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71、終盤


十五で婚約して、十八で結婚した。それから四年、帝都で歴史上最悪の事件が起こっていた。



公開処刑の日から三日が経っていた。


公開処刑の日、出現した魔物とベルティ辺境伯の残党は、金翼騎士団、白狼騎士団、赤星騎士団、青剣騎士団の四つの皇族の騎士団に加えて、帝国騎士団が協力することで無事に鎮圧された。


ただし、その被害は甚大で何百人もの死傷者をだしている。さらには、皇宮の一部、後宮の一角が爆破されてしまっていた。外の暴動に気をとられ、警備が手薄になったところに入り込んだアンデッドが爆発したらしい。奇しくもあのデュラハンが血を浴びせた門を突破していったそうだ。


いまだかつて、帝都でこのような暴動が起こったことはない。しかも、帝都の広場で、皇族の目の前で勃発したのだ。他国への影響は計り知れない。


――ファリーナ帝国は落ち目だと、そう周囲には映ったことだろう。


そして、暴動に隠れてしまったが、ブラド山岳地帯から空へと駆けて行った謎の巨大な影については何もわかっていない。皆、それどころではないのだ。


「そろそろだな、リュシアーナ」


私室でメルデンが持ち帰る情報を待っていたリュシアーナは、聞こえてきた声に振り返る。


「何人の犠牲が出たと思っているの?」


険しい顔で問うが、ルカはへらへらと軽薄な態度を崩さない。


「公開処刑を楽しみにするような品のない民なんていらなくない?」


「あなたが選別しないで」


「魔導師は魔法使いにさえ気をつければ、何したっていいし?」


「…………」


ルカに何を言っても無駄だ。合理的なルカは、今回の帝国民の犠牲と得られるものを秤にかけて、後者の方が重いと判断したのだろう。


「後宮が破壊されたわ。どう利用するつもり?」


「混乱を機にクラリーサの息がかかった女を後宮に入れた。多少、女の数が変わっていても皇帝は気にしないからな。あと、補修の責任者にアッシュリアが選ばれるよう手を回してある」


ルカはつつがなく皇帝暗殺のための準備を進めている。


暴動の最中、カリナの残した兵に皇帝が狙われたそうだが、結局、皇帝は無傷で帰ってきたそうだ。やはり周囲にいる破閃が使える騎士たちを引き離さない限り、暗殺はできない。後宮での暗殺が一番理にかなっている。


「いつ起こるの?」


肝心の暗殺は、後宮の補修が終わり、捕虜となっているシクル王国の王女が、後宮入りした日となるだろう。


「ひと月後だ」


――ついにリュシアーナが皇帝になる。


目前に迫ったそれにリュシアーナは、ざわつく心を宥めた。


「皇位委任状。第二皇子のものは手に入れて、父のもとで保管しているわ」


「それ、公爵から受け取ったよ。シェリルからももらってる」


早くもシェリルがラウルの保管する第一皇子の署名入りの委任状を盗み出していたようだ。ルカの出した三人の皇子の委任状は揃いつつある。


「第三皇子の分は、あなたが書かせるつもり? もしそうでなければ、クラリーサを連れて書かせてみせるわ」


計画の成就が目前に迫った今、第三皇子なら直接迫ってもいいだろう。彼が声を上げたとしても、その言葉が信憑性を帯びる前にことを為して仕舞えばいい。


「適当に書かせるかなー」


ルカは呑気に言った。いつでも書かせられるのだろう。考えてみれば、ルカが幻影魔法を使えば造作もないことだ。


「全員分手に入れたら、うちの国主に送る。届き次第、こっちにきてくれるだろうけど、二、三ヶ月かかるかなぁ」


魔法使いの国の国主がリュシアーナの後ろ盾になる。圧倒的な抑止力を手に入れられるのだ。


「それまでは、頼りにしていいのね?」


「勿論。俺はそのために変幻魔導師になったんだから」


だが、国が離れている分、到着するまで時間がかかる。リュシアーナが玉座を奪ってから少しの間は、ルカが抑止力になってくれるのだろう。


「なら、あとはアッシュリアとブリジッタ、そして、シクルの王女殿下が役目を果たすのを待つだけかしら」


「そう。後宮に注目されないように適当な事件でも起こそっかなぁ」


ルカが伸びをしながら言う。リュシアーナは眉を顰めた。


「無駄に犠牲を出すのはやめなさい」


「出さないよ。ってかさ、いつシャフランの宰相の息子と仲良くなったんだ?」


ルカが不意に首を傾げて、リュシアーナを見つめる。先日、メルデンと会っていた時にルカが割り込んできたことを思い出す。


「南部、クライフ男爵領に行った時に偶然会ったのよ」


「ふうん?」


ルカはにやにやしながら、意味ありげにリュシアーナの顔を見てくる。


「……何?」


「なんだ。シャフラン王国との戦争を起こしたこと、バレてないんだ」


さらりとルカが言った。リュシアーナのこめかみがぴくっと引くついた。


シャフラン王国とは四年前に戦争が起こっている。シャフラン王国側の船がファリーナ帝国所有の灯台に衝突したことからその戦争は始まっていたはずだ。その船の衝突が、ルカの仕業だったというのか。


「……なぜ?」


低い声で問うと、ルカは逃げるように距離を取った。


「シャフランの上層部を入れ替えたかったんだ。いわば俺のおかげで、メルデンの父親は宰相になれたもんじゃん?」


にこにこと話しているが、その内容は全く可愛くない。ルカはこうやっていくつもリュシアーナの知らないところで策略を巡らせているのだろう。


公開処刑の日の竜もそうだ。長い胴の巨体は、ブラド山岳地帯で発見した壁画の竜そっくりだった。


そして、メルデンは、変幻魔導師を神話を喰らう化け物と称していた。


リュシアーナは問いただそうと口を開きかけて……やめた。


――神話など知ったことか。欲しいなら、くれてやればいい。


(わたくしが皇帝になれば、そんなおとぎ話などに頼らないわ)


深く息を吐いたリュシアーナにルカはへらりと笑う。


「じゃあ、ひと月後。その時になったら、迎えが来る。リュシアーナはここで待ってろ」


最後に言い置いて、ルカは姿を消したのだった。





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