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5、遠征の知らせ


十五で婚約して、十八で結婚した。それから三年、旧友たちを思い出す。



リュシアーナは、ルカからもらった手紙を読んでいた。


そのほとんどは、リュシアーナに協力すると言っていて、驚くとともに戸惑う。


疎遠になりかけていた彼女たちが何故そこまでリュシアーナに期待を寄せてくれているのか。

ルカが唆していないか不安だが、素直に嬉しかった。


(わたくしには、味方がこんなにいたのね……)


リュシアーナがいつも思っていたのは、夫のことばかりだった。


もし夫が皇帝になった時には、自分の知識を捧げるつもりでいた。いつか自分の実力を必要とされる時が来ることを願い続けていた。


(夫はわたくしが子を産むこと以外に期待していないのに……)


リュシアーナは、新しい便箋を出して、彼女たちに招待状を書く。一度、彼女たちと会って、話がしたい。


リュシアーナに協力を申し出てくれた彼女たちとは、カヴァニス公爵家で出会った。まだリュシアーナが十代になったばかりの頃だ。


その頃、カヴァニス公爵家では、青薔薇会という名の交流会が開かれていたのだ。リュシアーナだけでなく、カヴァニス公爵が選んだ貴族の令嬢たちがそこに招待されていた。


普通なら、お茶会をして、ただ世間話に興じるだけだったが、青薔薇会は違った。

国外から学者や芸術家、外交官などが招かれていて、リュシアーナはそこで様々な知識と経験を得られたのだ。


貴族の令嬢としては必要ないと言われていたことばかりだが、カヴァニス公爵には、別の意図があるようで、見込みのある令嬢たちが集められていたのだ。


特にリュシアーナは、歴史や政治の分野が好きだった。そこで学んだことをカヴァニス公爵の子どもたちにも教えて欲しいと、公爵家に通う口実まで作ってくれたのだ。


その子どもたちの一人が、ルカである。ルカはリュシアーナのはじめての生徒だった。


リュシアーナの父も寛容で、カヴァニス公爵家に通うことを勧めてくれた。生家のボナート公爵家は継げないが、知っておいて損はないと言ってくれたのだ。


おかげで、エヴァリストが後回しにした執務をこなすことができている。そして、ルカがリュシアーナを皇帝にと言ったのは、貴族女性らしからぬ知識があると知っているからだろう。


リュシアーナは、昔に思いを馳せながら、招待状を書いていた。


しばらくそうしていると、コンコンと、扉がノックされる音が響く。


リュシアーナは手を止めて、ルカからもらった手紙を引き出しに入れてから立ち上がった。


「エヴァリスト様?」


そっと扉を開けると、そこには夫のエヴァリストが立っていた。侍従も侍女もつけずに一人で来たようだ。


「夜遅くにすまないね」


エヴァリストが深夜に訪ねてくることは稀だ。リュシアーナは笑みを浮かべて、エヴァリストを中に通した。


時期はずれの騎士の叙任式があってから、エヴァリストは忙しそうにしている。


侍女を呼ぼうとしたが、その前にエヴァリストがリュシアーナの腰を抱いて、ソファに座った。


「どうしたのですか?」


「少しだけ話をしたいんだ。付き合ってくれないかい?」


「はい、それはもちろん……」


リュシアーナは、何の話かと困惑する。


(二人きりでなんて、愛人についてかしら?)


「ここのところ、遠征の準備をしていたんだ。君を放っておいてすまない」


身構えたが、リュシアーナの予想は外れた。


「そんな、無理はなさらないでください」


リュシアーナは当たり障りなく返した。


だが、遠征は初耳だ。執務室にもそれらしき資料はなかったはずだった。


「どちらに向かわれるのですか?」


「北方の隣国、チェスティ王国の砦に侵攻する予定なんだ。あの国は特に力があるわけではないから、心配しないでほしい」


エヴァリストは安心させるように言った。以前、執務室で見た資料は、別の国の資料だった気がするが、遠征とは関係がなかったようだ。


チェスティ王国は、雪の国と呼ばれ、一年のほとんどが雪に覆われた極寒の国だ。


ファリーナ帝国とは、ここ数年小競り合いを繰り返しており、今は停戦状態だったはずだ。

小競り合いとはいうが、実際は、ファリーナ帝国側が一方的に仕掛けている戦争だ。その上、かの国に侵攻するには、色々と障害がある。


この障害については、エヴァリストも承知しているはずだ。


「遠征は、明後日から二ヶ月ほどを予定している。しばらく留守にしてしまうが、何かあったら、第二騎士のリシャルに言うんだよ。彼はここに残しておくから」


「はい、お気をつけて」


リュシアーナは素直に頷いた。


遠征について色々と聞きたいが、これ以上詳細を聞くと怪しまれるだろう。


エヴァリストの用件もこれだけだったようだ。彼は、親愛を示すように軽く頬にキスをする。


エヴァリストがリュシアーナを大切にしているのは、事実だ。気を遣ってくれているし、こんなふうにわざわざ時間を作ってくれている。


だから、今までは、リュシアーナもエヴァリストに期待していたのだ。だが、今は、上辺だけの親愛に心が冷えていた。


(決意一つで変わっていくものね)


エヴァリストが立ち上がって、部屋を出る。


「おやすみ、リュシー」


「はい、おやすみなさいませ」


リュシアーナは、冷めた心をおくびにもださずに夫を見送った。


そして、リュシアーナは、再び招待状をしたためながら、考え込んだ。


エヴァリストに知られないようにして、情報を集めなければならない。今回の遠征には、なにか裏があるはずだ。


幸いにして、遠征に出るのなら、リュシアーナが動きやすくなる。


エヴァリストは、第二騎士のリシャル・バウスを残していくと言っていた。

白狼騎士団の第二騎士は、実務を担当していることが多い。彼ならば今回の遠征について多くのことを知り得ている。


(第二騎士から情報を引き出せたらいいのだけれど……)


夫不在の絶好の機会を無駄にするわけにはいかない。


最後にリュシアーナは、青い蜜蝋を使って、招待状に封をしたのだった。



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