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霊能物語  作者: Parsy.Store
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感情と学校

「おはよー!瑠衣ちゃん起きろー!」

2日目の朝、私は天使の声で目を覚ました。もちろん、騙りとかいう霊能でつくられた偽物だが、美少女が起こしに来るというシチュが好きな方には、最高だろう。

「何を考えてるのかな?瑠衣ちゃん。」

「同じ布団に入られると困るのですが。」

 いくら霊能と言えど、性別は変えられないし、種も変えられない。語りの怖いところは、魅了する際に、性嗜好が違っていてもいいと思えるほどの見た目と行動をとるというところだ。

「そう言うなら、早く出ようよ。今日は学校だよ?」

「?」

「だーかーら、学校。早く行こ。」

そう言うと、空音ちゃんは布団から出て、ベッドの横に立った。その服装は、昨日の戦闘服ではなく、ブレザーの制服だった。

「かわいいでしょ?」

「まぁ、霊能が霊能なので。」

「そうじゃない。」

空音ちゃんは、何を着ても可愛いと思う。

「瑠衣ちゃんのもあるよ。まだ届いてないから、白ちゃんの借りるんだけど、壊さないでね。経費で買ったものだから。」

確かに、白さんと私は同じくらいの背格好だから借りれるだろうけど、壊さないでと言われると、借りにくい。

「さ、早く行こ。ちなみにあと30分で遅刻だから。」

ギリギリだった。


 私が通う高校は、第34支部から徒歩40分の距離にあるそうだ。つまり、起きた時点で遅刻確定なわけで、いっそ休もうかとすら思うわけだが、これは普通の人に限った話である。

「遅刻遅刻〜!」

私は、空音ちゃんと一緒に少女漫画のようなことを言いながら、世界記録で走っていた。たった数分遅刻するだけで、人の印象は大きく変わるらしい。心臓が高鳴り、心が間に合えと言っている。言うまでもなく、楽しい。学校に行くのが楽しいと言うと変に思われるかもしれないが、個人的にすごく楽しい。世界が、輝いて見える。

「瑠衣ちゃん!今回の任務を教えるね!」

「え?」

これは報酬では?

「なわけないでしょ!経費で落とすために必死で頭使ったんだから。」

なるほど、つまりは高校の方でも怪異絡みのトラブルがあると?――嫌すぎる。

「そゆこと。特に、この高校はとんでもないよ。本部並みの戦力が必要だからね。」

「空音ちゃん1人で十分かと思うけど。」

「いやいや、そこをちょっと、ほんのちょっと村田さんと歪めてね。瑠衣ちゃんメインの任務にしたんだよ。上の説得が大変だったんだから。」

「めっちゃ圧かけてない?」

「ちょっと村田さんと一緒に上脅しただけだよ。」

職権乱用だ。

「で、今回の任務って?」

「……飲み込みが早いね。」

「慣れてるから。」

所長のせいで、こういうのには慣れている。――本当に、素晴らしい教育者だ。

「今回の任務は、封鬼(ほうき)高校で起きてる、生徒及び職員の霊体化の解決。」

これまた専門外だ。なぜこの人はこうも専門外の案件ばかり持ってくるのだろう。そういう性格なのか。

「いや、たぶん瑠衣ちゃんの専門分野だよ。」

「?」

「見たらわかるよ」


 学校には、小学校1年生のときにトラブルを起こして以来、一度も登校したことがない。勉強は研究所で教員免許を持っている職員が教えてくれたし、私にとっても、周囲にとっても、国にとっても、私はあの研究所で怪異を処理しながら生活している方が、よっぽど利益があった。故に、学校に行きたいと思うようになったのは、ごく最近の話だ。

 原因は、定期検診で所内の病院で検診を受けたときのことだった。たまたま、病院の本棚に入っていた少女漫画を手にとって読んだ。今まで、漫画を手塚治虫くらいしか読んだことがなかった私には、とても新鮮なタッチに、描写、セリフ、そして内容に、私の中の何かが刺激された。学園もの、と教えてもらったその漫画の型に、私はのめり込んだ。1巻しか病院には置いてなかったから、私は給料を使って全巻買い揃えた。そこに描写される学校は、とても輝いて見えた。私の記憶の中にある学校とは大違いの、あってないようなその世界に、私は恋い焦がれた。

 そういう意味では空音ちゃんからの依頼は、――結果、私は曲がりなりにも青春を手に入れられるかもしれないのだから――神からのプレゼントとも捉えられる。

「つまり、私は瑠衣ちゃんの青春の神様ってことね。」

「心を読まないでください。」

「読んでない、聞いてるんだよ。」

「どっちでも一緒でしょ。」

だよね?


 封鬼高校についたとき、私が初めに思ったのは、研究所に似ている、だった。そこかしこから霊力の片鱗のようなものが溢れ、上空で渦を巻いている。道中のパーキングエリアに似た、異常な状態なのかもしれない。このままでは、あと十年立たずで、あの小山と同じ、閉鎖状態になる。研究所は、私と所長で霊力がこもらないように循環させているから安全値に抑えているけど、ここではそんなことをする人はいないのだろうか。

「いや、普通はいないよ?そんな人。研究所の設備と人員は特殊なの。本当は、そういう霊具があって、それが自然発生する霊力を50年単位で散らしてくれるんだけど、ここのは、火力が足りなかったのか、それとも、それコミでの霊能が放たれたのか。うまく機能してないみたいなんだよね。」

そう言いながら、空音ちゃんはチラリと、私の方を見てきた。おそらく、今のは政治的情報の入った、建前なのだろう。視線に、わかるよね、というメッセージが込められている気がする。

「……なるほどね、だから私に。」

「そ。」

たぶん、34支部のメンバーに子供が多いのは、こういうトラブルが多いからだろう。職員になるのは面倒な上に自由に動けないけど、生徒ならある程度の自由を保証されている。それで、貴重な子供人材を多く配置しているのだろう。

「と、言うわけで、今日から同じクラスね。」

窓の外を見て、ラブコメの主人公が如く物思いにふけっていた私に、空音ちゃんが言った。ちなみに、白さんも、陸奥守さんも同じクラスだ。

圧力かけすぎでしょ。どういう神経してたらこういうことできるの?

