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25、祝勝会


十五で婚約して、十八で結婚した。それから三年、夫の遠征の成功を祝い、夜会が開かれていた。


皇宮での夜会は、久方ぶりだ。


リュシアーナは、夫のエヴァリスト共に参加していた。エヴァリストの他には、白狼騎士団の第一から第三騎士も揃っている。

第一騎士は、騎士として参加しているため、夫人であるブリジッタが不参加なのが、残念だ。


今日は遠方にいる旧友たちが多く参加している。リュシアーナは、彼女たちと会えることを楽しみにしていた。


着飾った貴族たちが話す声は、明るく、笑い声が多い。


長年、侵略しあぐねていたチェスティ王国の砦を破ったのだ。第一皇子の功績を讃える声が大きい。


ただそれと同時につい先日起こった側妃のエステルのことを揶揄する者もいる。第二皇子を支持する一派だろう。


そして、もう一つ。第三皇子について、驚く者たちと様子を伺う者たちが声を潜めて話している。


今まで目立つことなく、それどころか、幽霊皇子と言われていた第三皇子ゼノンが、強力な騎士団を手にしていたと貴族たちには知れ渡っている。


「兄上!」


だが、当の本人には、あまり変わりがないようだ。


ゼノンは、エヴァリストを見つけて、小走りで嬉しそうに近寄ってくる。


「走らないでくださいよぉ」


後ろにいたルカから小言が飛ぶ。ルカのそばには、青剣の第二騎士、第三騎士がいた。


「う、うるさいぞ」


ゼノンは、ルカに言い返して歩みを緩める。ルカはそれ以上何も言わずにエヴァリストたちを見て、笑顔を向けた。


人懐こそうな笑みだ。だが、リュシアーナには、わざとらしく感じる。


(この笑みを浮かべる時は、ろくなことをしてない時だわ……)


「……ゼノンにも立派な騎士が仕えてくれたようで、私も嬉しいよ」


エヴァリストは、ルカを見て一瞬、顔を顰めたものの、その隣の第二騎士を見て、奥歯に物が挟まったような言い方になる。


青剣騎士団の第二騎士は、アルト・クローチェ。騎士団長の息子にして、以前、エヴァリストが白狼騎士団に勧誘した者だ。


彼は特に反応を示さず、静かにゼノンの後ろに控えている。


(彼を騎士にすると、兄から不興を買うとまでは考えなかったようね)


やはりゼノンは、皇子というには、幼すぎる。


そして、そんな皇子を支え、謀略を打ち破り、功績を上げさせたのが、ルカだ。


――ゼノンとルカは、同じ歳なのに。


だから少し期待していた部分もある。幽霊皇子と呼ばれるのも時勢を読んで大人しくしていたという可能性を。


(結局のところ、本当に才覚のない皇子だったけれど)


リュシアーナは、外向きの笑みを浮かべて、二人の会話を見守る。


エヴァリストは、苦々しい気持ちもあるようだが、エルダーリッチをけしかけたのが自分の仕業だと、ゼノンに伝わっていないことを確信したのだろう。時折、ルカの様子を伺いながら、会話を続けていた。


