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75、剣の一族


十五で婚約して、十八で結婚した。それから五年、新皇帝リュシアーナを阻む者たちが揃っていた。



金翼騎士団に三人の皇子とその騎士団、それだけではなく、紅蓮魔導師まで……皇帝アルミロを支持していた者たちが、リュシアーナに剣を向けている。


「リュシアーナ、また名乗りからやり直しじゃない?」


同じ魔導師と相対しながらもルカはそんなことを言う。リュシアーナはそれに乗ることにした。


「わたくし、リュシアーナ・ボナートがアルミロ・ファリーナの暗殺を指示し、皇位を簒奪しました。わたくしに従うか、背くか、ここで判断していただいて構いませんわ」


「黙れ、女狐が!!」


にこりと笑うと、即座に抗議が飛んでくる。金翼騎士団の第一騎士、サガン・レスターからだ。


「背くなら、排除します。しかし、従うというのなら、身の安全だけは保証しますわ」


リュシアーナは無視して続けた。この言葉に揺れた騎士は少数だ。


「保証とは? おまえにつけば、何をくれる?」


しかし、なぜか紅蓮魔導師が食いついてくる。先ほどから彼はルカを見ても反応がない。変幻魔導師だと気づいていないのだ。


「ご自身の国に帰ったほうがよろしいのでは?」


リュシアーナがそう言うと、紅蓮魔導師は今度は皇子たちに目を向けた。


「アルミロの息子たちよ、おまえたちは私に何をくれる?」


「この逆賊を討てるのならなんだっていいだろう!」


ラウルが考えなしに叫んだ。


「だそうだ。おまえは何を私にくれる?」


そして、再びリュシアーナに目を向ける。余裕のある笑みを浮かべた彼は確信しているようだ。自分がどちらにつくかで、勝者が決まると――。


だが、それは思い上がりだ。ルカが一度だけ振り返って、いつものようにへらりと笑った。だから、リュシアーナは安心して答える。


「何も」


紅蓮魔導師の笑みが、一瞬にして消えた。リュシアーナの返答が気に入らなかったようだ。


「私は、魔法使いの国で、魔導師の地位と紅蓮の称号を与えられた者。大地を灼熱に歪め天を赤く染める紅蓮魔導師だ。アルミロの息子たちのために力を行使しよう」


リュシアーナへと踏み出した紅蓮魔導師が、その背にいくつもの炎の玉を浮かべた。ルカもまた、臆せずに前に踏み出す。


「俺は、魔法使いの国で、魔導師の地位と変幻の称号を与えられた者。夢と現実の狭間からすべてを欺く変幻魔導師だ。リュシアーナの治世のために力を行使する」


ぶわりと熱風が吹き荒れた。しかし、熱風を感じたのは一瞬だった。幻影と炎が消えて、完全に無風になる。


――ここで初めて、紅蓮魔導師の顔色が変わった。


皇子たちは熱に炙られたことで、謁見室の外に後退する。


「誰だ、おまえは」


「んー? 変幻魔導師って言ってるじゃん」


訝る紅蓮魔導師にルカは答える。


「そんな魔導師は知らない」


「そりゃあ、あんたは何年も国に帰ってないから。さてと、七年前のリベンジでもしようかな」


ルカはぐっと伸びをして、手にしていた剣を軽く振る。


(七年前……? まさか、カヴァニス公爵家の館を燃やしたのは……!)


リュシアーナは気づいた。今までルカは全く紅蓮魔導師に反応しなかったから、わからなかった。


七年前、カヴァニス公爵家が壊滅した時、公爵夫妻と精鋭がブラド山岳地帯に向かい、金翼騎士団に滅ぼされた。同時に子供たちがいる帝都の館が燃やされたのだ。


皇帝アルミロの友人だった紅蓮魔導師が関わっていてもおかしくない。


ルカは、紅蓮魔導師と距離があるにも関わらず、剣を頭上に上げて構えた。その剣が青白く光る。


いつもの破閃とは違う色だ。そう思った瞬間、ルカが剣を振り下ろした。青白い三日月の光が斬撃のように飛ぶ。対する紅蓮魔導師は炎で迎え撃つ。しかし、青の光は炎を飲み込み、紅蓮魔導師すら包み込んで……透過した。


魔法を打ち消したものの、実態はないようだった。しかし、紅蓮魔導師は、その場に突っ立っている。魂が抜けたかのようにだらりと両腕を下げて、ぼーっとしているのだ。


「何をした……!?」


謁見室の外でラウルが叫ぶ。


ルカは、今度は白光させた剣を皇子たちに向けた。破閃だ。


カヴァニス公爵家……剣の一族の秘技は、破閃だけではなかったのだ。ルカは剣の一族らしく、秘技を使いこなせるようだった。


「次は誰だ?」


ルカの言葉に反応したのは、一人。それ以外の皇子も騎士も怖気付いていた。


金翼騎士団の第三騎士リアンが、剣を構えたと思うと、驚異的な速さで、距離を詰める。


白光の剣同士が、ぶつかり合う。そう思った瞬間、ルカの剣が赤く変化した。白と赤の剣がぶつかり合い、白の剣が折れる。


「っ!?」


驚くリアンをルカは蹴り飛ばした。


彼は皇子たちの元まで戻される。立ちあがろうとしたが、叶わずに倒れ込み、その拍子に目元の布が落ちた。奇妙な虹色の目が、憎々しげにルカを見つめていた。


「弱すぎ。骨もなければ能も気概もない。さっさとひれ伏せよ、俺に勝てないだろ」


ルカは皇子たちに言った。ルカは圧倒的だ。皇子たちが揺らいでいるのがわかった。


「何を怖気付いているのですか!! 正統性のない女など皇帝ではない! 他国の魔導師に頼るような売国奴など、すぐに落ちる!!」


だが、そこで叫ぶ者がいる。金翼騎士団の第一騎士、サガン・レスターだ。彼は叫ぶだけではなかった。一体、いつ用意したのか、金翼騎士団の騎士たちが一斉に何かを投げた。


地面に投げつけられたそれは破裂して、中から煙を吐き出す。


――彼らは、逃げ出したのだ。


(威勢のいい撤退ね)


リュシアーナは少し呆れた。大層なことを言っておいて、尻尾を巻いて逃げるのか。


「すぐに追わせます」


騎士団長が騎士たちに指示を出そうとする。


「いいえ、不要です。それよりも別のことに人員を割きたいのです」


リュシアーナは、騎士団長を止めた。


皇子たちがそう早くに行動に移せるとは思えない。しばらくは警戒して、味方集めに奔走するだろう。


リュシアーナはその味方を先回りして潰し、準備を遅らせるだけでいい。魔法使いの国の国主が、後見人についたことが大々的に広まれば、歯向かうことは不可能だ。


(わたくしは、ようやくやりたかった改革に乗り出せるわ)


この三十年で損耗したファリーナ帝国を再生させるのだ。


ここからが本当の始まりだと、リュシアーナは待ち望んだ瞬間に胸を躍らせた。





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