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6、黒いトカゲ


本戦が進み始めたところで、リュシアーナはクラリーサから報告を受けていた。


「陛下、挑戦状の件についてわかってきました」


「どうだったの?」


「アッシュリアの顧客の情報から、主犯と思われる魔法使いを見つけました。復元魔法を使う魔法使いとのことです」


ファリーナ帝国は、魔力を切る破閃のおかげで、今まで魔法に疎くても問題なかった。だが、破閃がない今、魔法に対して後手に回っている。


「復元魔法?」


「はい、絵画を専門に修復する魔法を使うそうです。ですが、例の荒野の国に纏わる絵の修復依頼を受けてから様子がおかしくなっています」


クラリーサが説明しながら、報告書類を執務机の上に広げる。


復元魔法の使い手の名は、ヨエル。三十過ぎの男で、森の国の出身だ。彼の経歴を見ると、魔法を活かし、絵の修復作業を生業としていて、歳の離れた妹と二人暮らしだそうだ。


だが、半年前に荒野の国の絵についての修復を請け負ってから、国を出ており、そこから足取りは途絶えている。


そして、その修復の依頼を出したのは、鉱石の国に住む豪商だ。


「依頼主は、荒野の国の絵画を集めるのが趣味で、各国から絵画を取り寄せているようです。そして、肝心の魔法使いに依頼した絵画ですが……」


クラリーサが、一枚の紙を一番上に置く。


「出土した場所は、ファリーナ帝国ブラド山岳でした」


豪商の記憶を頼りに模写された絵画は、不気味だった。額の内は、黒一色に染まっていて、右下に赤い目玉のようなものが描かれている。


「……もともとこの国にあった絵画だというの?」


「そのようです」


リュシアーナは、絵画を手に入れた経緯が記載された書類を読み込む。


ブラド山岳地帯の近くにある宿の倉庫に眠っていた絵画が売りに出され、複数の商人を経て鉱石の国の豪商に渡り、豪商が魔法使いに復元を依頼したのだ。


その絵画が売りに出された時期は、約一年前。


「この売り出し元である宿に確認しましたが、いつからあったか不明ですが、特におかしなところはない普通の絵だと」


「絵画に何か仕掛けがあるわけではないのね」


「そのようです」


クラリーサは、徹底的に絵画の出元を洗っていた。この短期間でここまでの情報を揃える彼女はさすがだ。


「なら、魔法使いを探し出しましょう」


絵画に問題がないとすれば、仕掛けを施したのは、魔法使いになる。いまだに部屋を荒らした獣かなにかは、見つかっていない。隠れているのか、逃げてしまったのかもわからないままだ。


そこでふとリュシアーナは、鉱石の国が気になった。今、鉱石の国は、国境に兵力を集めているとの情報が入っている。しかも、ファリーナ帝国と森の国の二つの戦線を準備しているのだ。


(歌劇魔導師が牽制しているはずだけれど……)


リュシアーナに疑問が過ぎる。


「歌劇魔導師は、意図的にファリーナ帝国の帝都から移動させられたのかしら?」


復元魔法の魔法使いによる脅迫と破壊活動を行うためには、強力な魔法使いである魔導師の存在が邪魔だったということはないだろうか。


「そもそも鉱石の国が仕掛けてきたことだと? その線でも調べてみます」


クラリーサが頷いた。


ただ鉱石の国は、後継者争いの真っ最中ではあるが、ヨエルという魔法使いは、森の国の平民だ。争いに参加する理由もなく、また、後継者争いの矛先が、ファリーナ帝国に向く理由もわからない。


