表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
霊能物語  作者: 野沙朝臣
37/58

通達

 蓋棺虚神の分身が消滅した。

「本当に、退屈だったよね」

 私は、ボソリと小さく呟いた。

「なんかいいました?瑠衣さん」

 駿さんが、不思議そうに私を見上げている。

「ううん、何も」

「そうですか」

 駿さんはそう言って、あたりをキョロキョロと何かを探すように見た。

「なにか探してるんですか?」

「うん、瑠衣さんに釣られた時に、肉片とかいっぱい見たから」

 肉片?

「蓋棺虚神のっぽくなかったから、瑠衣さんのじゃないのかな?」

 そういえば、私の肉片があっちこっちに散らばってるのか。どうやって回収しよう……。回収するのは、かなり面倒くさいはずだ。

「私のだよ。でも、どうやって回収しよう?」

 駿さんは、何か考えるように視線をそらした。

「とりあえず、拾っていくしかないです。地道に」

 そうか、そうだよね。ここは、研究所じゃない。後始末を、誰かがやってくれるわけでも、システムが自動的にやってくれるわけでもない。普段はもっと別の役割を負った、全然別の場所なんだ。後始末をちゃんとしないと、機密を守りきれない。

「壊れた部分はどうしましょうか」

「そこも、僕らで直しましょう。瑠衣さん、構築系の霊能は使えますか?」

 私は首を横に振る。私が使えるのは、創造系であって構築系ではない。応用したら構築もできるらしいが、私にはそれができない。

「そうですか。では、空音達を呼んでください。手伝わせましょう」

 駿さんの機転に、私は胸が熱くなったが、同時に虚無な感覚も覚えた。私は最強だが、有能ではないのだと、自分の限界が見えた。それがたまらなく嬉しかった。

「瑠衣さん?」

「あ、うん。呼んでくるよ」

 私は校舎から飛び降りて、校門に張られている結界を殴って壊した。

「うわぁー。空音さんの予想当たってたけど、さすがにこれは……」

 結界を破ると、そこには微妙な表情をした鷹清くんが立っていた。

「うん。言わんとしていることはわかるよ、鷹清くん」

 なにかに同調した空音ちゃんが、うんうんと頷いている。

「何か、言いたいことでもあるの?」

「いや、全然そのままでいいと思います。僕は、最強キャラとか好きなんで」

「私も、瑠衣ちゃんのこと好きだよ」

 会話に取り残されたみたいで不服だが、好きだと言われたら掘り進めることはできまい。

「それで、どうして結界を壊したのかな?瑠衣ちゃん」

 まあ、大体予想はつくけど。と、空音ちゃんは付け足した。予想がつく、ということは、まだ心の中は読んでいないのだろう。

「肉片の回収……じゃなくて、校舎のヒビとかを直すのを手伝ってほしい。私は、構築系の霊能が使えないから」

 空音ちゃんは、うんうんと、わかっていたかのように頭を縦に振っている。

「わかった、手伝うよ」

「え!?二つ返事ですか!?今、もっと気になるワードが出てたよね!?」

 空音ちゃんは、荒ぶる鷹清くんをまあまあとなだめている。

「瑠衣ちゃんだから、どうせ派手な肉弾戦でもやったんじゃないかなぁ。校舎が残っていたのが奇跡だと思ってるよ?私は」

 倒置法まで使われてしまった。恥ずかしい話だが、ここに来て初めての戦闘で私は山を1つ消しているわけだから(山を削るようなことをしたのは私ではない)、仕方がないと思う。

「でも……」

 鷹清くんは、軽くいなされて不満そうだ。

「まあ、それについては後で話すよ。本部にも報告しとかないといけないから」

 この件は、私達以外のところも原因として関わってきている。私達だけで片付けた気になるというのは、幾分か早計だろう。

「……わかりました」

 鷹清くんは何か言いかけたが、それを飲み込んでしまった。肉片は私で回収しよう。手で拾っていけば、十分きれいになるだろう。面倒くさいが、どうやら人に任せられるものでもないようだ。


「駿さん、連れてきたよ」

「ありがとうございます」

 駿さんは、すでに1人で作業を始めていた。シゴデキなのかもしれない。構築系の霊能を使えないから、どうしても私は彼の手伝いはできないが、この作業が終わったら感謝の印として何か……クッキーでもあげよう。

「では、私は肉片の回収をしてきます」

 肉片、というワードに鷹清くんの耳がピクリと動いた。

「やっぱ肉片じゃないですか!」

「うん。うでと拳と脚と腹」

「めっちゃ落としてますね!?」

「自分で再生できるから……」

「すごい!けどあまり自分の体を無駄遣いしないでください!」

 中学生に言われてしまったら反省するしかないが、こればかりは弁明しないといけまい

「まあ、今回は乱暴に扱ってしまった節があるけど、詳しくはこれもまた後で話すよ」

 触れたものを任意で無に還すことができる。これが、分身になることで弱体化した能力。本体は無条件で無にできるらしい。今までなら、ここで終わっていた。

「蓋棺虚神への対策が変わるよ。それくらいの情報を得た」

 鷹清くんの目が大きく開いた。

「それは……ここでは話せませんね」

 情報漏洩の危険は小さい方がいい。あくまでアナログに限る。アナログの機密性には目を見張るものがある。鷹清くんは私に「わかりました」と言うと、私が戦闘の途中で壊してしまった校舎の修繕に取り掛かった。私はその様子を少し見た後、肉片の回収に向かう。

