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7、銀の魔法使い



ファリーナ帝国から遠く離れた魔法使いの国で、茶髪に紫の瞳をした青年が、そばにあるゆりかごを揺らす。


「むかしむかし、あるところに銀の魔法使いがいた。その魔法使いは、無から有を作り出す錬成魔法が使えたんだ。水も食料も武器も、黄金でさえ、魔法一つで作り出せた」


ゆりかごの中いるのは、生まれて間もない赤子だ。その子に向かって、青年は、子守唄代わりに昔話を聞かせていた。


「ある日、銀の魔法使いは、天使のような少女に一目惚れした。魔法で何人もの少女を作り出したけれど、一つとして生きてはいなかった。肉体は作れても、人間は作れなかったのさ」


赤子は、紫の瞳を青年に向けている。


「だから、少女を作ることを諦めて、捕まえようと幾つもの魔物を生み出したんだ。生み出して、生み出して……銀の魔法使いが死んだ後もその魔物はまだ残り続けている」


青年は、穏やかに微笑みながら、話を続けた。


「その魔物は、絵画の中に閉じ込められて、今も天使のような少女を探しているんだってさ。でも、怖くないぞ。その絵画たちは、俺たちの気配に怯えて出てこな……」


だが、話している途中で、赤子がむずがりだす。青年は、すぐにかごの中から抱き上げてあやした。


抱き上げられると、赤子は途端に寝始める。ゆっくりと体を揺らしながら、青年は最後にぽつりと呟いた。


「……そういや、あの絵画ってどうしたんだっけ?」




――――――

――ファリーナ帝国、剣術大会の本戦二日目。


大会の合間にリュシアーナは、真珠の国の代表であるメルデンを昼食に誘っていた。互いに側近だけが同席している。


「魔法使いと一言に言っても様々なんだ」


そして、リュシアーナは、メルデンに頼んで魔法使いについて教えてもらうことにしたのだ。


「割合で言うと、白髪だが魔法すら使えない奴と俺みたいなおまじない程度の魔法を使う奴が大半だ。それ以上の強力な魔法使いというのは、極一部なんだ。その極一部は、魔法使いの国が取り込んでる」


極一部。それが魔導師と呼ばれる特権階級なのだろう。同席しているクラリーサから聞いた話と一致する。本当に強い魔法使いというのは、稀少なのだろう。


「そして、さらに上、世界に数人しかいないが、瞳の色に銀色が混ざる魔法使いは、想像もできない力を持っていて、次元が違う」


この情報は知らなかった。わずかにクラリーサの手が止まる。


「魔法使いの国の国主は?」


国主は、銀の瞳をしていた。そして、変幻魔導師は、銀が混じる紫色。


「あれが魔法使いの頂点。一人で五つの国を滅ぼした絶対強者だ。リュシアーナ様の後見人になったことが信じられないくらいのな」


「……わたくしもそれは同感よ。どう考えても釣り合わないわ」


リュシアーナはため息をついた。ルカが何を取引に使ったのか。ルカが死んだ今、すべては闇に葬られた。


「基本的に力のある魔法使いのほとんどは、魔法使いの国にいると考えていいのかしら?」


「ああ、そうだな。魔法があれば、魔導師のもとで働ける。魔導師も傭兵だけじゃない。医療や製造など幅広い分野で活用されるし、かなり稼げる」


リュシアーナは、思案した。


クラリーサが目星をつけた復元魔法の使い手は、ずっと森の国に住んでいたことから、それほど強力な魔法使いではないのだろう。


おそらくメルデンと同じくらいの強さ……多少、絵の修復に使える程度の魔法だと、推測される。


だが、宝物庫で見つけた黒いトカゲの異形は、警備の騎士や管理人を昏倒させるほど強い魔力を放つことができたのだ。


「……あなたは、魔力で人を昏倒させたりは、できるのかしら?」


「無理。それこそ魔導師じゃないとできない芸当だ」


考え込むリュシアーナにメルデンが、勘づく。


「後宮の部屋を荒らしたのは、魔法使いの仕業だったのか?」


被害を受けて、こんな質問までしたのだ。隠していても仕方がないだろう。


「……ええ。今はその線が一番有力なの」


「おかしいな。リュシアーナ様の後見人は各国に知れ渡ってる。それでもファリーナ帝国に手を出すのは、よっぽどだぞ」


確かにそうだ。銀色の目が一握りの強力な魔法使いだと知っているのなら、報復を恐れるはずだ。


「それでも他国が裏で糸を引いているのなら、なにか秘策があるのかしら?」


「いや、あの国主に秘策なんて通じない。国主がひとたび魔法を振るえば、辺り一面焼け野原だ」


それでもリュシアーナは、友好的ではない周辺諸国の王族や有力貴族を調べてみるかと考える。リュシアーナのように魔法使いに対する認識が甘いのかもしれない。


そうして、互いに情報交換しながら、昼食会は無事に終了する。


メルデンたちが退出し、一息ついたところで、クラリーサの部下が彼女に少し慌てた様子で駆け寄ってきた。


「……陛下」


部下の報告を聞いて、クラリーサはすぐにリュシアーナを呼ぶ。


「鉱石の国、シクル王国の第六王子が、大会の賓客として、到着したようです」


「そう。出迎えましょう」


一体何のつもりだろうか。


ファリーナ帝国の国境で、兵力を準備する様子を見せながら、一方で王子が単身で乗り込んでくる。有事の際に人質にしてくれと言わんばかりの自殺行為だ。


「……それと、一つお耳に入れたいことが」


クラリーサが珍しく言い淀んだ。


「どうしたの?」


クラリーサは、リュシアーナの耳元でそっと囁いた。


「シクル王国の第一王女は……銀の混じる薄赤の瞳をしていたの」


リュシアーナは、驚いてクラリーサを見つめた。


シクル王国の第一王女は、シルキィ・フォード・シクル。先帝の暗殺の実行者にして、治癒魔法を使う魔法使いだ。


メルデンは言った。銀が混じる魔法使いは、次元が違うと。


そんな次元の違う魔法使いが、ただ愚かなだけの普通の人間である先帝を殺すためだけに命を賭けるだろうか……。



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