――どうも筋が通っていないように感じる。まだ情報が出揃っていないのだろう。


疑問は残るものの、クラリーサは、さらに調査すべく踵を返す。


クラリーサの報告は思ったよりも短く、ようやく空いた時間ができたリュシアーナは、気になっていたことを調べに執務室を出た。


部下に指示しても良かったのだが、自分で足を運びたかったのだ。


――リュシアーナの向かう先は、宝物庫だ。


アリサの持っていた湾刀だが、女性と湾刀の二つが揃ったことで、類似点の多い絵が宝物庫あることを思い出したのだ。


その絵画は、カヴァニス公爵家に纏わる絵だ。以前、宝剣の騒ぎがあり、宝物庫を訪れた際に一度見ている。そこには、カヴァニス公爵家の初代とその姉が描かれていたはずだ。


宝物庫に向かっていると、一人の青年が慌てた様子でリュシアーナを追い越して行った。青年には、見覚えがある。元白狼騎士団の第三騎士、ルベリオ・シャンナ子爵だ。


「シャンナ卿」


リュシアーナが呼びかけると、ルベリオははっと振り返り、すぐに膝をついた。


「陛下っ!? すみません、急いでいたので、気づかず……」


魔法使いでもある彼には、今回、皇宮内の警備をしてもらっている。


「構いません。どうしました?」


「皇宮内を駆け巡る微弱な魔力を感知しました。それがこの先に……」


この先にあるのは、宝物庫くらいのものだ。リュシアーナは、足を早めた。


「行きましょう」


「陛下、危険ではっ?」


ルベリオは困惑しているようだ。だが、リュシアーナは、近くにいる警備の騎士たちに声をかけて、すぐに宝物庫に向かう。


「シャンナ卿、微弱な魔力というのは?」


「後宮を荒らした絵画から感じた魔力と同じものがこの先に。私の魔力感知は、精度が低く、確信はないのですが……」


ルベリオは、自信なさそうに言い淀む。まだまだ魔法使いの運用については問題があるようだ。リュシアーナがそもそも魔法使いの能力を把握しきれていない。


宝物庫に着いてすぐに異変に気づいた。宝物庫周辺の警備をしていた騎士たちが倒れていたのだ。


「応援を」


リュシアーナはただごとではないと判断して、連れてきた騎士の一人に命じた。倒れていた騎士たちは、気を失っているが、特に外傷はなさそうで、安心する。


数人の騎士が増援に来た時点で、リュシアーナは宝物庫に踏み入った。


扉を開けると、宝物庫のあちこちで物が散乱している。荒らされた部屋と同じような有様だ。いくつかの陶器が割れて、床に飛び散り、壁には引っ掻いたような傷跡が残っている。


(皇宮内をこれほど荒らされるなんて)


リュシアーナは顔を顰めたいのを堪えた。


「あそこです!」


その時、ルベリオが叫んだ。彼の指差す方を見ると、ある絵画に黒い何かが張り付いていた。


その黒の何かは、大きなトカゲのような姿をしていた。


騎士たちが素早くその謎のトカゲを取り囲む。そのままじりじりと包囲網を狭めていく。


トカゲは、気づいているのか、いないのか、微動だにしない。


「絵画に構わず、処分してください」


リュシアーナがそう指示を出した時だった。


――ギョロリと、トカゲの赤い目がリュシアーナを見つめた。背中に赤い目が突如として現れたのだ。


「……オマエ、チガウ……」


そして、トカゲははっきりと人の言葉を喋った。魔物とは明らかに違う。騎士たちの気が一気に張り詰める。


「テンシ、サマ……ドコ……?」


またもやトカゲが話す。


(天使……? 何を言ってるの?)


異様なトカゲに肌が粟立つ。


「始末してください」


このトカゲがなんであれ、これ以上、皇宮に野放しにしてしまうことだけは避けたかった。


リュシアーナの指示に騎士の一人が動いた。素早い突きで、トカゲを串刺しにする。トカゲは、少しの間じたばたともがいたが、やがて動かなくなった。

同時にその体が溶け出して、黒いシミとなる。


「……魔力が消えました」


ルベリオがそう言って、完全にトカゲが沈黙したことを理解する。


リュシアーナは、一息ついて、騎士たちに被害の影響を調査するよう指示を出そうとした。


(よりによって……)


ふとトカゲが張り付いていた絵画を見て、気づく。リュシアーナが探していた絵画なのだ。


カヴァニス公爵夫妻とその五人の姉たちが描かれた絵画だ。しかし、その絵画は、まだらに黒いシミで染まっていた。姉たちの一人が、湾刀を所持していることは、かろうじてわかる程度になっている。


「被害の把握を急いでください」


リュシアーナは、改めて騎士たちに指示を出して、絵画の前に立った。


黒いシミに染まった絵画だが、ある一点だけは一切染まっていない。カヴァニス公爵の顔は真っ黒に染まっているが、その腕に抱かれる夫人は、綺麗なままなのだ。


(初代カヴァニス公爵夫人は、初代皇帝の妹……シエラ・カヴァニス)


ふわふわとした白髪に皇族特有の青の瞳を持つ夫人は、非常に小柄だ。そして、彼女の美貌は、天使のように慈愛に満ちていた。




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