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11、最低な求婚


剣術大会の決勝が行われる今日、リュシアーナは、シクル王国の客人と、昼食を共にしていた。


かちゃかちゃとカトラリーを使う音だけが響く。


第六王子ミゲルは、口に合わなかったのか、大半を残した状態で手を止めた。


「……お口に合いませんでしたか?」


問いかけたのは、クラリーサだ。リュシアーナのそばには、側近たちがいる。


ミゲルの近くには、復元魔法を使うヨエルと思われる男が、おどおどした様子で席に座っていた。勿論、食事が喉を通るわけもなく、彼は終始緊張している。


「食が細いのですよ。僕ほどとなれば」


ミゲルが微笑む。その笑みには、どこか見下したような雰囲気がある。


「強い魔法使いほど、人間離れするとお聞きしましたわ」


リュシアーナが口を挟む。おそらくミゲルは、魔導師に匹敵する魔法使いだ。


ルカも……カヴァニス公爵家の双子たちは、食に興味がなかった。魔力が高いほど食事を必要としないのだと、リュシアーナは予想していた。


「勿論です。シクル王国の王族は、代々魔法使いの血筋を取り込んできました。中でも姉上は、王国史上最強の魔法使いと名高かったのです」


リュシアーナは、やはりそうかと確信する。クラリーサにも目線を送ると、彼女は小さく頷いた。


――シクル王国の最強の魔法使いが、毒如きで死ぬわけがない。


ミゲルは、一貫して、姉である第一王女のシルキィを差し出せと迫っていた。


「それほどお強い方とは知らず……。先帝の無礼をお詫びいたします」


「謝罪など意味はありませんよ」


クラリーサが言うと、わずかにミゲルが苛ついた。


「結果的にわたくしは、第一王女様に助けられた形になりました。本当に感謝していますわ」


ミゲルの髪が揺れた。


リュシアーナが暗殺を堂々と認めたのだ。先帝を暗殺して、その玉座についたなんて、事実だとしても褒められたことではない。


「感謝? その割には無下な扱いをしているそうですが」


ミゲルの顔から笑みが消えた。


「第一王女様は、祖国にお返ししましたが……なにか不手際がありましたか?」


遺体は慰労金と共に送り返した。そう告げると、ミゲルの髪先がゆらゆらと動くのがわかった。


(おそらく、ミゲルは、第一王女がファリーナ帝国に囚われていると思っているのね。治癒魔法の使い手となれば、誰だって喉から手が出るほど欲しいもの)


第一王女がファリーナ帝国に囚われている。ミゲルは、そう思い込んでいる。だが、それには矛盾がある。


――本当に強い魔法使いなら、囚われることなどないだろう。


「……第一王女様も祖国に戻り、ほっとしているのではないでしょうか。王女様にとって、ファリーナ帝国など、一秒たりとも留まっていたくない場所でしょうから」


リュシアーナが暗に第一王女はいないと告げると、ミゲルが一瞬、虚をつかれた顔になった。


「はっ!」


ミゲルが大きな声を出して、ヨエルがびくりと震える。


「――いい加減、まどろっこしい言い方はやめましょうか」


緩やかに編まれていた髪が、解けていく。それを見たヨエルが頭を抱えて、ぶるぶると震えた。


「姉上が帰って来ないのは、お前たちが卑怯な手で引き留めているからだろう!」


やはりそれが本音か。


白い髪がうねり、毛先が針のように鋭く変化している。リュシアーナはそれを見ても表情一つ変えなかった。


「破閃を失った我々にそのようなことができると?」


「少々、思い込みが過ぎるのではないでしょうか?」


クラリーサもまたリュシアーナに追随する。二人してにこりと微笑めば、ミゲルの眉が顰められた。


「我々を過大評価していただけたのでしょうか。それとも姉君を過小評価したのでしょうか。……今一度問いましょう。第一王女様が我が国に留まる理由はないのでは?」


リュシアーナがさらに言えば、ミゲルが明らかに動揺した。おそらく彼が魔法を誇示して尚、怯まない者はいなかったのだろう。


(力は強くても、交渉事は年相応かしら)


ミゲルはぐっと歯噛みした後、髪を元の状態に戻す。そして、思い出したかのように笑む。まだ優位にいるようだ。


「僕の方こそ、姉上の死を偽装してまでここに留めている理由が知りたいですね」


「偽装? 王子殿下、そもそも生存している証拠はありますか?」


リュシアーナは咄嗟に何を言い出すのかと、眉を顰める。


(本当に死が偽装されてる手前、わざとらしい演技しかできないわ……)


「姉上を誑かした男がいるはずです。皆してその男の言う通りに動いているのでしょう?」


頬が引き攣りかけた。誰も彼もがルカに手玉に取られているかのような言い草だ。


一瞬、言葉に詰まったリュシアーナとクラリーサを見て、ミゲルは笑みを深めた。


「ああ……。姉上が留まる理由はその男ですか。馬鹿な姉上です。一途に尽くすその男には他にも女がいるみたいですし」


その目は、冷たくリュシアーナたちを蔑んでいる。そして、その言葉の端々には、姉のシルキィへの蔑みも滲んでいた。


「王子殿下は、姉君を大切になさっているように見えましたが、思い違いのようですね。結局のところ、後継者争いに姉君を利用したいから連れ戻したいのでは?」


「あなた方に姉上と僕の関係は理解できないでしょうし、もういいです。そこまで隠し通すつもりなら、取引しましょう」


ミゲルは、嘲笑まじりに笑って、続ける。


「――僕をあなたの夫にしてください。姉上は僕が探して、説得します」


思わぬ提案にリュシアーナは驚いた。だが、同時にファリーナ帝国で好き勝手できる名分が欲しいだけだと、すぐに気づく。


「お断りします。地位と権利のみを求める者を認めるわけがありませんわ」


リュシアーナは即座に断った。


「悪い提案ではないでしょう。僕なら、強い魔法使いもいない、破閃もないこの国で抑止力となれる」


悪びれる様子もなく、ミゲルは平然と言った。


魔法使いを使ってファリーナ帝国に害をなしてきたのは、ミゲルだと言うのに。


「さっきの断りは聞かなかったことにします。もし断ればどうなるか、わかりますよね?」


リュシアーナは無意識に拳を握りしめた。なんて堂々とした脅しだろうか。


どれだけファリーナ帝国を建て直しても、破閃を失った代償は大きい。


「明日の夜会で公表してください。それを回答とみなします」


身勝手にもミゲルはそう言うと、席を立った。


今日の剣術大会で優勝者が決まった後、一日おいて、その優勝者や他国からの賓客を招いて大規模な夜会を行う予定だったのだ。


ミゲルはその夜会で、リュシアーナの皇配を発表しろと言っている。後見人に泣きつく暇も与えず、公式に発表させて、覆せないようにするつもりだ。


「リュシアーナ」


クラリーサが囁くようにして呼びかける。


「……大丈夫。好きにさせないわ」


リュシアーナは、頷き返した。


そして、リュシアーナは、ミゲルに遅れて、剣術大会の会場へと向かったのだった。



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