#1 中編
「・・・あら、糸吾?」
「・・・カレル?
珍しいな、こんなとこで会うなんて。
こんな夜中に、何処に行くんだ?」
「コンビニよ。」
「・・・コンビニ?」
「そうよ。愚かにも、巳禍が大事なお茶うけ用の芋まで大学芋にしちゃったから、
お茶うけ買いに行ってんのよ。
虚春は迷子になっちゃうし、巳禍は酔っぱらってるし。
・・・だから、アタシが買いに行くのよ。
・・・あ。アンタの家、借りてるわよ。
事件の打ち上げさせて貰ってるわ。」
「・・・え?私の家で、打ち上げ?」
「そうよ。何時も通り、巳禍が言い出しっぺ。」
「・・・また神蛇が...」
「駄目だったかしら?」
「・・・まぁ、良いよ、別に。
掃除とか有難いし、総菜入れてくれるし。
・・・只、せめて一報は欲しいよな...」
ワサクテイリ
デンジャラス妖怪ガールズ
#1
「ヒトリミサキ」後
中編
「・・・コハルちゃん達ぃ、聞いてよぉ~。」
完全に酔っぱらっている神蛇。
「何?酔っ払い。」
「ねぇ、涸春。
こんなに何度も絡まれてるんだから、
そろそろ相談料取っても良い頃合いだと思うのよね。」
「流石虚春。
天才だわ。
・・・という訳だから、五百円払ってくれたら、聞いてやらん事も無いわ。」
「・・・もっと取ってもバチは当たらない気がするわよ。」
「え、そうなの?
もっと取って良いの?」
「そうよ。だって涸春は天才なんだから。
涸春みたいな天才がこんな面倒臭い奴の話を
わざわざ聞いて、答えて差し上げるのよ?
相手してやるのよ?
一万取ったって、バチは当たらない気がするわ。」
「コハルちゃん達の為ならぁ、私ぃ、喜んで払うよぉ!!」
「・・・ねぇ、涸春。
変態が居るわ。
此奴の醜態痴態はしっかりワタシが目に焼き付けておくから、
涸春は見ちゃ駄目よ。」
そう言いながら涸春の目を覆う虚春。
「えぇ、そうね。
此れは重症よ。
警察を呼んだ方が良いかしら。」
目を隠されたまま話す涸春。
「・・・もはや此処まで来ると、警察の手に負えない気がするわ。」
「じゃあ、どうすれば良いと思う?」
「そうね…
・・・きっと、これは病気だと思うわ。
だから、救急車を呼んだ方が良い気がするの。」
「成程。流石虚春。
天才ね。」
「ちょっとぉ!
変態じゃないよぉ!」
「あら、そうなの。」
「御免なさいね、マゾヒズムさん。」
「違うよぉ!
ただぁ、コハルちゃん達ぃ、本当に物をねだるとかしないんだもぉん!」
「人に貸しを作りたくないだけよ。」
「借りはきっちり返してもらうけどね。」
「とにかくぅ、聞いてぇ!
お願いぃ!」
声が裏返りながらコハル達に頼む神蛇。
「・・・しょうがないわね。」
「涸春の優しさに感謝しなさいよね。」
「もっちの論の介!」
「・・・で、どうしたのよ。
公衆トイレに蚯蚓でも居たの?」
「それとも、家のトイレにゴキブリでも出たのかしら?」
「一旦トイレから離れてよぉ!!」
「じゃあ、何なのよ。」
「・・・あれ、今回の事案で最初に怪異の被害に遭った、精霊さんいるでしょ?」
「・・・水害の事かしら?」
「・・・水害?
あの水害の精霊?
・・・確か、「み何たら」とか言う名前だった気が…」
「凄い。虚春でも覚えてるわ。
・・・で、忘れてたのかしら。」
「うん、そう!
空腹って怖いね!」
「・・・不便な体質ね。
同情するわ。」
「ご愁傷様。」
「ちょっと!?
まだ死んでないよ?!」
「・・・縁食べたら、思い出せるんでしょ?」
「そうそう!
だから、事案の途中で思い出したの!」
「・・・ねぇ、虚春。
此奴、人喰い妖怪の一種なのよね?」
「そうよ。
人と人との関係性を食べるとか言う、ちょっと変わった奴よ。」
「覚えててくれたの!
有難う、涸春ちゃん!!
