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26、生まれた国で


十五で婚約して、十八で結婚した。それから三年、夫の遠征の成功を祝う夜会で、第二皇子と第三皇子の勝負が始まっていた。


魔物討伐の腕を競うことになった第二皇子と第三皇子は、すぐさま自身の皇子宮に戻っていった。他の貴族たちは、どちらに賭けるかで盛り上がり、危機感はない。


エヴァリストは、第二皇子のいない隙に勢力を伸ばそうと、貴族たちの間を飛び回っている。


邪魔になったリュシアーナは、夫のそばを離れて、夫人たちの集まる席についていた。

その席に集まっているのは、四人。青薔薇会に参加していて、尚且つ、ルカの先生だった四人だ。


「デュラハンか。一度見てみたいな」


魔物討伐の件を聞いたカリナが呟いた。カリナは、辺境伯に嫁いだため、帝都にやってきたのは、数年ぶりだった。


兵法に明るい彼女のことだ。未知の魔物に興味が湧いたのだろう。


「やめときなさいな」


それを止めるのは、クラリーサだ。赤い髪と瞳をした彼女は、パルマ侯爵の第二夫人である。パルマ侯爵は、外交長官を担っており、周辺国の情報が入ってきやすい。


「あなたたちは自分の役割に集中してほしいわ」


シェリルが言った。


「役割?」


リュシアーナは口を挟んだ。今、この近くに青薔薇会以外の者はおらず、またこちらを気にする者もいない。


「あらまぁ……肝心のリュシアーナに伝えてないなんて。あの子もやるわね」


くすくすとクラリーサが笑う。あの子というのは、ルカのことだろう。


またルカは隠れて何をやっているのか。


先日のエステル妃の件といい、ルカは暗躍しすぎではないだろうか。


「手綱は握るべきかと」


カリナが短く進言する。その通りなのだが、リュシアーナはどうもルカに強く出られないでいた。


「今、わたしとカリナでシクル王国に話を持ちかけているの」


声を潜めてクラリーサが、言った。


(シクル王国? なぜその国と?)


シクル王国は、鉱石の国と呼ばれ、帝都から北東に位置する隣国だ。東西に細長い国で、そのほとんどが山地だ。鉱山も多く、多種多様な鉱物が出土し、その加工技術が有名である。


そして、内乱の絶えない国でもある。ファリーナ帝国よりも過激な皇位継承争いの真っ只中なのだ。


ファリーナ帝国に構っている暇はないだろう。


「シクルの第一王女様は、あの子のお友達なのですって」


シクルの第一王女は、確か同母兄である第一王子を支持していたはずだ。いくらルカの友人といえど、他国に拘っている時間があるのだろうか。


「リュシアーナ、国内の支持者はどう集めるつもり?」


カリナに尋ねられ、リュシアーナはシクルの王女のことを一旦脇に置く。


「領主代行の権限を得たわ。父の力も借りて、そのことを広めてもらってるの」


ルカの暗躍はさておき、リュシアーナも次の一手を打っていた。


この国の貴族に課された税は、年々上がっている。収益で賄いきれず、破産して没落する貴族が後を絶たない。没落しなくても領民たちに無理を強いている領地も多い。


それが本意ではない真っ当な貴族をリュシアーナは求めている。彼らの領地経営に助言を与えることにより、心を掴むのだ。


当然、リュシアーナが女だという壁はある。だからこそ、第一皇子の領主代行として認められたことはエヴァリストが思うよりも大きいのだ。

第一皇子がリュシアーナに権限を預けているのなら……そして、ボナート公爵が紹介したのなら、自分も試してみようとなるはずだ。


また、青薔薇会の参加者を通じて、リュシアーナに連絡をとる貴族も増えている。大っぴらにリュシアーナに頼ることはできないため、妻や娘を使って連絡をとってくるのだ。

そうなれば、青薔薇会の女たちの行動にも自由が増え、動きやすくなる。


「それ、うちの父の耳にも入ったわ。そろそろハイエナにも情報が回る頃よ。身辺には気をつけないと」


シェリルが心配そうに言った。


ハイエナというのは、皇帝の周りにいる奸臣たちのことだ。先日のメラーニア伯爵の時のように、いつでも他人の失脚とおこぼれを狙っている。


「大丈夫よ。裏ではお茶会として、表では夫の名前を出しているから」


「それなら……大丈夫なのよね?」


「さあ? 最近は物騒だもの」


シェリルが納得しようとしたところで、クラリーサが不穏なことを言う。


「クラリーサ、何かあるなら言いなさいよ」


「いずれわかるわ。あの子に守られているリュシアーナなら、身辺は万全でしょうし」


(水面下で進んでいることがあるのね)


クラリーサは、話術に秀でている。裏の顔は、天才詐欺師。その教えを受けたルカも自身の魔法と相まって、人を欺くことに特化している。


その二人が今のリュシアーナには不要な情報だと判断したのだろう。であれば、自分の勢力を浸透させることに注力した方がいい。


そうリュシアーナは割り切る。


「カリナはいつまで帝都にいられるの?」


話題を変えて、シェリルがカリナに尋ねた。


「想定外が起きない限りは、年内といったところ」


「あら、長くいるのね。帰る前にうちの商会に寄って行ってちょうだい」


カリナはこくりと頷く。


そして、話題が途切れたところで、リュシアーナは言った。


「――わたくし、青薔薇会を再開したいと思っておりますの」


三人の目が輝く。


「わたくしが主催のため、以前のように著名な方をお呼びすることはできませんが、その分、同じ年頃の方々と交流しましょう」


リュシアーナが微笑むと、三人からも笑みが帰ってきた。言いたいことは伝わったらしい。


お茶会と称して、リュシアーナが皇帝になるための密談を行うのだ。場所は、皇宮でも皇子宮でもいい。


女のお茶会の内容なんて、権力者も騎士も誰も気にしない。だから、堂々と行ってやるのだ。


(わたくしがこそこそ嗅ぎ回るだけでは、大した情報を得られないわ。隠れてばかりでは何も進まない)


誰もリュシアーナの野心に気づいていない。


リュシアーナが、白狼騎士団の作戦室に踏み込んだことも、夫である第一皇子を叱咤するため、もしくは、進言するためだとしか、思われていない。


(……気づいた頃には遅いわ。わたくしがこの国の頂点に立つ)


女は侮られている。それを利用するのだ。


「大胆ね。嫌いじゃないわ」


シェリルが同意する。彼女は、バレージ商会を持っているが、その会頭の名前には男の偽名を使っている。だから、本名で商売できることを夢見ている。


「私も意義はない」


カリナも頷いた。彼女は、策略に秀で、兵卒を率いる器を持つ。騎士団の長として戦場に立つ資格を渇望している。


「情報に関しては任せない。比較的自由なわたしが届けてあげるわぁ」


クラリーサがにやりと不敵に笑ってみせた。彼女は、高い教養と話術で諸外国を相手取り、国を背負って弁舌を振るいたいと願っている。


リュシアーナを含めた四人は、他国で成り上がれる才覚があった。それでも、この国に残り続けた。


――望まれなくても、生まれ育った国に尽くしたかったのだ。




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