悪役令嬢に転生しましたが、モブに待ったをかけられました〜おかげで命拾いをしました〜
「アイーシャ、君とは婚約を破棄させてもらう!」
王太子殿下がヒロインの腰を抱き締めて片手でわたくしを指差し断罪し婚約破棄を告げる。
でも、わたくしは怯まない。
だって、この後。
「もう茶番は終わりましたか?殿下」
この国より大国である、前世で散々読み尽くした小説のヒドインによる逆ハーからのざまぁ展開に欠かせない真のヒーローの登場ですわ。
ああ、この時をどんなに待ち望んでいたことか!
悪役令嬢に転生した時はどうなることかと思いましたがすべて手のひらで進んでいきました。
口角が上がりそうになるのを抑えて扇子で口元を隠して事態を見守るように見せ掛けます。
真のヒーローが次々と王太子殿下とヒドインと取り巻きを論破し、わたくしに跪いて告げる。
「アイーシャ様。婚約も破棄になったことですし、私と婚約してくださいませんか?」
わたくしの答えは決まっていますわ。
ここで戸惑いながら頷き受け入れる。
そうすればわたくしの幸せなハッピーエンドは確約されている。
現に、周囲は祝福ムードですわ。
差し出された手のひらを見詰める。
ここでこの美しい手に手を重ねれば全てが終わり。
わたくしが困った顔をしつつ少し照れた表情をして受け入れようとすると、大衆の中から一人の人物が現れました。
「アイーシャ様。ここでこの婚約を受け入れるということは国家転覆罪にも問われるかもしれませんが、よろしいでしょうか?」
「え?」
わたくしを含めたその場にいた人物がその人を見詰める。
凡庸な男だった。
確か、伯爵家の次男。
小説にも出てこないモブがわたくしの幸せを壊そうというの?そもそも国家転覆罪ってどういうことかしら?
「そのお顔ではお気付きになってらっしゃらないようですね。貴女は王太子妃殿下になるためのすべての学びを終えた身ですね?そして時には王太子殿下の仕事も手伝っていらっしゃったとか」
「ええ、その通りですわ」
まったく、あの王太子殿下ときたらヒドインに付きっきりで仕事をしなくなりこちらにまで回されてきていい迷惑でしたわ。
「と、いうことはこの国の暗部から何までご理解の身の上。その状態で他国へ渡るということはこの国の情報をすべて持っていかれるということですね?」
男を見ていた視線が一斉にわたくしに注がれる。
「え?」
ええ、ええ。よくよく考えればその通りですわね?えっ、不味くありませんこと?
「わ、わたくしに国に対しての反逆の意思はありませんわ!」
慌てて乗せようとしていた手を自身の胸元へ戻して両手で握る。
扇子が手に食い込んで少し痛い。
「なら良かった。ですが、王太子殿下も王命で結ばれた婚約を勝手に破棄し王に背いたことになります。あなた方はもう手遅れですが、アイーシャ様だけでも処断されずに済んで良かったです」
その言葉に王太子殿下達が青くなる。
あら?ざまぁが緩いわ。もっと過激なざまぁで有名な作品でしたのに。
わたくしが首を傾げても、モブは止まりません。
「この国の後継がいなくなった今、アイーシャ様。あなたが養女になりこの国の女王になるべきです!」
「ええっ!?」
そんな設定、どこにもなかったはずですわ!?
周囲も戸惑いながら拍手をし始めた。
いえ、なんでわたくしが女王になりますの!?
見てくださいませ!
王太子殿下もヒドインもヒーローも、みんな唖然としておりますわ!
「わたくしは、この国の女王になる気など……」
「では、死罪か幽閉ですがよろしいんですか?」
尋ねられて言葉に詰まる。
なんで栄華かバッドエンドしかありませんの!?
わたくしは大国の王妃になるはずでしたのに……!
がっくりと肩を落とすわたくしは、女王になる道を選びました。
すると補佐官にはモブ。
「いやぁ、よかったですね。女王陛下」
満足気な顔を扇子で打ちたいですわ。
「あなた、あの時なんであんなことを言いましたの?」
「えっ、事実しか言っていませんが?」
その事実が問題なのですわ!
いえ、悪いのは全部浮気した王太子殿下と私を攫う勇気がなかったヒーローと浮気させてヒドイン。
そしてこの男。
わたくしが睨みつけると、へらっと笑って囁いた。
「転生者の手腕、楽しみにしていますよ」
その瞬間背筋にぞくりとしたものが走りました。
「な、なんのことかしら……」
「おや、バレていないと思っているなら隠し方が甘いですよ。先輩」
その言葉には馴染みがある。
前世での夫。
最期の最期まで先輩が抜けなかった人。
「あなたなの?」
「そうですよ。あまりやきもちを焼かせないでください」
ああ、なんだ。
ハッピーエンドはここにあったのね。