 とはいえ、肉片の数だけで言ったらそこまで多いわけでもないので、回収自体はすぐに終わったが、小さい肉片を回収し切ることはできなかった。そういうものは、燃やしてしまうしかないので、駿さんに許可を取ったうえで、運動場で燃やす。臭いはしないし、数分で終わるような作業だが、改めて蓋棺虚神の分身が厄介な相手であったことを痛感する。ここまで身を削ったのは久しぶりだ。

「瑠衣さん、終わりました?」

 駿さんが、校舎の修繕を終えたのか、私のところに来てそう聞いてきた。

「終わりました。腕とかも全部燃やしたけど、いいですよね?」

 駿さんは、少しびっくりしたような顔をしたが、少しの間の後「いいですよ」と言ってくれた。

「空音たちと合流しましょうか」

「はい」

 私は駿さんについていき、空音ちゃんたちと合流した。

「瑠衣ちゃん!」

「はい!」

「よく頑張ったね!」

 合流するなり、私は空音ちゃんに笑顔で褒められた。

「まさか瑠衣ちゃんの戦闘が、校舎にヒビ入れるくらいで終わるとは思ってなかったよ!」

 これは、どっちなんだろうか。煽られてるのか、褒められてるのか……。

「もちろん褒めてるよ。だって、瑠衣ちゃん桃斬童子と戦った時は山を1つ消してるし、螢と戦った時は家を地下に落としてるし。それと比べたら、校舎にヒビ入れるくらいは0に等しいよ」

 そこを言われると弱いところがあるが、果たしてこれは成長と言えるのか……。

「褒め言葉は素直に受け取りなよ。褒められてるんだし」

 それもそうか。

「じゃあ、修繕作業も終わったことだし、研究所まで戻ろうか」

 そういえば、井宗さんを待たせているのだった。井宗さんの霊力も有限だし、早く戻ったほうが良いだろう。

「何言ってるの?結界はもう張られてないよ。瑠衣ちゃんが壊したじゃない」

 そういえばそうだった。どうして、その後張り直されていないのだろう。私が不思議そうに首を傾げると、駿さんが答えてくれた。

「普通は、結界を何度も張ることはできません。空間に作用する霊能は霊力の消費量が多すぎるので、もっと丁寧に扱うものですよ」

 そうなんだ。知らなかった。

「まあ、瑠衣さんくらいの霊力量があれば、八度結界を1日に3,4回は張れるかもしれませんが、井宗さんの霊力量だと、今回張った五度結界でも1回が限界ですね」

 駿さんの物知りに感心していると、校門に着いた。

「お疲れ様です。何か収穫はありましたか?」

 車に乗り込むなり、井宗さんがそう聞いてきた。駿さんを見ると視線で私に答えるように促してきた。

「収穫はありすぎました。ここで話すのは危険すぎるので、研究所に戻ってからにします」

 井宗さんは「そうですか」と頷くと、車を走らせた。

「そういえば、先程、紅玉の方から連絡があったのですが、研究所が襲撃されたそうです。無事、防衛に成功したそうですが、襲撃犯の捕虜も自害したとのことでした」

「わかりました。ありがとうございます」

 淡々と、会話が進んでいくが、私の興味は別のところにあった。

「研究所に……蛇?」

 研究所の方向から、白蛇の気配が強く出ていた。神聖な白蛇の気配は、すぐに分かる。その残香ですら、強く感じる。

「え?何かあっちにあるんですか?」

 鷹清くんが、興味津々と言った感じで聞いてきた。

「ううん。終わった後みたい」

「なんですか、気になるじゃないですか」

 鷹清くんは少し食い下がったが、すぐに引いた。白蛇の本体は、しばらく姿を現していない。むやみに騒ぎ立てるのも、良くないだろう。

「それと、瑠衣さん」

 井宗さんが運転席から、私に少しきつめの声で呼びかけた。

「はい」

「本部から通達が来たそうです。研究所に着いたら、応接室の方へ一緒に行きましょう」

 本部から通達?

「わかりました」

 そんなやりとりをしている間に、研究所に着いた。研究所からはやっぱり白蛇の気配がしたが、白蛇そのものがいるような感覚はなかった。


「入ってください」

「はい」

 支部の研究所の応接室は、本部ほど豪華にはできていない。所長室に併設される形で、1つあるだけだ。

「初めまして、藤樹瑠衣さんですね。通達員の猪野と申します」

 応接室に入ると、壮年のきっちりとしたスーツに身を包んだ男性が1人立っていた。

「初めまして、戦闘員の藤樹瑠衣です」

 井宗さんは軽く会釈をするだけで、挨拶はしなかった。

「では、今回の通達内容をお伝えしますね」

 猪野さんは、村田所長の印が押された紙を、私の前に出した。

「はい」

「今回の通達は、本部の所長、村田終夜様からです。3日以内に、一度本部に戻ってくるように。とのことです。詳細は、本部に戻った時に伝える、と。通達は以上です」

 それでは、と言って猪野さんは席を立った。

「失礼します」

霊能物語本編第四篇「本部」第一話「通達」でした。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、評価とブックマークをお願いします。時間がある方は、感想も書いてくれるととても嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