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70、混乱の最中


十五で婚約して、十八で結婚した。それから四年、公開処刑が行われる帝都でルカが事件を起こし始めた。



地震とともに大きな爆発音が聞こえて、リュシアーナたちは外に出た。


地面は一度大きく揺れたが、揺れは続かなかった。しかし、まだ地鳴りは続いている。


「なんなんだ……あれは……」


メルデンの言葉にリュシアーナも彼と同じ方角を見る。大地から何かが蠢きながら空に登っていた。巨大な蛇のような影だ。体を左右にくねらせて空へと登っていく。


その方角には、ブラド山岳地帯がある。


「天井の竜……?」


思わず言葉をこぼれた。


(あんな大きなもの……どこから? いえ、それ以前にあんなものが山岳地帯にあるなんて聞いたことがない……!)


あれほどの巨体と異形なら、必ず伝承やら記録に残っているはずだ。しかし、リュシアーナは全く知らなかった。


(いえ……ルカが壁画を利用しただけだったら? あれは幻影か何かよ)


ルカの使う幻影魔法である可能性に気づき、リュシアーナは一度深く息を吐いた。


問題は竜ではない。これだけの光景を再現して、ルカがしようとしていることはなんだろうか。


皇子宮の外に出て確認したいところだが、わざわざルカが警告しにきたことを鑑みるにそれは避けるべきなのだろう。


「ステファン、一度兵舎に行って情報を得てきてくれるかしら」


「はい、姉上は?」


「わたくしは、あの子の言う通りここにいます」


リュシアーナの答えを聞いて、ステファンはすぐに兵舎に向かった。


「メルデン、あなたもしばらくはここにとどまった方がよろしいでしょう」


「いや、俺は竜を見にいく」


リュシアーナの申し出をメルデンは断った。丁度戻ってきたランから資料を受け取り、彼は指笛を吹く。


「気をつけて。あの子はわたくしたち以外に容赦しないから」


「お嬢さんは本当にあいつに好かれてんだな。見てわかるくらいに俺とお嬢さんとで態度が違う」


メルデンはそう言うと、空から降りてきたグリフォンに跨った。


「じゃあな、また何かわかったら連絡する」


「ええ」


そして、メルデンはグリフォンに乗って、竜が蠢く空へと駆けて行ったのだった。


その後、すぐに竜は天に登って見えなくなった。


だが、断続的に爆発音が続いている。おそらくこの爆発音は、帝都の広場で起こっているのだろう。


空の異形と広場の爆発、二段構えの作戦だと、リュシアーナは気づいた。リュシアーナは、私室で待とうかと思ったが、白狼騎士団の作戦室に向かう。


残っていた白狼騎士団の騎士たちが慌ただしく内外を駆け抜けて行く。リュシアーナが作戦室に入ると、第二騎士のリシャルが気づいたが、手で制した。リュシアーナはそのまま隅の方で、入ってくる情報を聞くことにしたのだった。


「皇帝陛下が狙われました!」


少しすると、一人の騎士が駆け込んでくる。驚いたリシャルが勢いよく立ち上がった。


「陛下は? 殿下は無事か?」


「はい、どちらもご無事です。ベルティ辺境伯の残党の仕業です。それと、広場に突然魔物が現れて、安全な退路を確保するのに手間取っています。今すぐ増援を……!」


騎士の報告を聞いて、リュシアーナは考え込む。


(カリナの部下たちは……ルカが指揮権を引き継いだのね)


百人程度の残党が生き残っているのは知っていた。まさか帝都に潜伏しているとは思わなかったが……。


(それに魔物だなんて、侵略者じみた真似を……)


公開処刑には多くの民たちが押し寄せていたはずだ。かなりの数が犠牲になっているのではないだろうか。こんなにも白昼堂々と帝都の中心を攻撃するなんて、ファリーナ帝国の面子は丸潰れだ。


リシャルが指示を出して、待機していた騎士を広場に向かわせている。おそらく私設騎士団だけでなく、帝国騎士団も広場に人手を割くだろう。


リュシアーナは、ルカの次の一手がわかった。


増援の騎士たちを見送ってから、少しすると、近くで爆発音が鳴り響いた。この皇子宮ではないが、皇宮内のどこかが爆破されたのだ。


(おそらく、後宮ね。ルカは最初から目をつけていたもの)


ルカが表立って動き出したのは、後宮の門にデュラハンのふりして血を撒き散らしたことから始まる。血に汚されただけでなく、破壊されたとなれば、余計に破滅の預言が際立つ。


(もう、計画も最終段階に入ったということかしら)


リュシアーナは、エヴァリストの執務机を見た。


「妃殿下、先ほどの爆発を確認してきます。席を外しますが、何かあれば近くの騎士に従って避難をお願いします」


そこにリシャルが声をかけてきて、リュシアーナは神妙な顔で頷いた。


「ええ。お気をつけて」


リシャルは数人の騎士を連れて、皇子宮の外に向かう。残っているのは、比較的若い騎士たちだ。彼らは備品を抱えて、作戦室を忙しなく出入りしている。


リュシアーナは、静かに立ち上がると、エヴァリストの執務机に座った。


そして、何食わぬ顔で抽斗を探る。いくつか引き出していると、鍵の束を見つけた。それを持って、今度は奥にある金庫の前に立つ。


鍵穴に合いそうな鍵をさしてみると、簡単に開いた。


(まぁ、あっけないこと……)


簡単すぎて少し驚いたが、リュシアーナは中から書類を取り出す。重要書類の中から、一枚だけを抜き取って、金庫を閉じた。振り返ると、誰もリュシアーナの行動に注視していない。


抜き取ったのは、皇位委任状だ。第二皇子ラウルの署名が為されており、誰に皇位を譲るかは空欄になっている。


リュシアーナはそれを封筒に入れて、ちょうどやってきたステファンに渡した。


「父に急ぎで届けてちょうだい。私兵をお借りできれば、エヴァリスト様の助けになると思うの」


そして、リュシアーナは周りの騎士に聞こえるようにそう言う。


「わかりました!」


ステファンは中身を問うことなく、駆け出して行ったのだった。




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