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3、予期せぬ参加者


準備を始めてから、三月後、剣術大会は賑やかに開催された。


最初は予選だ。参加者が多いため、予選は数日かけて行われるのだ。


報告によれば、帝都が祭り一色に染まり、広間には出店が立ち並び、観光客で賑わっている。一年前の公開処刑の日に起こった魔物による破壊の跡は一切感じられないとのことだった。


リュシアーナは、観覧に訪れた他国からの賓客の相手で忙しくなる。近隣の国々のほとんどが、招待に応じてくれたのだ。


そして、様々な贈り物が届き、皇宮は一気に慌ただしくも、華やかになる。


「メルデン様」


リュシアーナは、先ほど到着したばかりの賓客に声をかけた。


褐色の肌に少し垂れた目は黄金色で、派手な服装が似合い、顔立ちが非常に整っている青年だ。そして、真珠の国の宰相の息子として、グリフォン部隊を率いる隊長となっていた。


「リュシアーナ様、どうもお久しぶりです」


メルデンは、リュシアーナを見て、親しげに片目を瞑って見せた。彼とは度々交流があり、人の目があるときは、お互い名前に敬称をつけて呼ぶことで落ち着いていた。


「やはりあなたが来たのね」


「そりゃそうだ。俺ほどリュシアーナ様に親しい人はいないだろ?」


メルデンはそう言いながら、リュシアーナの手を取り、その甲に口づけて挨拶する。


「盛況だな。帝都は人でごった返していた」


「ありがたいことだわ。あなたも参加してはどうかしら?」


リュシアーナは、冗談めかして、大会への参加を誘ってみる。


「残念。俺は空中戦専門だから」


メルデンは肩をすくめて断った。


「だが、本当に皇配になれるなら、参加してみてもいいかもな。リュシアーナ様の伴侶となれるなら、地上に降りてもいい」


続けてそう言われて、リュシアーナはため息をついた。


「そんな副賞はないわ」


否定しているのだが、剣術大会の優勝者が、リュシアーナの夫になるという噂は全く鎮火していない。困ったものだ。


「そんなに嫌なら、いっそちょうどいい男でも捕まえたらどうだ」


「ちょうどいい男なんていないでしょう」


リュシアーナは特に夫の必要性を感じていなかった。自分の子が皇位を継ぐよりも、国内で最も優秀で相応しい者に後を譲った方が合理的だ。


「あなたは? あなたも伴侶についてとやかく言われているのではないかしら?」


リュシアーナはメルデンに尋ねた。彼とて、人の夫を気にしている場合ではないだろう。


「俺に並べる女がいなくてな」


「傲慢よ」


にっと笑うメルデンを見て、リュシアーナは呆れて言う。


「――メルデン! 大変だっ」


メルデンと話していたところで、彼の部下が驚いた様子でやってきた。そして、リュシアーナの姿を見つけて、立ち止まる。


「カシス、なんだ?」


「あー……」


「良い。言え」


部下であるカシスは、リュシアーナを見て、気まずそうに口籠もる。だが、メルデンに促されて、口を開いた。


「剣術大会の予選の参加者に……船上のローレライを見つけた」


船上のローレライとはなんだろうか。


「は? 半年前に行方をくらませていた海賊のことか?」


メルデンが疑わしそうに問い直すも、カシスは頷いた。


「……問題のある方が、参加したようですね。こちらで対処しましょうか?」


今回、剣術大会の参加者には制限をかけていない。とは言え、犯罪者が紛れ込んでいるのなら別だ。海賊という言葉にリュシアーナはお尋ね者が混ざったのかと推測する。


「いや……」


メルデンは難しい顔で黙り込んだ。どうすべきかと考え込んでいるようだ。


「船上のローレライとは、どのような方なのでしょうか?」


リュシアーナは、カシスに向けて尋ねてみた。カシスは困った顔をしながらも答えた。


「船上のローレライは、うちの国に出る海賊の頭領なんですけど……密輸船とか、後ろ暗いことをしている船しか狙わない義賊でもあるんです。凄腕なので国の部隊に引き抜きを持ちかけようとしていたところ、半年前から行方が分からなくなっていました」


扱いに困る人物だったようだ。メルデンが補足する。


「半年前、魔導師の一人と衝突したことが確認されているんだ。ただ魔導師相手だったから、死んだと思われていた」


魔導師とは、魔法使いの国の特権階級であり、一人で小国を落とすほど強力な力を持つ魔法使いのことだ。確かに魔導師と相対すれば、ただの海賊に勝機はないだろう。


「まだ魔導師を追っていたのね。どの魔導師なの?」


出会った時から、メルデンは魔導師の動向を観察する役割を担っている。それは今も続けているようだ。


「雲仙魔導師だ。今回はうちの国内で起こったことだから余計にな」


雲仙魔導師。リュシアーナの知らない魔導師だ。


「……俺は予選を見に行く。ローレライについては気にしないでくれ」


「まぁ、そういうわけにはいかないわ。わたくしも行きましょう」


犯罪者くずれがいるのなら、警備に注意を促さなければならない。リュシアーナは、侍従に指示して、剣術大会の会場に向かう準備をさせる。


そして、すぐに会場へと向かったのだった。



リュシアーナが、メルデンと共に会場に入ると同時に大歓声が沸き起こる。


「陛下」


会場では、大会を取り仕切っていた騎士団長がリュシアーナを出迎える。


「何があったの?」


歓声にかき消されながらもリュシアーナは問う。


「たった今、外部からの参加者の中で、本戦に進む者が決まりました」


騎士団長が、はっきりした声で告げた。リュシアーナが、観覧席から試合の様子を伺うと、無骨な試合場の上では、多くの者たちが倒れ伏していて、ただ一人が立っていた。


「まぁ……」


リュシアーナは、驚いた。その一人は、女性だったのだ。ここからではその顔立ちは見えないが、赤茶色の髪が太陽に照らされて赤く煌めいている。


彼女は、驚きと野次が飛び交う会場の中心で、鞘に入れたままの湾刀を突き出して見せた。その瞬間、さらに会場が盛り上がる。


「……間違いないな。船上のローレライだ」


メルデンが彼女を見て、言った。よりにもよって海賊が勝ち上がってしまったようだ。


「騎士団長、彼女は義賊のような海賊とのことです。動向には注意を払うように」


「かしこまりました」


リュシアーナは、騎士団長に注意を促す。


それにしてもなぜ剣術大会に参加したのだと、訝しく思った。剣術大会は、多少の賞金は出るが、所詮、力自慢だ。半年前に姿を消したという彼女が、目立つような真似をする目的は、なんだろうか。


訝しんでいると、不意に彼女がリュシアーナと目を合わせたような気がした。




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