生前にきちんと申告してください。
しかしなぜ、TSすれば美少女になれると思うのか。
10人に1人レベルの微妙に美少女かなって美少女だって、10人に1人しかいないんですよ?
ユッキーが、話がそれすぎだと割り込んだ。
「なんで自殺なんてしやがった。お前が空を飛ぶ数日前に一緒にカラオケに行ったヤベックは、なんで?どうして?とグチグチ言い続け、ひと月でなんと3kgも痩せたんだぞ」
「3kgも!?」
中高年ダイエットの難しさを実体験として知るヨッシーは事態の深刻さを一瞬で理解した。
「お前のカーちゃんからはあんまり気に病まないでなんて言われたけれど、ムッスメが夢枕にも立ちゃしねぇと嘆くし、そういえばあの日あんまり元気なかったかなあとか、別れ際に『またね』って言ったのに返事なかったとか、あの時点できっちり捕まえて話をしておけば……」
「いやほんと、ごめん。自分でこさえたわけでもない借金、取り立てはきついしひっかぶせてきたヤツがしつこく絡んできてもう何もかも面倒くさくなって」
「洗脳でおかしくなっちゃってたんだろうって。アレだろ? 詐欺の片棒担がされたのは事実で、それを警察には話してないからお前は俺に恩があるんだ的なところから、名義はあくまでお前だし、弁護士通して返済計画立ててるんだからどうとか……」
ヨッシーの謝罪と言い訳が聞こえているのかいないか。
虚ろな目でブツブツと呟き続けるヤベックの隣で、ユッキーが斜め上からヨッシーを見下ろした。
「わかるか? これがループする恐怖」
「はい。すいません」
「尼崎事件みたいなモン、手口としては知っていたんだからもうちょっと踏み込んで対処しておけば……いっぱいいっぱいになっちゃってるときって視野は狭いしまともな判断できないから、周りが強引にリセットしないと……」
ヨッシー、平身低頭一択である。
前世の当時も、そして今世の今も、スカイウォークをきめたヨッシー当人よりもむしろヤベックの方にフォローが必要。
そう判断したユッキーは、ヤベックが収まるまでグチを吐き出させる。
その間、ヨッシーは借りてきた猫のようにおとなしく項垂れていた。
たまに「はい」「すいません」「ごめんて」と小さく鳴くどら猫である。
☆
「……少しは落ち着いたか?」
「すいません。いや、ありがとう、なのかな」
「いや、マジすません。俺のせいで」
「ま、こうして思いを伝えられたのは、道連れ転生のおかげだな」
ユッキーがいい感じに話を閉めようとするが、ヤベックもヨッシーも一筋縄ではいかない男子の魂を持つ者。
「どうせなら美少女からの熱い思いを伝えられたかった」
「僕だって、どうせなら美少女に熱い思いを伝えたかった」
パンパンとユッキーに手を叩かれて促され、美少女というワードにこだわりのあるらしいヨッシーとヤベックはようやく照れくさそうに握手をかわした。
「あーもう。とにかく、情報量が多すぎて処理しきれねーわ」
三人とも、わりと無理してカラ元気を回している自覚はある。
前世の記憶を流し込まれた影響っぽい頭痛に吐き気に、転生どうこうなんて精神衝撃だってある。
「みんなまともに考えらんねぇだろ。今日のところは解散、また明日でいいか?」
ユッキーの音頭にヤベックと、そしてヨッシーも首を横に振った。
いや、本日解散と再集合はいいのだ。
「ごめん、明日でも無理かもしんない」
「明日は仕事だわ」
しょーがねーといったていでユッキーも言い直す。
「じゃあ明後日な」
「「うぃ~」」
ぐだぐだな三人であった。




