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16、もう一つの秘技


妹のミレーユがシクル王国の第六王子ミゲルを打ち倒した。そう聞いたリュシアーナは安堵した。


さらには、ミゲルが捕まった後、彼の従者たちを問い詰め、すべての夢魔の絵画を回収することができた。


ミゲルが企んだことは、すべて明るみになった。リュシアーナは、一晩中後始末に追われ、つい先ほど、彼らの所業について、シクル王国に抗議書を送ったところだ。


「災難だったわ……」


同じく後始末に追われていたクラリーサが、大きく伸びをしながら言った。ここには気心が知れた者しかいないため、砕けた口調になる。


「まだ終わってないわよ」


残る問題は、森の国の賓客を含め、騎士や民の昏睡状態が続いていることだ。


他の客人たちは、今日明日にでも帰国していく。見送りが残っているのもあるが、森の国には説明しないといけないだろう。


「「はぁ……」」


リュシアーナとクラリーサが同時にため息をつく。一応、解決の当てがあるのが、不幸中の幸いだ。


「結局、夢魔の絵画とやらは、どこからきたのかしら」


リュシアーナは言った。


シクル王国の者たちに聞き出したところ、ヨエルの魔法が絵画の中の化け物を呼び起こしたという。ミゲルは、それを利用したに過ぎない。


剣術大会を中止するよう脅迫状を送ったのは、ヨエルのせめてもの抵抗だったとわかっている。彼はミゲルに利用され続けていることを薄々悟っていた。


「大昔の魔法使いが残した物だって聞いたのよね? もうこれっきりにしてほしいわ」


疲れた声でクラリーサが言った。


「それは同感よ。だけど、これっきりにはならない気がするわ」


「どういうこと?」


リュシアーナの言葉にクラリーサが聞き返す。


「今まで魔法に振り回されるような事件は起きてなかったでしょう?」


「そうね」


先帝の時代にそんなことが起これば、確実に大きな問題になっていたはずだ。だが、聞いたことはない。


「それって、破閃があったから事件にならなかったのか。それともカヴァニス公爵家がなくなったからなのか。どちらなのかしら?」


リュシアーナはずっと思っていた。


破閃がまだあったとして、この件はすぐに解決できたのだろうかと――。


「不吉なこと言わないでよ。今までカヴァニス公爵家の縄張りだったから手出しされなかったって言うの?」


「わたくしは……見落としていることがあると思うの」


一年前、リュシアーナが皇位を簒奪した混乱に乗じて、ルカはシルキィ王女と先帝を生かした。そのことは、元青薔薇会の先生たちには伝えてある。


――ルカの隠し事はそれだけだろうか。


「あ……」


ふと、クラリーサが声をあげた。そして、彼女は苦い顔つきをリュシアーナに見せる。


「リュシアーナ、公開処刑よ。ベルティ辺境伯とチェスティ国王の公開処刑の日」


そう言われて、リュシアーナも気づいた。


先帝の命が狙われたり、帝都の真ん中に魔物が現れて大損害を出した日だ。その始まりは、竜だった。


ブラド山岳地帯から大きな竜が空に昇っていったのだ。


「まさか、本当に縄張りが……?」


リュシアーナは、クラリーサと顔を見合わせる。


「あんなのがずっとファリーナにいたっていうの?」


ブラド山岳地帯は、ずっとカヴァニス公爵領だった。カヴァニス公爵家だけが知る何かがあったのかもしれない。真偽は確かめようがないし、あまりにも絵空事のようで、リュシアーナは考えることを拒否した。


リュシアーナとクラリーサは、信じたくなくて、二人して頭を振る。気づいたところでどうしようもない。


そんな時、部屋の扉が開いた。


「陛下」


リュシアーナを呼びにきたのは、騎士団長のクローチェ伯爵だ。彼の隣には、今回の剣術大会の優勝者であるアリサがいる。


彼女こそが昏睡状態を解決する鍵だった。


「アリサさん、協力に応じていただきありがとうございます」


リュシアーナが頭を下げると、アリサは決まり悪そうな顔になる。


「報酬がもらえるからやるだけだし、海賊にそんな礼はいらないって」


「では、参りましょうか」


リュシアーナが彼女を連れて向かったのは、昏睡状態の患者たちの部屋だ。今は面会時間ではないため、最低限の人員しかいない。


アリサは患者の前に立つと、持参した湾刀を抜いた。


彼女が力を込めると、刀身が青白く変化する。破閃のような強烈な輝きはなく、どちらかと言えば優しく清らかな光を放っていた。


これは、剣の一族の秘技、清白だ。


破閃の他にも秘技は存在しており、一度ルカが使ったところをリュシアーナは見たことがある。


前に彼女と話をした時、破閃を使用できるかと聞くと、彼女はこう答えたのだ。


『破閃と清白なら使えるけど?』


秘技が複数あること。それを前提にアリサは答えたのだ。


そして、清白という秘技について彼女は話してくれた。


清白は、魔力を洗い流す技だ。魔法を無効化することもできる。特に魔法使いに当てると、一度魔力がすべて洗い流されて、慣れていない者は混乱して動けなくなるそうだ。


青白い光が、部屋にいた患者を包み込む。すると、数秒もしないうちに患者は目を覚ました。


「お目覚めですか?」


リュシアーナがにこりと微笑むと、患者はぎょっとした顔になり、あたりを素早く見回す。


「こ、皇帝陛下っ!?」


患者は、宝物庫の警備にあたっていた騎士だ。長い間眠っていたが、特に不調は見られなさそうだ。


清白が昏睡状態に有効だとわかり、リュシアーナは安堵する。


「では、あとはお任せしますわ」


リュシアーナは、騎士団長に言い置いて、執務室に戻る。


(ようやく、すべての問題が解決できそうだわ……)


戻る途中、窓から朝日が見えた。リュシアーナは少し立ち止まって目を細める。


(変幻魔導師は、どういうつもりでアリサをこの国に向かわせたのかしら。夢魔の絵画をあらかじめ察知していたの?)


アリサは変幻魔導師に出した招待状を手にこのファリーナ帝国にやってきたのだ。だが、招待状を出したのは半年以上前のことだ。そして、夢魔の絵画が発見されたのも半年前。


彼の考えていることがわからない。


だがもしリュシアーナの助けになるようアリサを送り込んでくれたとしたら……それは変幻魔導師がルカだという証拠にならないだろうか。


(頼りない女皇帝を見かねて手を貸した……。そんなところかしら……)


リュシアーナは自嘲して、また歩を進めたのだった。



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