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2、招待状


――大々的に剣術大会を開催することを発表した。


帝都の民たちは喜んでいると、早速反応を伝えられて、リュシアーナは安堵した。幸いなことにまだ騎士に対する憧れは失われていないようだ。


リュシアーナは、他国への招待状を作成していた。特に一年前に真っ先にリュシアーナを認めてくれた国々を招待するつもりだった。


勿論、魔法使いの国を招待しているのだが、かなりの距離であることから、国主が来ることはないだろうと予想する。


そして、変幻魔導師。彼にも出すべきかどうか。


(変幻魔導師は、ファリーナ帝国の外にいた剣の一族。もともと蛇神の国からファリーナ帝国に渡ってきたから、おかしくはないのだけれど……)


リュシアーナの願いを叶えて消えてしまった魔法使い、ルカは、変幻魔導師の名を騙っていた。本人公認のもとなので、特にリュシアーナが負い目を感じることではないのだが、一方的にわだかまりを抱いている相手ではある。


リュシアーナは、まっさらな便箋を前にして、ペンが止まった。


(変幻魔導師は……わたくしのことをどう思っているのかしら……)


自分の一族が、リュシアーナのせいで命を落としたのだ。一年前に見た変幻魔導師は、ルカの死を聞いてもあっさりしたものだった。だが、内心はどうかはわからない。


リュシアーナは、一息つくと、招待状を書き上げた。


少なくとも招待して、不興を買うことはないだろう。国主同様に遠方だから、欠席する可能性も高い。


「陛下」


一人の騎士が、リュシアーナのもとに報告にやってきた。騎士の名は、リシャル・バウスだ。元白狼騎士団だった彼は顔馴染みである。


「どうしましたか?」


リュシアーナは、微笑んで問う。剣術大会の開催に向けて、文官と騎士の何人かを大会専属で引き抜いて準備させているが、彼はその一人なのだ。


「各地の騎士団の詰所より回答が出揃いました。出場者が多く手薄になる地域には、帝都から騎士を派遣する手筈が整っています」


白狼騎士団の運営を一手に引き受けていたこともあり、彼の仕事は早い。渡された報告書を読んで、リュシアーナは問題がないことを確認する。


「出場者の見込みは、騎士だけで三百人になるかと。……本当に外部からも参加者を募りますか?」


思ったよりも現役の騎士の参加が多い。出場者のリストを見るにリュシアーナと同じ年頃の若い騎士が目立つ。


「公表した以上、撤回しませんわ。ただし、人数による制限を設けましょう」


「承知しました。それと……こちらは個人的に聞き及んだことが二件あるのですが……」


「どんなことですか?」


リシャルが少し言いにくそうに言葉を濁して、リュシアーナは目を瞬かせた。


「……女性の参加者について、反対する声が上がっています。実際、女性で参加を表明した方はいないのですが……」


剣術大会に関する問い合わせが、リシャルに殺到しているのだろう。賛成も反対も彼や準備している者たちに集まっているようだ。


「性別による制限はしませんわ。身体能力的におすすめはしませんが。もう一点は?」


「その、剣術大会の優勝者が……皇配になれるとの噂が広がっています」


「………………」


保守派の貴族の仕業だろう。リュシアーナはすぐに噂の出所を予想する。


彼らはどうしても離婚した女が受け入れられないらしい。


「捨て置きなさい」


リュシアーナが言うと、リシャルは頭を下げた。


リュシアーナを気に入ろうと気に入らまいが、領主としての規律を守っていればそれでいい。全員に認められる必要はないと、悟っていた。



――多少の問題はあれど、剣術大会は着々と進んでいた。



噂を鎮火させるべきか考えていた数日後、看過できない問題が発生したようだと、報告がくる。


「陛下」


外務長官を務めるクラリーサが直々にリュシアーナの元にやってきたのだ。


「先に報告書は見たわ」


リュシアーナは執務の手を止めて、すぐにクラリーサと向き合う。


鉱石の国が、ファリーナ帝国との国境付近で、兵力を集めているとの情報が入ったのだ。


「森の国にいた歌劇魔導師が、ひとまずは両国の戦線を見張るとおっしゃってくれました」


「そう……」


国一つ挟んだ距離に森の国がある。鉱石の国は、東西に長い国土を持つ。そのため、ファリーナ帝国と森の国のどちらも鉱石の国との国境が存在している。


その離れた国境を二つも見張ることが可能なのかと、リュシアーナは、魔導師の力に驚かされた。


「この時期に兵力を割かねばならないのね」


リュシアーナは、騎士団長を連れてくるように文官に命じた。


皇宮の一部を開放して、剣術大会に使用するため、いつもより警備は厳重で、騎士たちを帝都に集中させている。


「意図的、かしら?」


手薄になった国境に何か仕掛けるつもりかと、リュシアーナは警戒した。


「念の為、北東の領主たちに指示して、私兵を確保しておくのがよろしいかと」


「そうね」


鉱石の国との国境を構える領主、ベルティ辺境伯には、元々騎士をしていた人望の厚い人物を新たにたてている。もしもの事態に備えるよう命じた方がいいだろう。


この一年は、魔法使いの国の後ろ盾があるため、他国は様子見していた。まだ内政に注力したかったが、先帝時代に無闇矢鱈と戦争を仕掛けていたツケが回ってきたのだろう。


リュシアーナは、粛々と国を守るための対策を講じ始めたのだった。


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