17/34
第二章:12◆:紙の盾、命の重さ
床、ぬめっ。
鼻に刺す漂白の匂い。視界は白い霧。
「下がれ」ゆめがトングで柄先を弾く。カン、火花。
ゆうじは反射板を斜めに立て、蛍光灯の筋を折り返す。「散乱が強い。角度を下げる」
通路の端で影が膨らむ。巨大モップがズズズと滑走、糸束の雲が床を抱え込む。
一掃。バサァッ。白波。
たかしが盛大に滑ってエッグチェーンを手放す。「ぬわぁ! 卵——!」
掃除兵がモップ+ペットボトル骨格でカシャカシャと迫る。
前へ一歩、安井が出る。スーツの袖をまくる。
「行きます」
コピー用紙の束を胸に抱え、ホチキスをガンガン留める。即席の盾。紙の城。
ズドドッ。突き。
紙盾がバサ、バサッと裂け、しかし彼は一歩、また一歩、通路をこじ開ける。
(怖い。けれど——)
(朝、でんちゃんの水槽、替えてやれなかった。小説の続き、ここまでだ。だから、誰かの続きは通す)
「下がれ!」ゆめの声。
巨大モップの影が濃くなる。全域予備動作。
安井は振り返り、笑う。
「たかし君——」
ズガァアアアッ!
糸束が落ち、紙の城が紙吹雪に変わる。白い蝶が渦を巻く。
人影がひとつ、静かに崩れた。
「……見た。ワシ、もうゴチャゴチャ言わん」
棚を蹴破っていた鬼頭がサングラスを外す。
噛み砕いたうまい棒の欠片が手の甲にボロボロ。
「さっきのは水に流せ。水まみれやけどな」
紙はまだ降っていた。




