間章12:観測と対処
白波 翔|「固定点」
結束バンドを指で弾く。カチ、カチ。
音が落ち着かせる。現場は音で整う。
俺の役は固定点の増設。逃げ道の確保。命綱の管理。感情は後回し。
あの高校生、たかし。
走る。転ぶ。立つ。
鎖が光る時、群れの呼吸が揃う。揃った瞬間の出力は異常。
あのアプリは鼓舞型だ。迷いに強い。転倒後の復帰が速い。
弱点は明確。同期を切られると鎖は空を切る。足元の摩擦を落とされると制御が飛ぶ。
対処法は単純。固定点を先に撒く。手すり、アンカー、結束の橋。
彼が飛ぶ前に、戻る線を一本渡す。切るか切らないかは本人に任せる。選ぶ自由は士気になる。
他グループ。
松永のチームは規律が効いている。交換条件が明快で助かる。約束を守る。
倉科は目立つが、線を越えない器用さがある。陽動は要請すれば応じる。報酬を前払いすればいい。
俺の対処は一貫だ。先に場を縫う。縫ってから話す。話してから走る。
現場は走りながら直す。直しながら守る。それだけだ。
——結束バンドをもう一本、腰に差した。重みが落ち着きをくれる。次も固定する。群れが崩れないように。
松永 燈子|「取引台帳」
指先が冷えると、思考が研ぎ澄まされる。
タブレットの表に、三列の項目を足す。出力・復帰・コスト。
たかしの曲線は極端だ。出力は山。復帰は短い。コストは高いが、補助があると急減する。
特別アプリの文面は柔らかい。身体操作への誘導が速い。迷いを肯定して動作へ変換する。
つまり、あの子の周りに置く言葉は少なくてよい。短い合図で足りる。
長い説明は不要。説明の時間は命を削る。説明は私が飲み込む。
他グループの勘定。
白波は“固定資産”。あるだけで場が安定する。貸借対照表の貸方に置くべき存在。
倉科は“流動資産”。キャッシュフローのように扱う。余剰が出た時に使うと効果が高い。
鬼頭は“福利厚生”。士気が上がる。疲労の隙間に入れると群が保つ。
藤広は“リスクヘッジ”。化学の線引きを守れば被害は小さい。放置すると全体にブレが走る。
対処法。
・同期妨害が来たら、カウント提示を最優先。数字で合わせる。
・足場が崩れたら、**進路の“渦目”**を開示。安全地帯を見せる。
・交渉が必要なら、代価を先に提示。こちらの条件を明文化。情緒で歪めない。
・たかしに関しては、代替トリガを共有。本人以外からの合図で起動できる。
役割は固定。私は条件を読み上げ、時間を買う。買った時間で勝つ。
——タブレットを閉じる。余白に一行だけ書いた。「笑いは復帰力」。次も忘れない。
倉科 ジン|「火花と抜け道」
火花はいい。小さくても目を引く。
俺の仕事は派手さと抜け道。視線を盗み、音をずらす。
あの高校生は見てて飽きない。全力でコケて、全力で当てる。
アプリの口は明るい。転んだ瞬間に笑わせる。笑いは勢いに火をつける。
なら、俺は火口を増やす。
花火、スリング、派手な声。塔でもドローンでも、先に視線をこちらへ寄せる。
彼が投げる瞬間の余白を作る。そこに叩き込むのがあの鎖だ。
他グループの見立て。
白波は真面目すぎて損をしがちだが、頼りになる。借りは返すタイプ。好き。
松永は線が細いが折れない。条件が揃えば容赦がない。嫌いじゃない。
鬼頭は優しい。怖くて優しい。近くにいると空気が人間になる。
藤広は目の色が変わる瞬間がある。そこは危険だが、勝負所でもある。
対処法は単純。
目くらまし→道づくり→ひっかけ。
ひっかかった相手がAIなら最高。人間なら最低。線は越えない。
俺は利を取るが、群れは売らない。
見返りはあとでいい。今は派手に勝ちたい。
——指で火薬の匂いを嗅ぐ。小さく笑う。次はもっと高く上げる。空が広いほど、花は綺麗だ。




