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45、不可解な請求


十五で婚約して、十八で結婚した。それから四年、夫の名を騙り、訴えかける。



夫のエヴァリストは、白狼騎士団と共に慌ただしくチェスティ王国に立った。後を追うようにして、第三皇子の青剣騎士団も出立したと聞いている。


そして、第二皇子の赤星騎士団は、チェスティ王国ではなく、南方へと向かった。南方でも不穏な動きがあるらしい。


(南方諸国については動きはまだわからないわね。七年前に停戦になった国もあるし……)


リュシアーナは、執務室で記録を見返しながら、考えていた。


「姉上」


リュシアーナは、よく知った声に顔をあげる。すると、そこには、義弟のステファンがいた。


新品の白の騎士服に身を包んだ彼は、新人だからか、少し初々しく見える。


「その制服、とても似合っているわ」


先日、白狼騎士団は、今年正規の騎士になった騎士を数人迎え入れていた。その一人が、ステファン・ボナートだ。


「ありがとうございます」


ステファンがはにかんだ。


新人は、幸か不幸か、チェスティ王国進軍には間に合わなかった。そのため、皇子宮に残った第二騎士のもとで訓練しているようだ。


「騎士団には、慣れたかしら?」


「はい。リシャルさんに仕事も任せてもらえてます」


ずいぶんと親しい呼び方だ。ステファンは、その人懐こさで、第二騎士に取り入ったのだろう。


そして、ステファンは手にしていた書類をリュシアーナに手渡した。騎士団の予算だ。

一国を攻めるのだ。それなりの準備が必要になる。そのため、騎士団の予算で賄えない部分は、領地の収益から出すことになっていた。


リュシアーナは、請求された品目と金額をざっと確認した。


(……思ったよりも少ないわね)


チェスティ王国の攻略は、白狼騎士団だけで行うものではない。今回は、帝国騎士団も青剣騎士団も参加しており、徴収兵も募った。その軍勢は、十万以上だ。


リュシアーナは、書類の中で奇妙な品目を見つける。


「鉱石?」


領地で採れる鉱石の一部を融通してほしいとの記載だ。それもなるべく早く。


要求された鉱石は、ファリーナ帝国であればどこでも採掘できるようなものだ。そして、硬い素材ではあるが、あまり武具には使われない類のものだ。その上、生活必需品でもない。


「ステファン、この後は?」


「作戦室に戻ります。一緒に行きますか?」


「ええ」


リュシアーナは立ち上がった。差し出されたステファンの手をとって、白狼騎士団のもとへと向かう。


執務室からの作戦室までは、温室のそばを通った方が早くつく。だが、ステファンは、日当たりのいい外の道を選んだ。


「姉上は根を詰めすぎではありませんか?」


気分転換させたかったようだ。自然と気遣ってくれる義弟に作り物ではない笑みが溢れる。


「そうかしら?」


無駄に早起きしなくて良くなった分、今は楽に過ごせていると、自分では思っていた。


「そうです。もしかしてあの無作法な平民にこき使われているんじゃないですよね?」


ステファンは少しだけ声を潜めて問う。平民とはルカのことだろう。


「使ってるのはわたくしの方よ」


リュシアーナが首謀者だ。それは譲らない。


「それならいいですが……」


ステファンは腑に落ちない顔をしている。一体、ステファンからは、ルカはどう見えているのだ。


「青剣騎士団の第一騎士とは、同期だったわね。新人の頃はどんな人だったの?」


リュシアーナは声量を元に戻して聞く。


エルダーリッチを討伐し、赤星騎士団を押し退けてデュラハンを討伐した。破竹の勢いの青剣騎士団は、興味の的となっている。誰が話題にしてもおかしくない。


「教官を二人も病院送りにしてましたよ……」


「…………」


リュシアーナは、思い出す。ルカを含め、カヴァニス公爵家の双子は、自分より才能ある者しか先生として認めなかったことを。


表向きは人懐こく愛想が良いのだが、その本性は排他的だ。


(だから、わたくしたちが先生を務めれたとも言えるけれど……。好き嫌いがはっきりしていたわ)


