第一章:3◆飲み込まれるスーパー
女性が倒れて運ばれていった直後も、スーパーは一見いつも通りのざわめきに戻りかけていた。
……はずだった。
でも俺の中には、ずっと消えない違和感が残っていた。
あのセンサーの光。
突き刺さるみたいに、女の人の頭へ走った閃光。
あれは……ただの機械トラブルじゃない。
喉がカラカラに乾いた。
手に持ったカゴのハンドルがやけに冷たく感じる。
「……たかし、ほんと大丈夫?」
ゆめが心配そうに覗き込んでくる。
「な、なんでもねぇよ!」
強がって笑ってみせた瞬間——
ズゥゥゥゥゥン……!
空気が震えた。
地鳴りみたいな低い振動が、床から靴を通じて骨に伝わってくる。
「お、おい……なんだ!?」
「地震!?」
周囲の客がざわめき、誰かが悲鳴を上げた。
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蛍光灯がバチバチと火花を散らしながら点滅する。
棚に並んだ商品がガタガタ揺れて、ペットボトルが倒れ、パンの袋が床に散乱した。
そして——天井が、伸びた。
いや、正確にはスーパー全体が歪んだ。
壁がうねり、床が波打つ。
四角い建物だったはずの空間が、ゴムみたいに引き伸ばされている。
「ちょ、なにこれ!? 建物が……」
「ありえねぇだろ!」
客たちが出口へ殺到する。
でも自動ドアはピクリとも動かない。
ガラスに叩きつけても、ヒビすら入らない。
「出られない……!?」
「助けてくれ! 開けろ!!」
叫びと泣き声が一気に広がった。
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さらに悪夢は続いた。
ズシン! ズシン!
足元が震える。
床がまるで生き物みたいにうねり、陳列棚が次々と倒れていく。
落ちた商品が床を転がり、破裂音を立てて中身を撒き散らす。
ジュースが弾けてベタベタに。
粉洗剤がぶちまけられて白煙が舞う。
揚げ物の油が飛び散ってギラギラ光る。
視界も鼻も、めちゃくちゃだった。
「ゆめ! ゆうじ! 離れるな!」
俺は必死に叫び、二人の腕をつかんだ。
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そして——
ゴウンッ……!
店内の照明が一斉に落ちた。
次の瞬間、青白い光のパネルが視界に浮かぶ。
【プレイヤー登録完了】
【生存条件:次階層への進行】
【商品使用権:解放】
「……は?」
俺は間抜けな声を漏らした。
周囲の客たちも同じだった。
誰もが意味不明のパネルを前に、口をパクパクさせている。
「ゲ、ゲーム……? これ、ゲームなの!?」
「ふざけるな! 出せ! ここから出せぇぇ!!」
悲鳴と怒号が混じり合う中、俺の胸だけがドクンドクンと異様なリズムで脈を打っていた。
頭の奥に、あのセンサーの光景がチラつく。
“これが……始まりか……?”




