表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/114

14、後夜祭


市井での祭りは昨日の決勝を最後に終了したが、皇宮は今夜、絢爛豪華に飾り付けられ、剣術大会の終幕を祝っていた。


リュシアーナは、久しぶりに青いドレスを着ていた。ファリーナ帝国側は、皆、青系統の正装に身を包んでいる。


他国から招いた賓客たちは、剣術大会が見応えのあるものだったと概ね称賛してくれていた。


「皇帝陛下」


賓客の合間を縫って、リュシアーナを呼んだのは、義弟のステファンだ。彼は少しくたびれた顔をしていた。


「ステファン、どうだった?」


「なんとか、なりました」


ステファンは非常に苦々しい顔で答えた。リュシアーナはその顔に笑って、彼を労う。


「本当にありがとう。もう少しの間お願いね」


「はい……」


ステファンには、ミゲルに対抗するための準備を進めてもらっているのだ。一か八かの策だが、今のリュシアーナにはその策に賭けるしかない。


リュシアーナは、シクル王国の第六王子の求婚に応じる気はさらさらない。当の第六王子は、余裕のある笑みを浮かべて、リュシアーナから視線を外さないでいるが、リュシアーナは徹底的に無視していた。


「リュシアーナ様」


次にリュシアーナは、メルデンに声をかけられた。真珠の国の代表である彼は、心配そうな顔をしていた。


「どうなさいました?」


「どうじゃないだろう。大丈夫なのか?」


小声でメルデンがミゲルを一瞥しながら問う。シクル王国の態度がおかしいことに気づいたようだ。


「……客室を破壊した獣、あれはシクル王国が用意したものなんだろう?」


異様なネズミを直に見たメルデンには誤魔化しようがなく、リュシアーナは苦笑した。


「ええ。ご迷惑をおかけしましたわ」


客人に被害が出てしまったのだ。それに森の国の代表がいまだに昏睡している。ファリーナ帝国側の手落ちを指摘されても仕方がない状況だ。


「謝って欲しいわけじゃないんだ。ただ力を貸したい」


嬉しい申し出だが、これはファリーナ帝国の問題だ。


「あなたは最初からわたくしを買ってくださるわね」


「そりゃあ、まぁ」


やんわりと話を逸らすと、メルデンの歯切れが悪くなる。彼を頼るわけにはいかない。


リュシアーナは、ファリーナ帝国の皇帝なのだから。


「メルデン殿、陛下を口説いているにしては顰めっ面ですね」


その時、ロゼがくすくすと笑いながら、こちらにやってきた。彼は雨の国の宰相だ。平民出身というには、あまりにも優雅な所作で夜会に馴染んでいる。


メルデンの顔がますます苦くなる。ただ話していただけで、リュシアーナを口説いていた訳ではない。誤解されたくないのだろう。


「宰相閣下、わたくしはメルデン様の対象外ですわ」


「……本当に? 陛下ほど美しい女性を口説かないことはありますか?」


ロゼがわざとらしく驚いた顔を見せる。


「男女を見ると邪推するしかないのですか。もう少しましな話題にしてください」


仏頂面でメルデンが答えた。確かに男女の仲を疑ったり、賭け事したりと、賓客たちは節操がない。


(わたくしに皇配がいないのが問題だとはわかっているけれど……)


婚姻に対して、リュシアーナは消極的だ。あまり利を見いだせないでいる。


だが、今後ミゲルのような輩に漬け込まれるくらいならば、相手を見つけた方がいいのかもしれない。


「陛下は青がお似合いですね」


メルデンの苦言を聞き流して、ロゼがリュシアーナのドレスを褒める。


「ありがとうございます。我が国は青で揃えておりますの」


「青がお好きですか?」


「ええ。わたくしの尊敬する方にちなんでおりますわ」


リュシアーナに歴史を教えてくれた今は亡きカヴァニス公爵を思い出して、微笑む。すると、ロゼは懐から小さな箱を取り出した。青色の手のひらに乗るくらいの小さな箱だった。


「なら良かったです。この贈り物を受け取っていただけますか?」


個人的な贈り物を公に受け取ることは、好意を受け取ることだと取られかねない。少し躊躇うリュシアーナを察して、ロゼはメルデンに話しかけた。


「少々お手を拝借しても」


「俺を巻き込まないでくれませんか」


メルデンは苦い顔をしながらもリュシアーナの躊躇に気づき、差し出されたロゼの手を取った。ロゼは小箱をメルデンの上に乗せる。


その瞬間、小箱から青い薔薇が飛び出した。いくつもの薔薇は連なって、天井を覆い尽くす。


「まあ……」


圧巻だった。誰もが幻想的な光景に感嘆の声をあげる。


この光景は、一度だけ見たことがある。先帝を暗殺した日、ルカが謁見室を青薔薇の幻影で埋め尽くしたのだ。


その時は、幻影どころではなかったが、今改めて見ると本当に綺麗だ。


「幻影……ですね」


「はい、幻影が込められた特注魔道具なのです。気に入っていただきましたか?」


特注魔道具ということは、起動に魔力を必要とする道具だ。だから、魔法使いであるメルデンの手を借りたのだろう。


「それと、この幻影は強い魔法使いの目を眩ませます。強い魔法使いは、見えない魔力をも可視化しているので」


ロゼはぱちりと片目を瞑ってみせた。


これは、ただの贈り物ではない。ロゼの助け舟だ。ミゲルの監視を撒くことができる。


「素敵な贈り物ですわ。メルデン様、申し訳ありませんが、もう少しそのままで」


「……は?」


驚くメルデンを置き去りにリュシアーナは、側近たちに合図を送る。そして、リュシアーナは会場から離脱したのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