27、アッシュリア
十五で婚約して、十八で結婚した。それから三年、青薔薇会を再開した。
リュシアーナは、積極的にお茶会を開催していた。
以前、青薔薇会に参加していた貴族女性を招待して、彼女たちに協力を仰いだのだ。
表向きには、第一皇子妃が、第一皇子派の勢力を集め出したように見えただろう。とはいえ、女性ばかりなので、問題視されていない。
リュシアーナは、招待して改めてその名簿を見直すと、驚くことに青薔薇会の女性たちのほとんどが、主要な領地を持つ貴族たちの夫人や妾になっていた。
ルカの先生になるほどではなく、ただ教養を高めるために青薔薇会に参加した女性もいるのに、彼女たちは、口裏を合わせたかのようにファリーナ帝国の各地に嫁いでいたのだ。
「なんだか嬉しそうだね?」
知らず知らずのうちに口角が上がっていたらしい。アッシュリアに言われて、リュシアーナは表情を意識する。
アッシュリアは、バーゼン伯爵の令嬢で、他国では名の知れた建築家だ。今は、第三皇子の皇子宮を修繕するために帰国していた。
「アッシュリアは、婚姻について誰かに薦められたことはあるのかしら?」
「父上から頻繁に釣書が送られてくるよ? とはいえ、父上も投げやりだけどね」
アッシュリアは、婚姻適齢期を大幅に逃している。本人には全く結婚する意思がなく、父親に強制される前に他国に逃げた猛者だ。
その上、彼女は常に男装しており、社交界では変人と名高いため、滅多に公の場に出てこない。
そのため、今日は私的にリュシアーナの皇子宮にやってきていた。そして、なぜか茶器を横によけて、図面を広げている。
「他の子たちのことを言っているのかい? それなら、カヴァニス公爵の薦めだろうね」
「……そうなの」
思わぬ人物が出てきて、リュシアーナは面食らった。
(カヴァニス公爵が……? 流石にわたくしのためではないわね)
「次代は内政に目を向けないといけないから、将来力になってくれないか、そんな耳障りの良い言葉を吐いてたね。私は興味なかったから蹴ったけど」
カヴァニス公爵は気づいていたようだ。侵略ばかりの今のファリーナ帝国では駄目だと。
だが、彼は次代に誰を選ぼうとしていたのだろうか。
カヴァニス公爵の子どもは二人いた。兄妹は双子で、エンリケとルドヴィカ、彼らの能力は非常に高く、どちらでも皇帝になれる素養もあった。
双子は常に一緒にいて、容姿も能力も仕草すらも、すべてがそっくりだった。幼いため、男女の判別がききにくかったことから、双子たちは頻繁に入れ替わって遊んでいた。
今思えば、そっくりな見た目は、変身魔法を使っていたからなのだろう。
――エンリケとルドヴィカ、そのどちらかが、今のルカに至る。
リュシアーナは、その答えを確かめる勇気がない。
カヴァニス公爵家が賊に襲われ、壊滅された時、リュシアーナには、手を差し伸べることもできなかった。
カヴァニス公爵家を襲った賊は、今も尚、何者かすら判明していない。
青薔薇会を始め、カヴァニス公爵には恩があるのに一つも報いていないリュシアーナは、当時のことをルカに聞く資格がない。
「ここの隠し通路と違って、第三皇子の皇子宮は、弄りがいがあるねぇ」
考え込んでいたリュシアーナは、呑気なアッシュリアの声に我に返った。
「アッシュリア、なぜ隠し通路のことを知っているの?」
「ん? そりゃあ私が頼んだからさ。さすがに成人した私が皇子宮を無遠慮に歩き回るわけにはいかないだろう?」
アッシュリアは、得意げに笑った。
「……あなたの仕業だったの?」
温室から執務室までの隠し通路は、ルカが見つけてきたものだ。正確には、カヴァニス公爵家の双子が見つけた。
そして、こっそりとリュシアーナに教えてくれたのだ。
「子どもなら探検だって言えばいいからね。……いたたたっ」
リュシアーナは無言でアッシュリアの頬を引っ張った。まさかアッシュリアに頼まれてのことだったとは思わなかった。
「だって気にならないかいっ?」
アッシュリアが頬をさすりながら言った。一つも共感できない。
「ならない」
リュシアーナが冷たい目を向けると、アッシュリアはへらへら笑う。
「いや、さすがに変人と言われる私でも人様の屋敷の探索まではできなくてね」
「変人と言われている自覚があるのなら、男装をやめたらどう?」
リュシアーナは呆れた。それにしても誤魔化し方が、ルカに似ている。いや、ルカが似せたのだろう。
「服装一つで評判は変わるものだよ。この服の方が仕事がよく取れる。他国では女性の顧客も多いからね。それに何より、私らしい!」
アッシュリアは立ち上がって服を見せた。彼女は長身ですらりとしているため、確かに様になっている。
完全に男性の服装なのではなく、胸元や袖からはフリルが覗いていて、女性用に作られていることが見てとれた。
アッシュリアは、スタイルを見せつけるように足を交差させ、手を腰に当てる。
「はいはい、似合っているわ」
よくわからないポーズまでとるものだから、リュシアーナは笑い混じりに褒めた。
「アッシュリアは第三皇子の皇子宮を改修したら、また他国へ戻ってしまうのかしら?」
話題を変えて、リュシアーナは、広げられた図面を見ながら尋ねる。
「いや、しばらくはこの国に滞在するつもりだよ。まだまだ仕事はあるってさ」
「……あなたもなのね」
(いったい、ルカは何を始めるつもりなの?)
リュシアーナは、このまま三人の皇子の後継争いをコントロールしていくつもりだと思っていた。
――そして、適度に疲労させたところを見計らって、信用を盾に弱みに漬け込み、皇位委任状を得る算段だ。
だが、ルカはそれとは別のことを起こそうとしているように感じる。先日、カリナとクラリーサがシクル王国の王女と接触したというのも気になっていた。
(デュラハンの討伐が終わったら、問いただすしかないわね)
リュシアーナは、皇帝になるのだ。ルカにお膳立てされてばかりではいられない。
主導するのは、リュシアーナだ。




