#1 後編
「・・・虚春、どうしたの?」
「・・・巳禍が
『糸吾の家で【ヒトリミサキ】事件の打ち上げやらないか』
って。
・・・虚春も来る?」
「・・・勿論よ。
あんな危険人物と涸春を、一緒に何かしてやれないわ。」
ワサクテイリ
デンジャラス妖怪ガールズ
#1
「ヒトリミサキ」後
後編
涸春が菓子を買いにコンビニに出かけた後も、
机に突っ伏し、涸春がくれた大学芋も食べていない虚春。
神蛇は口を開かず、只、虚春を見ているだけである。
そんな時だった。
玄関の鍵が開けられる音がした。
玄関のドアが開く音がした。
誰かが入って来る音がした。
「ただいまー。」
「あ!糸ちゃん!
お邪魔してるよ~。」
「あぁ、知ってるよ。
さっきカレルとバッタリ出くわした。」
どうやら此の部屋の主が帰ってきたようだ。
「糸ちゃん」と呼ばれた女は、
少し赤みがかった黒髪をポニーテールにし、赤い目を持っていた。
今も、腕まくりしたジャージで隠している軍服は警察のワイシャツのようである。
白いワイシャツに、黒いズボンをはいている。
夜とは言え、真夏の暑い中歩いて帰って来たためか、汗でジャージが濡れている。
名前を、糸吾と言う。
蜘蛛の妖である。
「・・・どうした?」
机に突っ伏す虚春を見て、思わず声を掛ける糸吾。
「・・・何でもないわよ。」
「・・・神蛇、お前、要らん事でも言ったか?」
「ちょ?!なんで私?!」
「いや、状況的にお前だろ?」
「違うって~!!」
―――――――――――――――
「え?『ちょっと事件の話の途中で【話作定理の話をしたら突っ伏しちゃった』?」
「そうなんだよ~。」
「まぁ、なぁ…
・・・最近多いしな。
・・・大丈夫か?」
「・・・ほっといてよ。」
神蛇は何を思ったのか、リュックから一個のレジ袋を取り出した。
其処には、日本酒が入っていた。
机に置かれた際の、重い、ガラスの音で、
虚春は少し、突っ伏したままの姿勢ではあるが、顔を上げる。
「・・・飲まない?」
虚春はその瓶をチラリと見た後、不貞腐れた様な顔をした。
「・・・アンタ、最初から涸春だけじゃなくて、ワタシも呼ぶつもりだったでしょ。」
「そんな事ないよ?
只、用意が良いだけ。」
虚春は少し、神蛇を見返すと、再び突っ伏してしまった。
が、口を開き、糸吾に向かって、こう言った。
「・・・ねぇ、グラス、取って来てくれないかしら?」
「・・・はぁ?自分で取って来いよ!?」
「・・・自分の家じゃないから、勝手が分かんないのよ…」
まだ突っ伏したままの、元気と威勢が無い虚春を見た後、糸吾は
「・・・ちょっと待ってろ。」
と言い、台所に消えていった。
―――――――――――――――
「・・・自分で注ぐわよ。」
「良いから良いから~!
キョハルちゃん、全然人に頼ったりしないからさ!
キョハルちゃんは、お世話出来る時にお世話しなきゃ!」
「・・・気持ち悪いわよ。」
「酷い!!」
「・・・ウツロが、酒飲むのか…」
「そうよ。悪い?」
「いや、そう言う訳じゃなくて。
只、
『珍しいな』
って思っただけで。」
「アンタが飲み会とか、あんま来ないだけよ。」
「まぁ、キョハルちゃん、滅多にお酒、飲まないしね~。」
そう言いながら、神蛇はグラスに酒を注いでいく。
「キョハルちゃん、好き嫌い激しいから。
炭酸嫌いだからビールとか飲まないし。
鼻が良いから、焼酎とか度数が強いやつは飲めないし。
辛いの嫌いだから、日本酒も飲めるの少ないし。
あ、フルーツも嫌いだから、ワインとか飲まないよね?」
そう言いながら、神蛇はグラスを差し出す。
「・・・何時も飲み会で何頼んでるんだ?
ソフトドリンクばっか頼んでるイメージあるけど。」
「・・・ウーロンハイ。」
「あぁ、確かに、飲んでた。」
「まずキョハルちゃん、お酒があんまり好きじゃないしね!
アハハ!」
「笑うんじゃないわよ。」
「・・・でも、本当に飲んでるとこ見た事ないな。
飲み会でもすぐに潰れてるし。」
「キョハルちゃん、此の銘柄は好きだよね。
此れだけは、好んで飲んでるイメージがあるよ。」
「・・・何々?『白夜冠』?
へぇー、覚えとく。」
「・・・まぁ、馬鹿みたいに高いんだけどね。
手に入れるの、苦労したよ…」
「え?どれどれ…
・・・は?!」
スマホで検索していた糸吾が奇声を上げる。
それを横目に、既に一口飲んでいる虚春。
「・・・頑張って、手に入れたんだよ?」
「・・・まぁ、それは、感謝してる。
・・・有難う。」
「ひゅあ!」
「・・・どうした?」
「大丈夫よ。
此奴の変態な部分が出ただけよ。」
―――――――――――――――
「・・・でも、本当にどうしたんだ?
