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閑話 カリナの残党

これは、帝都に巣食うカリナの残党たちの一幕――。



帝都に潜伏して数ヶ月。ついにこの時が来た。


ここからが本当の任務だと、カリナは言っていた。


辺境で鍛え上げられた騎士は、すでに二割ほどにまで減り、たった百人ほどしかいないが、それでも任務を続行する覚悟を決めていた。百人の指揮官になった男は、黒の軽鎧を着て、その時を待つ。


ベルティ辺境伯領に集められていたのは、政治上の犠牲となったり、上官の尻拭いをさせられて、左遷してきた騎士たちだ。最初は、出世街道から外れ、家族に顔を合わせることもできず、このまま辺境で腐っていくものだと思っていた。


しかし、辺境伯領には、カリナがいた。


彼女はまさしく戦女神だった。辺境の小競り合いで援軍もなく、潰されて行くしかなかった時に現れて、指揮を取り、前線を立て直したのだ。


彼女の功績はすべて夫である辺境伯に奪われたが、それでも戦場にいた騎士たちは皆、彼女を崇めた。


彼女の言う通りに鍛錬を積めば、秘技である破閃が使えるようにすらなった。まるで奇跡だと思った。この技を元に帝都で返り咲くことも考えたが、結局は全員が辺境に残ったのだ。終わらない小競り合いに彼女は終止符を打つのだと宣言し、それに付き従った。


その悲願の途中でカリナは死んだ。しかし、死ぬことも計算の内だ。


「――揃っているな」


突如として、男が現れた。白髪で銀の瞳をした大柄な男だ。カリナは死後、彼に従うよう言っていた。


だから、彼が誰であろうと命のある限り従う。


「百七名。全員揃っています」


男は答えた。


「なら配置につけ」


白髪の男はあらかじめ指示を送ってきていた。帝都を襲撃する指示であり、そこには皇帝暗殺が含まれている。


(……カリナ様が皇帝を消すと言うのなら、従うまで)


騎士は全員この国に忠誠を誓ってきた。しかし、この国が先に見捨てたのだ。皇帝に弓を引くことに躊躇いはなかった。


男は合図を出した。辺境伯の精鋭たちが数人に分かれて帝都の広場を囲うように散っていく。


最後に指揮官の男とその班だけが残る。白髪の男がカーテンを僅かに開ける。


何気なく指定されたこの場所からは、広場がよく見えた。急拵えの観覧席がよく見えるのだ。そこに、公開処刑を楽しみにしている皇帝がいるのも――。


「合図とともに矢を放て」


白髪の男が言う。


「合図とは?」


「竜が天に登る」


白髪の男はそう答えて、反対側のカーテンを開けた。半分は建物に隠れているが、空模様を確認することはできる。どういう意味かと聞き返そうとしたが、すでに男は居なくなっていた。


待機していると、東の空が陰り始めた。雨雲はないのに空が暗い。そして、ゴロゴロと地鳴りが発生する。


反対にある広場の様子を窺うと、罪人が運ばれてきたところだった。広場に集まった帝国民たちは、地鳴りを聞いて、不思議そうな顔をしている。


標的は特に気にした風もなく、舞台を見ている。男は弓をつがえた。いつ合図がくるともわからない。


標的の近くには、騎士が多く、三人の皇子たちもその場にいるのが見えた。だが、ここらなら狙える角度だ。仲間たちも弓をつがえて、窓の隙間から狙う。


その間にも何度も何度も大地が重く低く鳴り響く。


流石におかしいと気づいた警備の騎士たちが動き出した。その次の瞬間――。


爆発音のようなものが響き、突風が広場を襲う。


男が振り返ると、反対側の窓から黒く蠢くものが見えた。それは天へと登っている。


「放て――!」


合図だと認識した瞬間、指示を出していた。


弓は一直線に皇帝に向かって行く。しかし、近くにいた騎士に撃ち落とされた。黒い布で目元を隠した騎士だ。


他の矢も彼に撃ち落とされる。


「退却」


男はすぐさまそこを離れるよう指示を出す。他の仲間たちが場所を変え、時間差で皇帝を狙うのだ。


背後で爆発音が鳴り響いた。おそらく白髪の男が何かを仕掛けていたのだろう。民たちの悲鳴があがる。


外に出ると、次の場所に向かう。


行き交う人々は口々に不気味な影を指差して、不安を露わにしており、爆発音に怯えて逃げ惑っていた。その混乱の声の中に狼の遠吠えが混ざった気がした。


次の建物内に侵入すると、驚く住人を押し除けて、上階に上がり、広場へ続く大通りを見渡す。


皇帝の退路だと予想される地点を狙っているが、まだ皇帝は避難を始めていないようだ。そう確認したと同時に大通りの様子がおかしいことに気づく。


いつのまにか、魔物がいたのだ。広場から次々とアンデッドやグールがまろび出てくる。


(……何が起こっている?)


任務の遂行は絶対だ。だが、あまりにも異様な光景に男は息を呑んだ。


必死に広場から逃げてくる人が躓いた人を押す。倒れ込んだ男はあとからやってきた人々に踏みつけられ、やがて動かなくなった。どこかで子供が泣いている声がする。


大通りの両側にあった屋台が押し倒され、果物が道端に転がって、踏み潰された。



――そこはさながら阿鼻叫喚の地獄絵図だった。



踏み潰された男が動き出して、近くの生きている人間に噛みついた。噛みつかれた人間は一気に生気を奪われて、骨と皮だけになる。


そして、それさえも動き出し、また人を襲っていく。


(なぜ魔物が……。あの男は何をしたっ?)


これはカリナの計画のうちなのか。男は問いただしたくなったが、じっとその場で待った。


どこかでまた爆発が起こった。


そして、騎士たちに囲まれた皇帝がようやく姿を見せた。


「放て!」


男は指示を出して、矢を放つ。


矢は皇帝へと吸い込まれるように飛んでいったのだった。






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