「……他の同期の方は? 一番優秀だったのは、やはりステファンかしら?」


リュシアーナは、ルカのことを聞くのはやめようと思った。


「学問と剣術、素行の全てにおいて優れていたのは、アルト・クローチェです。剣で勝ち越せなかったのが、悔しいです」


帝国騎士団団長の息子で、青剣騎士団の第二騎士の名前があがる。落ち着いた雰囲気のある青年だった。

そして、ステファンの代で唯一、破閃が使える騎士だ。


「他に剣が優れた新人は?」


リュシアーナはふと気になって聞いた。今、破閃が使える騎士の大多数は、エヴァリストよりも歳上ばかりなのだ。


若手は、金翼騎士団の第三騎士リアンと青剣騎士団の第二騎士のみ。


そして、例外的に扱えるのが、リュシアーナだ。青薔薇会の参加者では、他にミレーユとカリナの二人も使える。シュリヤ・フォルカから直接習ったことが原因だろうか。


「二番手は平民でした。最初はあまり剣が得意ではなさそうでしたが、卒業間近にはアルトと並んでいました」


またルカの話に戻ってきた。そういえば、アルト・クローチェとルカは、新人の中でもひと足先に正規の騎士になっていたのだ。優秀ではないはずがない。


「そういえば、その二人は、見習い時に優秀な成績を残したと言っていたわね」


その時には、破閃が使えていたのだろうか。ただ、見習いに支給される剣は、特別製ではない。


破閃は、卓越した剣技と特別製の剣の二つが揃って、使用できるとされている。実際には、卓越した剣技は不要なのだが、特別製の剣は必要だ。


「遠征討伐の演習中に出現した火竜を二人で討伐した功績です。被害が怪我人程度に抑えられたことも評価されました」


「まぁ……」


リュシアーナは、驚いていいのか微妙な反応になった。


火竜は非常に凶暴な魔物だ。ひとたび人里に降りてきてしまったら、専用の討伐部隊が編成される。


そんな魔物を見習い騎士二人で倒したのは、信じられないほどの功績だ。しかし、その内の一人が魔導師なのだと、リュシアーナは知っている。


火竜と魔導師、後者の方が圧倒的に危険性が高い。


ステファンと話しをしていると、作戦室に到着する。中では、数人の騎士が働いていた。


第二騎士のリシャル・バウスが、指示を出している。彼は、すぐにリュシアーナに気づいた。


「妃殿下……」


「先ほど届いた書類についてお話があります。お時間をいただけますか?」


「勿論です」


リシャルはすぐに席を用意して、他の騎士たちを外に出した。ステファンは、二人きりにしない配慮からか、部屋の隅に移動する。


リュシアーナは勧められた席につき、リシャルと向かいあった。


「鉱石の件でしょうか」


リシャルはすぐにリュシアーナが来た理由に思い当たったようだ。


「はい、その件で参りました」


リュシアーナは微笑んで肯定する。


チェスティ王国の侵攻とは無関係なはずの鉱石を大量に用意する意図を知りたい。鉱石の名は、オルトマリア鉱石。日常的に使用される鉱石ではない。


「それは、殿下からの指示になります」


リシャルは、少し固い顔で書簡を差し出した。


さっと流し読むと、確かにエヴァリストの指示だった。それとは別に驚くことにヒル砦を取り返したと書いてある。


(早すぎるわ。先鋒隊だけでヒル砦を取り返したの?)


「今朝届いたものになります。ヒル砦の補修に使われるのかと」


リシャルが言った。


だが、オルトマリア鉱石は、あまり補修向きではない。もしかすると使用できるのかもしれないが、そこまで詳しくは知らなかった。


リシャルの様子からしてもこの書簡の通りに動いているだけのようだ。


(今回は……狡い策を巡らせているわけではないのかしら)


リュシアーナが考えていると、リシャルが口を開く。


「妃殿下、あの一件以降……私は国益を損なうような策には協力しておりません。信じていただけないことは承知の上ですが……」


またエヴァリストが裏で動いているのかと、疑っていたことは、リシャルにはわかったようだ。


「…………そうなのですね」


リュシアーナは、確かにリシャルを信用していない。だから、曖昧に相槌を打つだけだ。


(この騎士になにか心情の変化があったことは確かね)


リシャルの言動がここ最近で変わったことは、リュシアーナも感じていた。盲目に主に従うのではなく、その先に何があるのか、彼なりに得ようとしている。


「鉱石はすぐに確保します。その他のものについても」


リュシアーナは、くすんだ青色の目を見て答えたのだった。



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