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5、賭け事



剣術大会は、盛り上がりを見せている。今日から本戦が始まるのだ。もちろん、中止はさせない。


リュシアーナは、騎士団長とともに警備を見直して、本戦に臨んでいる。リュシアーナ自身も来賓と共に観覧席にいた。


さらにファリーナ帝国にいる魔法使いを探し出して、今回の対処に当たらせていた。なにか魔力を感じるものがないか、監視させているのだ。


魔法使いを集めて気づいたのだが、魔法を使えない魔法使いが大半だったのだ。その大半は、ただ白髪であるだけで、それ以外は何も普通の人間と変わらないのだと言う。


魔力を感知すること自体もできるかどうか。それさえも曖昧だった。


リュシアーナは、魔法使いなら、大なり小なり魔法を使えると思っていただけに当てが外れていた。


魔力を感知できる魔法使いを主要な場所に限って配置して、警備は万端だ。


「リュシアーナ帝よ。なにか起こっておるそうだな?」


来賓とともに観覧席にいたところ、リュシアーナは、芸術の国の女王に声をかけられた。


女王の名は、ラクシュミ。六十半ばの高齢の女王なのだが、矍鑠としていて、その目は活気に満ちている。


芸術の国、スーリャ国は、その別称からわかる通り、芸術に重きを置いている。様々な美術品と芸術家が集まる国なのだ。


「初めての公式行事ですもの。若輩者ゆえ、行き届かないところもありますわ」


想定外の事件が起こっているが、リュシアーナは悟られないように微笑んだ。


「年長者だからこその心配だ。警戒せずとも大事にする気はない。リュシアーナ帝の後見人とは、仲良くしているからな」


だが、思わぬことを言われて、リュシアーナは驚いた。リュシアーナの後見人は、魔法使いの国の国主だ。


(そういえば……魔法使いの国主もあの姿で六十を過ぎていたかしら)


ラクシュミとは、同年代になることに気づいた。


「それに、変幻魔導師には借りがある。本当に面白い小僧だった。ファリーナ帝国にも変幻が現れたのだろう?」


さらに思わぬことを言われて、一瞬、リュシアーナの笑みが固まった。ラクシュミが指す変幻魔導師とは、誰のことなのだろうか。変幻を騙っていたルカなのか、本人なのか。


「ラクシュミ女王、変幻魔導師に面白いはないでしょうよ。災厄が相応しくないですか?」


メルデンが、呆れた声で会話に入ってきた。席が近いため、聞こえてきたのだろう。


「あんなに愛らしい子どもを怖がっておるのか? シャフランの小僧」


「いやいや、どう見てもあれは子どもじゃないでしょ。女王からしたら、全員子どもに見えるかもしれませんが」


ラクシュミは、顔が広いようだ。メルデンともそれなりに親しくしているらしい。


「年寄り扱いするでない。十歳ほどの男の子に愛らしいといって何が悪い」


「……?」


そこでリュシアーナは、不思議に思った。


「十歳? ありゃどう見ても成人してるでしょう」


メルデンとラクシュミの変幻魔導師の姿が一致していないのだ。


「変身魔法を使えるのは本当のようですね。わたくしが初めて会った時は、茶髪に紫の瞳の青年でしたわ」


「――例えば、私のような?」


その時、意外なところから声があがった。雨の国の宰相が、穏やかな笑みを浮かべて言ったのだ。その宰相は、茶髪で紫の瞳をしているのだ。ただ、ルカとは似ておらず、彫りが深くはっきりした優美な顔立ちだ。


今回初めてファリーナ帝国を訪れた彼は、ロゼと名乗り、リュシアーナとは一度挨拶した程度だ。紫の瞳であることは、リュシアーナも気にはしていた。


「髪と瞳は同じ色ですが、別人ですわ」


リュシアーナは、ゆるく首を横に振る。


「私が見たのは、黒髪に赤い目の少年でしたよ」


そして、次の言葉にリュシアーナは、はっとしてロゼを見た。


「これだけの国々と縁があるとは、さすがは変幻魔導師。本当にあの方は、人たらしだ。リュシアーナ帝ですら、かの魔導師に心を奪われておられるようで?」


リュシアーナの反応を見て、くすりとロゼが笑った。


「そのような関係ではありませんわ」


揶揄われてしまったようだ。リュシアーナはやんわりと否定する。


これ以上、変幻魔導師について追及するのは、無駄だ。彼は欺くことに長けているのだ。もはやルカが実在したのかどうかでさえ怪しい。


リュシアーナは、いつまでも蟠りを持っていても仕方ないと、諦めた。


「ああ、雨の国が宰相閣下を送り込んだ意図はそれか。リュシアーナ様に少しでも気に入られようと必死なようですね」


メルデンが少し低い声で言った。


「私の容姿ごときで、リュシアーナ帝がどうにかなると? メルデン殿は、見当違いな心配をなさっているようで」


くすくすとロゼは笑う。それにメルデンが眉を顰めた。


リュシアーナが気持ちの整理をつけている中で二人の男がなにか皮肉めいた言葉の応酬を繰り広げているようだ。


「ふむ、リュシアーナ帝は、変幻魔導師に惚れていて、そこの男二人は、どうにかリュシアーナ帝の心を奪いたいといったところかな?」


冷静にラクシュミが言った。リュシアーナは呆れて、首を横に振る。そんなはずはない。


「なっ!?」


あまりにも変なことを言われたからか、メルデンは思ったよりも大きく驚いていた。ただ、リュシアーナとロゼは、それを冗談だと受け流す。


だが、ラクシュミの悪ふざけに乗る者たちがいたのだ。


「私は、ロゼ殿に賭けましょう」


学者の国の客人が、楽しそうに声をあげる。


「なら、私はメルデン殿に」


そして、それに森の国の客人が追随する。


「ふむ……なら、私は変幻にしようか。さてさて、何を賭けようか?」


ラクシュミが嬉々として賭け事を始め出して、リュシアーナはさらに呆れた。


「賭け事はおやめくださいな。そもそも成立しませんわ」


なぜか自分が謎の四角関係の中心に据えられている気がするが、リュシアーナは皇配なんて考えていない。


確かにメルデンやロゼとなら、婚姻により同盟関係が結べる利点があるかもしれない。だが、婚姻を利用すると後継者問題が絡んできて、面倒だとリュシアーナは思うのだ。


「まあまあ、気のない者ほど、さくっと結婚したりするからな」


リュシアーナは止めたものの、ラクシュミたちは賭け事で盛り上がり始める。リュシアーナはそれ以上制止することなく、放置することにした。


ふと視線を会場に戻すと、ちょうど例の女海賊だというアリサが、一瞬で騎士を倒したところだった。本戦では、刃の潰した剣を使用することになっている。


彼女は、持っていた湾刀ではなく、用意された剣でも圧倒的な実力だった。


(…………湾刀?)


その時、リュシアーナの脳裏に何かが過った。アリサの湾刀は、遠目に見ただけだ。だが、それが妙に気になる。


(あの湾刀は、もしかして……)


今は調べにいくこともできず、リュシアーナは、本戦が終わるのを待っていたのだった。



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