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43、デュラハン


十五で婚約して、十八で結婚した。それから四年、新たな事件が起きていた。



――その日は、朝から大騒ぎだった。


何が起きたのかは、リュシアーナの耳にもすぐに届いた。


後宮の門が、血に塗れていたらしい。何者かに大量の血を撒かれたのだ。


後宮は、皇宮の中でも中心に近く、警備も固い。だというのに目撃者は、門番の二人だけ。


そして、最大の問題は、血を撒き散らした犯人が、首のない黒鎧の騎士だったのだ。


(デュラハンの仕業とでもいうの?)


デュラハンは、首のない騎士の魔物だ。不吉の象徴であり、破滅の預言者とも言われている。


リュシアーナは、手元にあった魔物図鑑を開いた。


しかし、説明しかなく、挿絵はない。ただ、首のない人型の魔物との目撃証言だけが記載されていた。


リュシアーナは、不可解な事件だと思う。あまりにも都合が良すぎるのだ。


クラリーサを使って、デュラハンの噂を周辺諸国に広めようとしていたリュシアーナにとって、ここまでの事件を起こしてくれたら手間が省ける。


(そう、都合が良すぎるの。となれば、ルカの仕業かしら)


ルカは、実際に見た人物に変身できる魔法を扱える。今、第二皇子の赤星騎士団と第三皇子の青剣騎士団は、ブラド山岳地帯で目撃されたデュラハンの討伐に向かっていた。


だとすると、ルカはブラド山岳地帯のデュラハンを見て、変身できるようになったのだろう。魔物にまで変身できるとは思っていなかったが……。


そして、ルカは召喚魔法を使えるルベリオの姿を知っている。召喚魔法なら、ブラド山岳地帯と皇宮を一瞬で移動できるのではないだろうか。


(魔物になるだけでなく、他人魔法も使えるのかしら? それなら、ルカが魔導師になれた理由もわかるわね)


ルカは、魔法のほとんどを潜入することにしか使っていない。だから忘れそうになるが、ルカは魔導師だ。

一人で一国を滅ぼせる魔法使いの力は、伊達ではない。実際、ルカは一つの島を沈めた疑惑がある。


リュシアーナは、侍女たちを伴わず、白狼騎士団の作戦室に向かった。


向かう途中、行き交う騎士たちに怪訝な目で見られたが、気にせずにその扉を開く。


中にいた騎士たちは、何かを真剣に討論しており、こちらに気づく様子はない。奥の卓には、エヴァリストが座っており、騎士たちはそれを囲むようにして話している。


「――エヴァリスト様」


男だらけの作戦室に女の声が異様に通る。一斉に騎士たちが振り返った。


「リュ、リュシー?」


エヴァリストが驚いた顔になる。毎回無断で入り込んでいるため、そろそろまた何か言われそうだ。


「青剣騎士団と赤星騎士団は帰還されましたか?」


リュシアーナは、微笑んで尋ねた。


「いや、まだだが……」


エヴァリストはリュシアーナの意図が掴めないようで、困惑している。


「――先ほど伝令がありました。もう間も無く帰還するとのことです。詳しくはわかりませんが、ブラド山岳地帯のデュラハンは、昨日、青剣騎士団が討伐したそうです」


第二騎士のリシャルが後を引き継いで教えてくれた。


(やはり、デュラハンは二体存在していたことになるわ。ルカが変身したのね)


ブラド山岳地帯と帝都は、通常片道で二、三日かかる。


だが、それは険しい山道を迂回するからで、ルカの身体能力なら、一夜で踏破できるのかもしれない。もしくは、第三騎士ルベリオに変身して召喚魔法を使ったか。


「――チェスティ王国のヒル砦に関して、防衛の増強を進言します」


問題は、デュラハンの件が、周辺諸国に知れ渡った後の反応だ。ファリーナ帝国が落ち目だと気づいた国々が、一斉に騒ぎ立てる前に対策を取るべきだ。


「必要な資金は、領地の収益から捻出致しましょう。取り急ぎご検討ください」


言うべきことは言った。どう動くかは、エヴァリスト次第だ。リュシアーナは、踵を返す。


「ま、待ちなさい。リュシー」


「なんでしょうか?」


帰ろうとしたリュシアーナをエヴァリストが引き止める。


「なぜチェスティ王国なのだ?」


一番取り返されやすい場所だからだ。取り返されたら、周辺諸国の勢いに拍車がかかる。


難攻不落のヒル砦は、エルダーリッチに守られていた部分が大きい。しかし、そのエルダーリッチは討伐されてしまった。今のヒル砦は、攻略し難くはない。


リュシアーナは、そう説明するべきか迷った。


周辺諸国が勢いづけば、各国境で紛争が起こり、貴族や騎士が駆り出されるため、リュシアーナたちが動きやすくなる。逆に阻止できれば、国民の疲弊が最小限で済む。


「……デュラハンの伝承のせいでしょうか?」


躊躇いがちにリシャルが口を挟んだ。リュシアーナは頷く。


「あんなものは、ただの噂に過ぎないだろう」


エヴァリストは、伝承を軽く捉えているようだ。


だが、確実に周辺諸国がファリーナ帝国を攻める口実になる。一国が踏み切れば、他国も便乗してくるだろう。


ただ、その一国を阻止できれば、足踏みさせることも可能だ。


しかし、後宮に出現したデュラハンの噂がリュシアーナの耳にもすぐ届き、誰も箝口令をしかなかったところをみると、皇帝もエヴァリストと同じ認識なのだ。


「エヴァリスト様のお考えを尊重いたしますわ」


本音を言えば、国民への影響を最小限にしたい。だが、それは余裕のある者ができる選択だ。初の女帝を目指すリュシアーナは、なりふり構っていられない。


「わかった。だが、まだチェスティ王国に関しては、作戦を立案中だ」


エヴァリストの答えを聞いたリュシアーナは、軽く一礼して、作戦室を出る。エヴァリストの評価を上げる機会だったのだが、本人が捨てるつもりなら、別の手を打つまでだ。


リュシアーナは、足早に執務室に向かう。


執務室につくと、執事と侍従たちが書類の対応に追われていた。


「リュシアーナ様」


執事が一礼して迎えてくれる。


「辺境伯の方々から来た手紙を出してください。最新のものを」


リュシアーナの言葉に執事がすぐに取り掛かった。その様子を見た部下に当たる侍従たちが、不快そうな顔になる。リュシアーナが領主代行とはいえ、女に命令されるのが気に食わないらしい。


だが、リュシアーナは気にしなかった。自分の実力は把握している。そこらの侍従など相手にならない。


実力の差もわからない愚か者は、首を切ればいい。


エヴァリストは、今まで自身の陣営やそれに引き入れたい者にしか返信していない。良くも悪くも現金で情義に縛られないタイプだ。


執事が取り急ぎ集めた手紙を読み進める。返信しようとしたところ、一人の侍従が便箋とペンを用意してくれた。


協力的な侍従もいるようだ。


「ありがとう」


「いえ……何かありましたらお申し付けください」


その侍従は、謙虚に頭を下げた。比較的最近入ってきた侍従だ。領主代行になってから、何人か侍従を増やしていた。


リュシアーナは、辺境に領地を持つ貴族たちに次々と連絡を取ったのだった。


防衛費を回すので、何か動きがあれば教えて欲しいと――。



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