ふと、周囲の貴族たちもこちらを注目していることに気づいた。そして、その貴族たちをかき分けて、体格の良い男が現れる。


「エヴァリスト」


「……兄上くらいつけたらどうだ?」


男はエヴァリストを呼び捨てにした。彼は、ラウル。第二皇子だ。短い金髪に青い目をしていて、逞しい顔つきをしている。一番皇帝に似ていると言われていた。


そんな彼の後ろから小柄な影が追いつく。遅れてきた第二皇子妃のシェリルが、深く腰を落として礼をした。彼女とはお茶会以来だ。


リュシアーナも応じるように一礼したが、エヴァリストもラウルも誰も気づいていない。


いつものことだ。


ただ、気づいているルカがにやにや笑っているのがむかつく。


「ら、ラウル兄上……。お久しぶりです」


間に挟まれたゼノンが、弱々しい声を出す。エヴァリストを慕っていてもラウルは苦手なようだ。


「ゼノンか。後にしろ」


ラウルはゼノンを一瞥しただけで無下に扱った。ゼノンがますます小さくなる。


「エヴァリスト、ヒル砦を落としたらしいが、どんな姑息な手をつかったんだ?」


ラウルが直球でエヴァリストを問う。確かに姑息な手だった。


邪魔なエルダーリッチを別の場所に移動させるだけならいいが、わざわざ弟皇子を抹殺するように誘導したのだから。


功績争いをしているだけあって、ラウルはエヴァリストのやり口を熟知しているような口ぶりだ。


「君に教えるとでも?」


「そうか。だが、よくやった。チェスティ王国の王宮までの道は俺が切り開いてやろう」


「私の白狼騎士団で事足りている。不要だ」


「その割にはヒル砦を獲っただけで満足しているようだな。攻める余力がないのだろう?」


「戦略だ。口出ししないでもらおうか」


険悪な様子で二人は言い合っている。


はらはらと様子見するしかない人々とは、対照的にルカがにこにこしているのが見えた。


「第二皇子殿下はお暇なのですか?」


そして、口を挟む。ゼノンがぎょっとして後ろを振り返った。


エヴァリストとラウルの視線もルカに集中する。


「お暇なら、勝負しませんか? ある魔物の目撃情報を掴んだんです」


「ばかっ、何言ってるんだっ」


勝手に喋り出したルカの袖をゼノンが引っ張る。だが、ルカは無視していた。


ラウルは、ルカの顔を見て、少し驚いたような表情になった。


「……その者は、ゼノンの騎士か」


「は、はい、僕の青剣騎士団の第一騎士です」


慌ててゼノンが答えると、ラウルの眉間の皺が深くなる。


「ほう……。我が、赤星騎士団を蹴ってこの出来損ないについたのか」


ラウルから吐き出された言葉にリュシアーナは内心で驚いた。


(ルカは赤星騎士団に勧誘されたことがあるの?)


第二皇子の赤星騎士団は、精鋭揃いだ。破閃が使える騎士が七人も所属しており、剣技に優れた者であれば身分に関係なく迎え入れる。


「お久しぶりですねー」


ルカはへらへら笑って答えた。ゼノンは口をぱくぱくと開け閉めしている。


ラウルは前からルカを知っていたようだ。リュシアーナは、シェリルに視線を送る。シェリルはかすかに首を横に振った。


シェリルも知らなかったらしい。


「ラウル、この第一騎士を知っていたのか?」


エヴァリストが尋ねる。エヴァリストは、策略を見破ったルカの情報が少しでも欲しいのだろう。


「おまえには関係ないことだ」


ラウルは答えなかったが、忌々しそうな声音では、肯定しているようなものだ。


「――それで、やります? 青剣騎士団と赤星騎士団、どちらが先に魔物を討伐できるのか」


ルカが話を戻した。


(ここまででしゃばる平民なんていないわ……)


リュシアーナは呆れた。シェリルも遠い目になっている。


「赤星騎士団に決まっている。いいだろう。エルダーリッチを倒したというおまえの騎士団を試してやる」


何の魔物かも聞かずにラウルは承諾した。ラウルはゼノンを睨みつけており、巻き込まれたゼノンは涙目だ。


「討伐する魔物はなんだ?」


エヴァリストが代わりに聞く。


「場所は、ブラド山岳地帯。その道を通る商人が複数証言しています。霧の中に首のない黒鎧の騎士を見たと」


ルカは勿体ぶって、一拍あけた。全員の視線を浴びて、答える。


「――デュラハン。首無し騎士とも破滅の預言者とも言われる魔物が現れたんです」


リュシアーナもその伝承を知っている。エヴァリストやラウルは、目を見開いて驚いていた。


――デュラハンという魔物は、時折、歴史上に出現する。


そして、デュラハンが出現した領地や国は、もれなく破滅していた。無論、歴史は事実とは限らない。後付けでデュラハンの仕業にしたこともあるだろう。


だが、デュラハンが討伐されたという記録はない。ただ現れると、その地が滅ぶ。それ故に破滅の預言者と言われるのだ。


(ファリーナ帝国にデュラハンが現れた。それが問題よ)


第二皇子と第三皇子のどちらが倒すか、そんな勝負に気を取られて、周りの貴族たちもまだ本当の問題に気づいていない。


(これが広まれば……ファリーナ帝国の立場が危うくなる)


ファリーナ帝国は滅びゆく国だと、周辺国に知れ渡ることになるのだ。


わざとデュラハンの出現を流布したルカにリュシアーナは静かに目を向けた。



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