ウツロが突っ伏すなんて…
本当に、どうしたんだ?」
「割と最近は突っ伏してるの見かけるよ?」
「・・・最近は身内の不祥事が多すぎるのよ。」
「キョハルちゃん、糸ちゃんが居なくなっちゃった時も、こうやって突っ伏してたんだよ?」
「・・・其の件は、ごめん。」
「別に気にしてn」
「本当よ。アンタにはもっと、申し訳なさそうにしといて欲しいわ。
・・・いや、申し訳なさそうにしときなさい。」
そう言いながら、グラスの中の酒を飲み干す虚春。
そして、ぽつりぽつりと、夏の夕立の始まりのように、話し始めた。
「・・・アンタが失踪したのが、ちょうど六年前の今頃。
アンタを見つけて連れ出したのは、二年前の四月。
アンタがようやく完全復活したのが、去年の十月。
・・・ようやく元通りに戻ったって思ったら…
今年の三月!!」
最初は静かに話していたが、徐々に声が震えだし、ついに怒りが抑えきれなくなったのか、
「バンッ」と、机を強く叩いた。
「あの事件…」
糸吾は俯き、神蛇は只、空いたグラスに酒を注ぐ。
「・・・ワタシは。
屑共を懲らしめられたら、其れで良かったのよ。
屑共の無様なところを見て。
清い子助けて。
・・・ワタシは、其れだけがしたくて、此の役職に就いたのよ?
・・・身内の不祥事の後始末なんて、業務内容として、聞いてないわよ!!」
そう言って再び机に突っ伏す虚春。
「・・・最近、多すぎるのよ。
もう、飽きたのよ。
こんな展開…」
「・・・キョハルちゃん。
お代わり、要る?」
「・・・えぇ、貰うわ。
貰っておくわ。」
そう言って顔を上げた虚春の目は、若干赤くなっていた。
―――――――――――――――
ガチャガチャと、玄関の方から音がする。
そして、誰かが入って来る音がする。
菓子が入ったレジ袋を引っ提げながら入って来たのは、他でもない。
涸春だった。
「再びお邪魔するわよー。
・・・ん?」
涸春は鼻をひくひくとさせながら虚春に近づく。
そして、顔をグイと近づけ、こう言った。
「・・・飲んだの?」
虚春はその問いには答えず、只、涸春の胸の中に飛び込むかのように突っ伏した。
そして、顔を埋めて、「スーハー」と、何も言わずに、息を吸いだした。
「・・・ふぇ?」
涸春は数秒間フリーズしたが、すぐに動き出した。
涸春は、慌てて糸吾の後ろに隠れる。
「は?どうしたどうした?」
状況が分からず、困惑する糸吾。
「・・・ちょっと助けて。
虚春がアタシを吸ってくる。」
息を切らせながら、涸春はそう語る。
「え?『吸う』って、猫吸いみたいな感じ?」
「・・・ウツロ。
カレルが嫌がってるぞ?」
「・・・ちょっと待ってて。」
そう言って虚春は涸春に近づく。
「・・・涸春。そんなに嫌だった?」
「・・・うん。」
「・・・ごめんね。」
そう言いながらまた「涸春吸い」を始める虚春。
再び糸吾の後ろに隠れる涸春。
「・・・柔軟剤も同じだし、同じ匂いでしょ?」
糸吾の後ろに隠れながら、涸春は言う。
「・・・涸春はモフモフしてるし、良い匂いするのよ。」
「・・・今はモフモフしてないじゃん。」
「耳とかモフモフしてるわ。」
「・・・糸吾、助けて。」
「・・・本人が嫌がってんだし、やめといたらどうだ?」
「ちょ、キョハルちゃん。
流石に、飲み過ぎちゃった?
酔ってコカツちゃんにダル絡みしだしてるよ?」
「・・・だって、涸春が可愛いんだもん。」
―――――――――――――――
「・・・糸吾、今日泊めてくれない?」
「・・・え?唐突だな。」
「どうせ、アンタ達が虚春にお酒勧めたんでしょ?
そのせいでアタシ、帰れなくなるんだから。
アタシ、酔っぱらった虚春連れては帰れないのよ。
アタシじゃ面倒見きれないわ。
一晩位、泊めてってよ。」
「・・・まぁ、確かに私が持って来たお酒だけどね?」
「・・・一人で帰ったら?
ウツロは…」
「・・・帰れるわよ。」
「じゃあ聞くが、此処は何階だ?」
「・・・一階。」
四階である。
「此れは危ないな。
ウツロと神蛇は泊まってけ。」
「・・・だから、ワタシ達は帰れるわよ。」
そう言いながら、何時の間にかもう一杯飲んでいる虚春。
「え?!私も泊まってって良いの?!」
「・・・こんな危ない酔っ払い共、外に出せないだろ…」
「虚春が泊ってくんだから、アタシも泊まんなきゃ。
虚春が一人で帰れると思う?」
「あー。無理だな。」
「・・・涸春が泊ってくなら、ワタシも泊まるわ。」
「いや、お前のために泊まるんだろ。」
遂に潰れて、何時の間にか寝てしまった虚春には、
糸吾のツッコミは、聞こえなかったらしい。
皆々様、初めまして、またはこんにちは。
⻆谷春那です。
・・・皆々様、特大伏線ですよ。
糸吾ちゃんもそうなんですけどね。
虚春さんが突っ伏しちゃう位、まいっちゃってる理由。
特大伏線ですよ。
その原因となる人物は…
・・・「青春サツ×論」でも出てこないかもしれないですね…
・・・まぁ、楽しみにしておいて下さい。
他作品も宜しくお願い致します!