最高!愛してる!」
「何言っちゃってくれちゃってるのかしら。
唐突ね。」
「そうよ。
涸春が最高で至高で素晴らしい事なんて、当然の事よ。」
涸春の触角が、少しもじもじと揺れた後、涸春は口を開いた。
「・・・じゃあ、なんで記憶が消えるのに繋がるの?」
「お腹が空くと、自動的に吸収しちゃうらしいわよ。」
「あら、可哀想。」
「同情してくれるなら、言葉じゃなくて、行動が欲しいな~。」
「・・・虚春。やっぱり此奴は変態よ。
早めに駆除してあげた方が、巳禍本人の為でもあると思うの。」
「成程。「やらかす前に」って事ね。
流石涸春。
先々まで見通しているわね。」
「ちょっと?!」
―――――――――――――――
「・・・ワタシでもアレは覚えてたわよ。」
「虚春にも覚えられてるなんてね。」
「まぁ、ねぇ…
あの方は正直、宮に居てもおかしくない方だからね…」
「そうなの?」
「そうよ。本人が
「妻と一緒の静かで平穏な生活」
何て物を望んでいなければ、確実に今頃、宮の一人だったわね。」
「奥方って、あの澪子姫の事?」
「そうそう。」
「あの姫、絶対人身御供だよね?
服装的にも、種族的にも。」
「そうね。」
「・・・何か、凄く良い所の生まれのような気がするんだけど、
アタシの気のせいなのかしら?」
「流石よ、涸春。
確かあの姫君は、確か地頭とかそう言う所の娘だった気がするわ。」
「そうだったの?」
「そうらひいへぇ。
それで、岬 海斗さんと生前から交流があったらひいよ。」
「・・・呂律が回ってないわよ。」
「飲み過ぎなんじゃないかしら?」
―――――――――――――――
「・・・あの案件、何であの怪異が、水害を狙ったのかしら。」
「あぁ、それね!」
「・・・何か情報を持ってるらしいわね。」
「涸春の為にも、とっとと吐きなさい。
じゃないと、別の意味で吐かせるわよ。」
「ちょっと?!物騒だね?!」
「吐くの?吐かないの?
それとも、嘔吐?」
「食事時にやめてよ~!
催促されなくても、脅さなくても!
全然話すよ!!
可愛い可愛いコハルちゃん達の為にも!」
「・・・ねぇ、虚春。
変態がいr」
「見直したわ。
涸春の可愛さに気づいてるなんて。
ちょっとは良い所があるじゃない。」
顔色は全く変わらず、目を大きく見開いただけに見えるが、
涸春の触角はひゅるひゅると動いている。
「・・・で、結局、なんであの怪異は水害を狙ったの?」
「それはね、多分、怪談に起因しているんだ。」
「・・・どういう事?」
「えっとね、あの怪異は、精霊さんの発言通り、「池の怪異化」、と言うか、
「「死」の妖精」の池バージョンだったみたい。」
「・・・怪異じゃないじゃん。」
「それがそうとも言えないんだな~!
どうやらあの怪異は、妖精化する前に、自分の一部、
つまり「水難事故」の一例を元に、自分を構築したみたい。」
「成程。つまり、今回涸春が担当した案件は、
バックストーリーがある怪異だった訳ね。」
「そう!どうやら、かなり水難事故、と言うより、死体放棄が行われた、
「The 犯罪の巣窟」みたいな、不法投棄とかいっぱい行われてる、
「池」って言うより「沼」って場所から発生したみたいでね!」
「・・・警察?」
「・・・一旦其れは、池をさらった方が良いと思うわ。」
「車のナンバープレートとか見つかりそう。
あと、拳銃とか。」
「・・・白骨死体とかも、見つかるんじゃないかしら。」
「あ、凄い!知ってたの?!」
「・・・え?」
「・・・涸春、此れが「社会のゴミ溜まり」って奴よ。
覚えておくと良いわ。
ビックリする程、屑がわんさか見つけられるから。」
「えっとね、今回の怪異の「バックストーリー」はね、
その池に遺棄された「千代」って言う女性だったみたい。」
「成程。白骨死体はその人だったのね。」
「ううん。彼女は腐乱死体の水死体で見つかったよ!」
「・・・は?」
「白骨死体は、千代を殺した上、死体遺棄を彼女の妹にさせた、
千代さんの彼氏。」
「・・・今度、事件名教えて。
ちょっとニュースになってるか調べてみるわ。」
「大丈夫よ、虚春。
その事件なら、アタシ、覚えてるわ。」
「流石涸春。天才ね。
記憶力も素晴らしいわ。」
また涸春の触角はひゅるひゅると動いている。
「・・・確か、例の妹とも付き合ってた気がするわ。」
「痴情がもつれにもつれまくってるわね。」
「・・・その千代がバックストーリーになったらしいけど、
それが水害が襲われた事と、何の関係があるの?」
「えっとね、其れには二つの理由があります!