「どういうわけなの?」

白さんのナイスツッコミだ。

「どういうわけって?」

「瑠衣さんがここに来ることは知ってたけど、これは聞いてない。」

「まぐれもあるよね〜。」

あってたまるか。おかげで、クラスメイトが私達を遠巻きにしているじゃないか。これでは友だちができない。

「ちょっと、瑠衣ちゃん。どこに行くの?」

「少し、トイレに。」

私は、席を立ち、外に出る。休み時間だから、教室から出るのは自由なはずだ。

「本当に、これは聞いてない。」

そんなに嫌か、私と同じクラスが。


 そんなこんなで、放課後。私は勉強に関しては研究者が高校卒業レベルまで懇切丁寧にあ教えてくれているから、全く問題なかった。しかし、人間関係はそうもいかない。私の話は面白くないのか、それとも魅力がないのか、生徒たちが私に話しかけてくることはなかった。悲しいことに、初登校で私が関わった生徒は、空音ちゃんと白さんだけだった。

「で、どういうことなのかしら?空音ちゃん。瑠衣ちゃんがこうなってるのは。」

「ん〜?何の話?」

私の机の周りには。空音ちゃんと白さん、そして陸奥守さんが集まっていた。私達以外に、この教室に人はいなかったが、空音ちゃんは「念のため」と言って、霊能でノイズの結界を張った。

「とぼけないでよ、瑠衣ちゃんの感情器官、いじったでしょ。」

「あらら、バレちゃったか。」

「まじ?」

「まじまじ。」

陸奥守さんも、驚いたように空音ちゃんに確認した。

「禁忌でしょ、内部干渉は。なにいじってるの。」

「仕方ないでしょ、瑠衣ちゃんをここにつれてくる理由の一つ何だから。それに、これに関しては上も認めてる。例外としてね。」

「そんな例外、いりません。石谷家も、結局は透石家ってことですか?10年前の悲劇を忘れたんですか?」

白さんは、何かを咎めるように、空音ちゃんにそういった。

「忘れるわけ無いでしょ。あの被害者は、私のお母さんなんだよ。でも、上からの依頼はやるしかないじゃない。私以上に、うまく騙りを使える人なんていないんだから。」

騙りの霊能者は、感情では泣けない。空音ちゃんが、私の感情器官をいじったせいか、私には彼女らの感情が、想いが、痛いほどに伝わってきた。言葉に出来ないほどに、複雑化した空音ちゃんの感情が、私の心を鷲掴みにする。見えない涙で、心の涙で、彼女は今、泣いているのだろう。

「そこまで感じてるなら、私はこれ以上言わないけど、あまり、瑠衣ちゃんのこといじらないでよ。」

私はもう、あんな偉黎さんの顔見たくないから――と、そう付け加えて、白さんは教室から出た。一体、誰なのだろう。偉黎さんというのは。所長からも、聞いたことのある名前だけど、私はあったこともなければ、見たこともない。

「瑠衣ちゃんも、いつか会うことになるかもね。偉黎さんに。」

「陸奥守さん。」

「駿でいいよ、学校だし。」

「駿さんは、あったことあるんですか?」

「もちろん。有名人だし、あの人。」

「ふーん。」

なんだか、私の話なのに、私だけ蚊帳の外だったような、そんな不思議な感覚だ。陸奥……駿さんも、会話にこそほとんど入ってなかったのに、その内容は理解していたのに、私には、あまりわからなかった。やっぱり、学校って不思議だ。――関係ないか。

「さて、白ちゃん居ないけど、確認会はしないとね。」

気を取り直して、と手をたたきながら言った空音ちゃんの感情は、あまり取り直されていなかったが、それだけ、確認会とやらは、大事なのだろう。駿さんの目にも、一瞬だけ哀れみが浮かんだが、すぐにいつもの光に戻った。

「瑠衣ちゃん。」

「はい。」

「なにか、気づいたことはあったかな?」

気づいたことというのは、やはり霊体化関連だろうか。

「朝、すれ違う生徒や職員の方々を体感ですが、観測してみたときは、観測可能範囲ですれ違った人数がおよそ120人、そのうち、霊体化していると思われるのが48人……つまり、4割程度だったのに対し、同じことを放課後に行った結果が、およそ250人中の150人……つまり、6割程度に増加していました。」

空音ちゃんは、うんうんと頷いて、「それから?」と促した。

「霊体化している生徒の1人の霊力密度を観測したところ、ほぼ、小山の鬼と同程度だったことから、正しくは、鬼化かと思われます。」

「つまり?」

「霊体化はあの鬼を討てば、最低でも停止、よければ霊体化以前の状態に戻るかと。」

なるほどね、そういうことかい。

久しぶりの本編です。お楽しみいただけたでしょうか。個人的に作画崩壊が起きていないか心配ですが、読者が楽しめるなら、万事OKです。機材の問題が解決したので、これから本編をどんどん投稿していこうかと思ってます。ぜひ、これからも楽しみに待っていてください。

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