一つ目は、千代さんをモデルとした怪談です!」
「・・・へ?」
「巷では、「御池の千代さん」と言う、千代さんを元にした怪談が流行っていてね。
内容は
「自分を殺した彼氏を見つけるために、
毎年自分の命日に自分の彼氏と同じ苗字の人を池に引きずり込む」
って言う、行っちゃ悪いけど、凄く安い、子供騙しみたいな話。」
「・・・で、彼氏の名前は「岬」だったと?」
「・・・ふざけてるのかしら?」
「本当だよ!
縁も喰ったし、この話が原因の一つになってるのは、まず、間違いないよ!?」
「・・・まぁ、良いわ。
で、二つ目は?」
「・・・怒んないでね。
・・・「精霊さんがイケメンだったから」。」
「・・・涸春、吐物の処理が出来そうな、ゴム手袋とバケツ、
買ってきてくれるかしら?
買いに行ってくれてる間に、終わらせるから。」
「いや、冗談じゃないんだって!!」
―――――――――――――――
「正直言って、今回の怪異は、かなり幼稚だったよ?
「血の縁」の術空間が、途中まで真っ白な空間で、未完成だったし。
拍子抜けする程簡単に「割込み」出来たし。
・・・「割込み」で入って貰った奥方に対する反応も、かなり情緒不安定だったらしいし。
・・・正直、今回の怪異は、精神的にも、呪術的にも、
まだまだな、半端者だったんだと思う。」
「まぁ、確かに。
意外と呆気ない最期だったしね。」
「・・・だから、正直言って、最初に取り込まれたのがあの精霊さんじゃなかったら、
全然、弱かったと思う。
あの精霊さんを取り込んだから、あんな大事件に発展したんだと思う。」
此処で、ずっと黙っていた虚春が口を挟む。
「・・・ねぇ。
現場に行ってないワタシが、こんな事聞くのもあれなんだけどね。
・・・なんで、そんな「半端者の怪異」に、あの水害が取り込まれたのかしら。」
「・・・なんでだと思う?」
「質問を質問で返さないでくれるかしら?
ワタシは今、とても最悪の予感がしてるのよ。」
「へぇ~。
・・・どんな予感?」
虚春と神蛇のやり取りは、高度な心理戦の如く、
発言の一つ一つに、思惑が込められる会話が展開されそうな、
そんな雰囲気であった。
そんな雰囲気に口を挟む勇気は涸春には無かったらしく、口を噤んでいる。
顔色や表情は変わらず、相も変わらず烏龍茶を飲んでいるが、
触角は、しゅるしゅると、内側に巻かれている。
「・・・居たんじゃないの?
「話作定理」が。」
「そうだよ。」
「・・・へ?」
意外と呆気なく答えたことに目を丸くする虚春。
「今回遭遇した「話作定理」は、「サクエ」。
「工作」の人。
多分、精霊さんや其のお友達の話を元に推測すると、
怪異の攻撃に細工して、攻撃に気づかせないようにしたり、
威力を上げたりしたんだと思う。
じゃ無かったら、あの精霊さんが
「背後から攻撃を喰らう」
とか、「花姫」の護衛の人が、
「庇いきれない攻撃を喰らって、共倒れ」
とか、有り得ないもん!」
「・・・え?「花姫」?」
「・・・今回の被害者は、近隣の住民十名、「帝立高校」生徒十五名、
「帝立高校」教職員十五名、計四十名。
・・・まぁ、帝立高校の近所で起きた事件だし、
「仕方がない」
と言えば仕方がない。
・・・「有力」だった被害者は、最初の被害者:「水害」岬 海斗、
野次馬兼水害のクラスメイト:「滝壺蜘蛛」糸川 綾、
同じくクラスメイト:「雨方の濡女」牛河 紹子、
同じk」
「え、待って。
一旦ストップ。」
「どうしたの、虚春。
あまりに豪華メンバー過ぎた?」
「えぇ、そうよ。
その通りよ。
・・・え?「滝壺蜘蛛」も居たの?
「雨方の濡女」まで?
・・・水害のオンパレードじゃない。
・・・成程。確かに、此処まで「水害」の豪華キャストを
揃えてしまったら、流石に強くなるわね。」
「そうね。例えるなら、
「赤ドラ、ドラ、全て揃った状況で、四暗刻一歩手間の立直」
みたいな状況だったわね。
・・・もう、水害が取り込まれた時点で
「あぁ、此の国、終わったな。」
って覚悟したのに、更なる豪華キャストが居たもんだから、
「・・・え?今日、アタシが解雇される日?」
って、思っちゃったわ。」
最悪の状況を、麻雀で例えている。
「大丈夫よ。
だって、涸春は最強だから。」
また涸春の触角は、ひゅるひゅると動いている。
ちなみに、「滝壺蜘蛛」は「みっちー」と呼んでいた女子生徒、
「雨方の濡女」は「みさみさ」と呼んでいた女子生徒である。
「・・・で、他に、どんな奴が居たのかしら?」
「あとは、さっき巳禍が言ってた通り、「花姫」の一団が居たのよね。
水害と仲、良かったみたいで。
クラスメイトだったしね。
「花姫」一派の中の被害者は、「花姫」護衛:「神藤」斎藤 信仕、
「花姫」預かり:「神木」木村 永葉。」
「・・・あの神藤が負けたの?」
「そう。多分、「話作定理」の差し金。」
涸春が「話作定理」と言い終わる頃には、虚春は「台パン」をしていた。
涸春は目を見開く。
触角が、「ぶるぶるっ」と動く。
涸春は、大きな音が苦手なのだ。
「・・・あの屑共。」
「・・・私は火に油を注いでいくスタンスだから、今、気にせず言っちゃうんだけどね。」
「・・・最悪のスタンスね。」
「まぁ、ね?
・・・「話作定理」、私と、妹さんが二人を探している間、
私がコカツちゃん迎えに行っている間、
奥さんを勝手に「割込み」させてたんだ。」
「・・・趣味が、悪いわよね、あの屑共。
状況をより悪化させる事しか、取柄の無い、最低最悪な屑共。」
「・・・あの糞共、奥方を唆してた。
・・・何か、変な術、掛かってたし。」
「そうだね。
奥さんには、明らかに術が掛けられてた。
「判断力低下」「情緒不安定化」「錯乱」とか、色々と。」
「・・・もう良いわ、あの屑共の話は。
・・・もう、沢山よ。
もう、飽きたわ…」
そう言って机に突っ伏す虚春。
「・・・アタシの大学芋、あげるわ。」
そう言って残り一個の大学芋の皿を虚春の傍に置く涸春。
「あー!!!」
シリアスな空気を壊す、神蛇の突然の「あ!」。
「何よ。遂に頭が可笑しくなっちゃったの?」
「大丈夫よ、涸春。
此奴は元々頭が可笑しいから。」
「成程。可哀想。」
「違うよ!」
「じゃあ、何よ。」
「頭が可笑しいとしか考えられないわよ、酔っ払い。」
「・・・怒んないでね?」
「突然奇声発せられた時点で、怒り心頭なんだけど?」
「まぁ、良いわ。
アタシは寛大だから、特別に許してあげるわ。」
「流石涸春。
涸春の寛大な心に感謝して、懺悔しながら言いなさい。」
「えっとですね…
締めのお茶うけの、芋けんぴの芋を、大学芋で消費しきりました…」
「・・・虚春、ちょっと、家具とかにビニール掛けるの、手伝ってくれない?」
「ごめん!本っ当に、ごめんね!
でも、血祭に上げないで!!
ほら、此のお金で、好きなお菓子、買いに行っていいから!!」
皆々様、初めまして、またはこんにちは。
⻆谷春那です。
・・・皆々様、「ヒトリミサキ」見返してみてください。
確かに、「最終章」に岬君の事を
「みっちー」「みさみさ」と言っている女子生徒が居ます...
・・・まさか、大物だと思っていた人、居ます?
居たらちょっと、勲章を授けたいですね、ハイ。
次回もお楽しみに!!